軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

くっちゃべりする

フューリーの案内で俺は魔族領に向かっていた。

転移でも徒歩でもなく、ところどころ腐りかけているアンデッドドラゴンの上に乗って足に使っている。

これはフューリーが呼び出したドラゴンだ。

やはり、一つの領土を取ろうと言うだけあって実力はあるようだ。

俺の眼で見ても底が知れないため、冒険者でもSランク以上にいることは間違いない。

しかし、だからこそ気になる。

既に領土を持っている七大魔貴族がどれほどの強さであるか、ということを。

ユセフとは戦闘をしたことがあるが、あいつは実戦経験がないようだった。

だが、もしも仮にユセフほどの魔力を持ち、歴戦を繰り広げてきた者がいたのなら――。

やはり苦戦は必至だろう。

そのためには魔族領のことを知る必要がある。

「なぁ、今の七大魔貴族の勢力図ってどんな感じなんだ?」

「勢力図? うーん、とね。今のところ六つの領土が埋まってるかな。アドリスタ領以外は全部支配者がいるよっ」

嬉々とした口調だ。

まるで警戒すらしていない。これから七大魔貴族を名乗るとすれば、彼はその三人と戦うだろうに。

「まず一つの領土を保持している魔族がいるんだけど、今回は気にしないでも大丈夫。大事になってくるのは、もう一人のクオーツ君かな」

「クオーツ?」

「そそ。二つの領土を持ってる魔族さ。めちゃくちゃ武闘派で今まで一度たりとも負けたことがないんだよ!」

「一度も……?」

戦闘は命の奪い合いだ。

生きていれば勝ちの方が多いだろう。

だが、一度たりともない、というのは不思議だ。

「ぬふふー! めっためた強いよね! 実際にその強さは紛れもないよ。ボクも見たことがあるからね! 受けた謀反は千を超してるけど無敗。先代の七大魔貴族のうちの二人を殺して成り上がってるんだよっ! 間違いなく魔王候補だね!」

「そうか。どんな戦い方をするんだ?」

「オールラウンダー、かな。肉体戦も魔法戦も全部をこなしてるよ! ――でもね、彼の強さはそこじゃないと思う」

フューリーが珍しく真剣な顔つきをする。

強い人や魔族が異端の力を持っているのは不思議ではないからこそ、その言葉はなんとなく理解できた。

思わず「と言うと?」と続きを促す。

しかし、

「さぁ?」

おちゃらけたようにフューリーが首を傾ける。

片眉が下がる。

「分からないのかよ」

「だって、これだ! って必殺技とかじゃないんだもん! 大量の炎を出したりだとか、鋭い剣戟を見せたりとかじゃないんだよ。『なぜか強い』って、そんな感じなんだ」

「へぇ」

強さの正体になんとなく候補が浮かばないでもない。

だが、やはり実際に見てみないと分かるものではない。

「あとね」

フューリーが言う。

「彼は六将っていう、またまた強い六人の将軍を仕えさせているんだよ」

他の七大魔貴族のことを言うのかと思えば違うらしい。

六人の将軍か。

「そいつらはどれくらい強い?」

「Sランクの魔物よりは強いよ!」

「全員が?」

「うん、全員が! 多分、人族で言うSランクの魔物が束になっても勝てないと思うよ!」

なんていう層の厚さだか。

まぁ、それぐらいでなければ七大魔貴族の領土を二つも支配できない、ということだろうか。

しかし、逆にそれだけのメンツがいながら他の領土を喰い切れていないのも不思議だな。

ふと、思う。

もしも、そんな奴らが試験を受けているAランク冒険者達――クエナ達とぶつかったらどうなるのか。

フィルは心配ないはずだ。あいつもフューリーの言うSランクの魔物が束になっても勝てない強さに該当する。

だが、クエナやシーラはどうだろうか。

はっきりと言ってしまえば勝てないだろう。

その強さには至っていない。

「どうしたの?」

ふと、問われる。

しかし、その質問の意図は読めなかった。

「なにがだ?」

「なんか心配そうな顔をしていたからさ」

「……心配そうな顔か」

特に意識はしていなかった。

だが、直近で考えていたことと言えばクエナとシーラのことだ。

彼女たちの負ける姿を想像していた。

それは嫌だ。

なにかムカムカしてくる。

心配そうな顔。

そんな顔もしていたのかもしれない。

しかし、それは俺の私情だ。

「気にするな。依頼には差し支えない」

もしもSランク試験が落ちそうであっても手助けはできない。

彼女たちもそれは望まないだろう。

「――そっか。そんな気がしたよ」

不思議な返答をするフューリー。

それに俺も彼女たちを心配している場合ではない。

クオーツに六将、それに数多の魔族を相手にしないといけないのだから。

「そういえば味方はどうなんだ?」

「味方?」

「ああ。いるだろ? 一つの領土を取ろうって言うのなら千や二千くらい……」

「あはは。いないよっ。ジード君だけ!」

清々しい笑顔でフューリーが言う。

……えっ?

てっきり俺は勢力の一つでも持っているのかと思っていた。

だが、蓋を開けてみれば二人だけ?

これは……いや。確認していなかった俺が悪い。

かなり勢いに任せて一緒に行ってしまったし、依頼を引き受けてしまったが……。

「せめてリフも確認してくれよ……」

「それだけ信頼しているってことじゃないかなっ」

「物騒な信頼のされ方だな」

「ぬふふ。でもギルドで一番すごいって言われている人よりも、ジード君の方が信頼されているんじゃないかな。こんなギルドの分水嶺になるほどの依頼なんだから」

一番すごい人? そいつにも会ったのだろうか。

だが、それよりも気になったのはギルドの分水嶺とやらだ。

「どういうことだ? たしかに大きな依頼ではあるが命運を分けるほどでは……」

「ジード君が考えているよりも、とんでもないことになっているよっ。それは依頼金とかじゃなくて、僕が得た魔族領にギルド支部を立てるって話」

「……っていうと?」

「人族と魔族の繋がりにもなるし、仮に魔族が潰されてもギルドは残る。とんでもなく商売上手だと思うよ。普通は断って然るべきだし。でも、ジード君っていう切り札があるからリスクを考えてもリターンを取ったわけだ」

「難しいな」

色んな部分が省略されている。

だが、それを詳しく説明するには時間がないのだろう。

フューリーが前を見て口にした。

「ん。そろそろ魔族領かな」

一目で分かる。

人族と魔族の境界線がくっきりと。

こちら側はまだ青緑色に輝く草原が風になびいているが、とある地点からは薄暗く荒々しい岩場が続いていた。