軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

へい

翌朝になった。

シルレと数人のエルフと共にダークエルフの土地にまで来た。

『神樹の加護が届かない』というから遠い場所を想像していたが、予想よりは遥かに近い。森と森の間に草原などはなく、ただ光差すようなエルフの森とは違い、幽暗とした雰囲気で「ああ、ダークエルフの領地に入ったのだな」と気づく。

少し歩み進んでいるとダークエルフの一団と出会う。敵意はない。

探知魔法を展開済みなので存在には気づいていた。周囲に隠れているやつもいなそうだ。

「オプティさん、どうも」

「ようこそ、シルレ様。これよりは私が責任を持ってご案内いたします」

オプティと呼ばれた中年ほどの男は頭を軽く下げながら歓迎した。

ダークエルフ。

長い耳はエルフと同じだが、肌色は反対の褐色だ。

オプティといえば穏健派とシルレが言っていた奴になる。この話し合いのセッティングも彼がしたのだろう。

それから彼の案内の下、ダークエルフの領地を歩く。

……随分と魔物の気配が多い。

エルフの方も自然溢れる森だったから魔物は人族よりも多かった。しかし、互いの領域を犯すことなく共存していた。

だが、ここは常に喧騒に包まれている。油断のできない森のようだ。

「ここです」

着いた場所は大きな家屋だ。

ダークエルフの里の中ではないようだな。

辺りに人の影はなく、中に数人いる程度だ。

シルレが先に入り、後から続く。

中は質素なもので円卓を囲むように椅子があった。

先客のダークエルフで座っている者は二人だ。

一人は普通だが、もう一人は老けている態度の大きそうな男だ。

普通な方が立ち上がる。

「どうも、エイトスと申します」

エイトス。おそらく中立派だった方の男だろう。

あまり敵意を見せずに礼をした。

「初めまして。エルフ姫のシルレです」

「――おい!」

シルレが名乗った辺りで怒号が響く。

それは不遜な男の方だった。そいつは俺の方を睨むように見ている。

「なんで人族がいるんだ! ここは神聖なダークエルフの大地だぞ!」

神聖なダークエルフの大地、ね。それにしては魔物の気配が大部分を占めているようだがな。

「申し訳ありません。ダプト様」

「ふんっ、舐めた真似をしやがって」

どうやらシルレは知った顔のようだ。

ダプト、そう呼ばれた男はシルレが大人しく謝ると愚痴を吐き捨てた。威嚇を込めた虚勢だったのだろう。

俺が人族じゃなくとも何かしらの嫌味を見つけていたのかもしれない。

それからオプティとシルレが席に着いてから話し合いが始まる。俺は護衛のためにシルレの背後に付いている。

――話し合いはあまり良いものではなかった。

エルフが現在、保有している領地の半分をダークエルフに譲渡すること。また資源を無条件で提供すること。

あまりに理不尽な条件が敷かれていく。

シルレはなんとか妥協点を探しているようだが、どうにも話がまとまらない。オプティもフォローしているが中立派のエイトスと過激派のダプトが譲ろうとしない。

もう彼らの中には戦争の一択しかないほどだ。

(それでも……)

ダークエルフ側は話し合おうとはしている。

なぜか。

オプティが会談をするように説得したからだろうか。それにしてはかなり粘っている。

本音は戦いたくないのかもしれない。

どうしてだ。弱っているエルフを叩くなら今しかない。むしろ話し合うことでこちらが時間を稼ぐことにも繋がる――。

どうにも腑に落ちない態度だ。

――ふと、探知魔法に巨大な存在が引っかかる。それも幾つも。

あまり広く展開していなかったため気づくのに遅れた。すでにかなり接近されている。

外も喧騒に包まれてきた。

「し、失礼しますーッ!」

ダークエルフが入ってきた。

顔には一面の汗を垂らしており、その緊急性が伝わる。

「――大量の黒竜が我らの領地に――!」

「なにぃっ!?」

ダプトが飛び跳ねる。

黒竜か。

――まぁ、探知魔法にかかった時点で分かっていた。

見知った魔力の痕跡だったからな。

「ジードさん」

大丈夫? と言わんばかりにこっちを見てくる。

安心させるために笑みを浮かべて頷く。

「平気だ。俺が行く」

外に出る。

後ろから様子を見るためにシルレやダークエルフ達も付いてくる。

太陽の光があまり届かないほど大木が密接に絡まった隙間からでも、巨大な影が空高くで蠢ているのが分かる。

肉眼だけでも十匹は確認できるだろう。

ちらり、と先頭の黒竜と目が合う。

すると喜びを身体で表すかのように突風のようにこちら目掛けて飛んできた。

ダークエルフ達が反撃に出ようと魔法陣を展開する。――が、下手に攻撃されても面倒なので魔力で消し飛ばしておく。

はてなマークが浮かんでいるようだが、説明をする前にドシンっと自重を地面に投げて降りてきた黒竜達が先だった。

「久しぶりだな、ジード!」

「おう、まさか会いに来るとは思わなかったが」

「ふふ、土竜王に聞いたら待てなくてなっ! 元気そうでなによりだ!」

快活にウキウキした姿を見せながらロロアが言う。

フリフリしている尻尾が地面に当たる度にえげつない音を出している。

ロロア以外の黒竜は近くに着地していたり、降りれるスペースがないからと大木の上や空中を飛んでいる。

「ジ、ジードさん、その黒龍は……」

シルレが恐る恐る声をかけてくる。

「ああ、昔ちょっとあってな。害をなそうってわけじゃないから気にしなくても良い」

見ると誰もが警戒している。これはちょっとマズいな。

視界が良好じゃない土地だったから良かったが、もしもこれが王都近辺だったりエルフの里だったりしたら大変な騒ぎだっただろう。

「悪いな。今は依頼中なんだ。また時間を見つけて会いに行くから今日のところは土竜王のところにでも居ててくれないか」

「ぐぬぅ。王竜の血族たる私にそんな態度……! 本来ならあり得ないところだがジードだからな! 待っててやる!」

「ああ、悪いな」

言うとロロアが飛び立つ。

「待っているからなー!」

ロロアが嵐のように去り、会議が再開した。

一時は騒然としていたが、危害がないと分かる様に振舞ったため落ち着きを取り戻している。

「お騒がせしてしまい、申し訳ありません」

シルレが俺の代わりに謝罪する。

そこでダプトが腕を組んでふんぞり返る。

「ふん、あの程度の魔物が来たから騒ぐとは、貧弱なエルフらしい。我らダークエルフは日常茶飯事だ。それでは議題に戻るとしようじゃないか」

強く見せるように言ったダプトが不意に隣の席に座る中立派のエイトスを見る。――エイトスはブルブルと震えていた。

エイトスが俺を一瞥して、シルレの方を向きなおす。

最初の頃とは違い、随分よそよそしい。

「そこの人族の……ジードさんとは何者なのですか……?」

すごい今更な質問だな。

今までは眼中になかったようだ。一人だけエルフとは違う異物であるにも関わらず。

「彼はエルフが協力を仰いでいるギルドの冒険者です」

「Sランク冒険者のジードだ。よろしく頼む」

彼らも客になるかもしれない者達だ。

念のために挨拶しておく。

しかし、誰もが警戒から返事をしようとしない。

代わりにエイトスが顔を俯かせる。

「……そ、そうですか」

かなり怯んでいる。

さっきの黒竜達の来訪が響いたのだろう。あれは威圧するには十分すぎるほどの戦力だからな。

「――ッ! ふざけるなぁ!」

円卓を殴りつけながらダプトが立ち上がる。

そして俺に指さした。

「エルフはそこの人族とドラゴンに操られているのだろう! こんなパフォーマンスをしてなにが楽しい!」

「パ、パフォーマンス……?」

急な発狂にシルレが戸惑う。

というか、ダークエルフ側も突然のことに驚いているようだ。誰もがダプトの方に視線を集めている。

「パフォーマンスだろうが! あのように竜族を大量に寄こして、こちらの出端をくじこうとするな!」

あの程度の魔物は日常茶飯事じゃないんかい。

「いえ、あれは予想外のことです。そもそも我々は争うつもりは……」

「ええい、黙れ! 貴様らとは交渉の余地がないようだな!?」

ダプトが席を離れる。

それからエイトスの方にまで向かい、片手を鷲掴みして立たせる。

「来い、帰るぞ!」

どうやら及び腰になったエイトスに勘付いての行動らしい。

しかし、エイトスはそんなダプトには乗り気じゃない様子だ。

「な、なぁ……ダプト。もしかすると彼なら……」

「……貴様ッ!」

なにかを言いかけたエイトス。

しかし、言い切る前にダプトが腕を振り上げる。

殴りはしない。脅しだ。それ以上を喋らせないためのものだ。

「ダークエルフの矜持を忘れるな! あの人族が協力だと!? 笑わせるな! 乗っ取りに来ているだけだ!」

そう言うとエイトスを引きずるようにしてダプト達が外に出て行った。

魔力の気配がどんどん離れていく。

なんともあっけない幕引きだ。

シルレに問う。

「止めなくてよかったのか?」

「あれは私が干渉できることではありませんでしたから」

「そうか。悪かったな、場を乱してしまって」

結果的にこうなってしまったのは俺のミスだ。

黒竜を意図しないこととは言え招いてしまった。ダークエルフとエルフの交渉の場に呑気に赴いてしまった。

迂闊なことが多いな。

だが、俺の考えに反してシルレが微笑む。

「むしろ感謝していますよ。もしもあのまま続けていても平行線でした。どちらかが譲るまでの頑固な言い合いです。エルフもダークエルフも交渉には不慣れですから、ああやって強情な何かを突き崩せるものが欲しいのです」

場に残っていたオプティも併せて頷いた。

「少なくともエイトスの考えは変わったはずです。これで事態が好転すれば良いのですが。また必ず会談の場を設けますので、その際はよろしくお願いします」

オプティが頭を下げて部屋から立ち去った。

「それじゃあ私達も行きましょうか」

「ああ」

最後にエルフ勢が立った。