軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

べいべい

いよいよ、俺以外の三人が帰る日になった。

着いた時と同様にギルド支部の前にいる。

「ジードも帰らないのか?」

「俺はあまり外の世界を知らないからな。一日くらい観光してるよ」

「そうか。……といっても、エルフの世界を知っている奴なんて少数だろうが」

「だからこその観光だ。知見は知識になる」

俺には他の奴よりもロスがある。

たった一日分の滞在でも、それは俺の情報になり得る。

「ふ。例え長くいても樹液は飲めないぞ?」

釘を刺すようにフィルが言う。

「分かってるさ……だが、飲んでみたかったな」

結局、なんとか確保できていた分は魔物達に回された。

次に神樹が開花するのはどれくらいになるのか……。艶やかで美味しそうな姿を思い浮かべると、今にもお腹が鳴りそうに――。

「ん?」

ふと、地面の奥底から魔力を感じた。

ソリアが俺の異変を察知して問うてくる。

「ど、どうしました?」

「いや、これは――」

ぼこりっ、と遠慮がちに地面が盛り上がる。

突然のことにフィルが警戒しながら剣を抜く。ユイも一歩下がった。

俺もソリアの安全を確保するため間に入る。

「すっみませんでしたぁぁっ!」

言いながら出てきたのは、いつぞやの土竜王だった。

それは両手足を地面に揃え、頭を付けながら俺に向かって言ってきた。

前に出会った時とは真反対の態度を取っている。

「まさかあのジードさんとはつゆ知らず不躾な態度を取ってしまいましたぁ! 田舎竜如きが調子に乗りました!! ご容赦をおおお!」

半泣きの状態で縋りついてくる。

なまじ巨体だけあって周囲の建物が壊れないか心配だ。

「これ! 樹液です! どうぞお納めください!!」

土竜王が更に続けて言った。

木の樽に入れられた樹液を差し出してきながら。

「……急にどうした? てか、なんで俺のことを?」

「ジードさんですよね? ロロアが貴方のことをずっと『化け物みたいな人族がいる!』と言っていましたよ……?」

「ロロア?」

まったく身に覚えの無い名前だ。

俺が戸惑っているのを察した土竜王が首を傾げる。

「あれ、黒竜王の一人娘ですよ。覚えてらっしゃらないですか?」

「黒竜王……の一人娘……」

記憶を辿っていく。

ふと、神聖共和国での一件を思い出す。

「そういえば、なんか捕まってたやつが一匹いたな」

王竜の血統だとかで偉い騒ぎになって、大軍の竜が押し寄せてきていた。

結局なんとか大きな争いにはならなかったが、一歩間違えれば大惨事だっただろう。

「それです、それです! そいつがめちゃくちゃジードさんのこと話してて竜族でも噂で持ち切りなんですよ」

「……そうなのか。それで俺に樹液を?」

おそらく暴れた罪滅ぼしのつもりなのだろう。

もしくは献上品ってやつか。

土竜王が俺の問いに答えるよう頷く。

「ええ。ぜひ!」

「いや、でもこれおまえの分だろ?」

「我の分は地面に染み込んだ樹液がありますから!」

土竜王が健気に言う。

地面をちゅーちゅー吸うのだろうか。なんともシュールな姿を想像してしまう。

「なら貰おうかな。実はちょっと興味があったんだ」

「ええ、どうぞ!」

土竜王の見た目に反して、木の樽に入ってる樹液は少ない。小瓶を数本満たして終わりだろう。

俺はパーティーメンバーの三人を見て言う。

「よし、じゃあ土竜王の好意に甘えて四人で分け合うか」

「んっ」

ユイがどこからか四本の瓶を取り出した。

入り口が狭く、容量の貯まる部分が大きい。フラスコだ。器用に指で挟めている。

というか、ユイがこうまで感情が露わになるのも珍しいな。

料理が得意そうだっただけあり、食材や美味しい物なんかには目がないのだろうか。

ユイからフラスコを預かり、樽から樹液を汲む。

汲み終えたら、それぞれに一本ずつ渡していく。

ちょうど四人分で樽の中身がなくなった。

「すみませーん!」

と、ルックの声がする。

支部の扉を開けながらこちらに顔を覗かせていた。

「そろそろ転移のマジックアイテムの接続が切れるので早めにお願いしますっ!」

「ってことらしいな。それじゃ樹液は各自で楽しむということで」

飲料としても使えるのだろうが、かなりドロドロとしているのでここで一気に乾杯もできないだろう。

「……!?」

『なんだと……?』と言わんばかりの顔をフィルがする。

それにソリアが代弁する。

「せっかくパーティーで集まれたのに……無念です」

「まあ、また集まるときもあるさ。その時は別のものでも食べよう」

「はいっ。また、絶対に会いましょう!」

「ああ」

こればかりは仕方がない。

ソリア達がギルド支部の中に入って行く。

不意にユイがこちらに戻って来た。

フィルが目ざとくユイを見る。

「ユイ、どうした?」

「忘れ物。先に行ってて」

「ない。確認済みだ。戻って来い」

「ある」

と、口論を始めて行く。

なんだ? どういうことだ? フィルの口調はまるでこうなることが分かっているような……

「やはり貴様、私とソリア様を先に行かせて自分だけジードとエルフの里に残るつもりだな!? 体の良い言い訳をしおって!」

「違う。先に行ってて」

「だぁぁぁ! ジードを狙っているのに私達と一緒に先に帰るなんておかしいと思ったんだ! 絶対に残らせないからな!」

なんて争いしてんだ、こいつら。

結局フィルがユイを引きずりながら支部の中に入って行った。

外の窓から彼女たちが王都に向かう様子が見える。

最後に彼女たちは俺に手を振ってきた。

「じゃあな」

届くか分からない声と共に、彼女たちに手を振り返す。

しばらくして、彼女たちの姿は光に包まれながら消えていった。

「さて、じゃあ俺も行くよ」

なぜか残っている土竜王に断っておく。

「あ、一ついいですか?」

最初の頃より小物感が随分と増している。

まるでドラゴンから置物になったような感覚だ。

「なんだ?」

「黒竜王の娘がジードさんに会いたいそうなんですが、セッティングとかしてあげて欲しいんですが」

「それなら会える日を聞いておいてくれ。そうしたら俺の方で都合をつけておくよ」

「了解でさ!」

ビシッと土竜王が器用に敬礼する。

用事は済んだとばかりに土竜王が地面に潜っていく。

かなりの巨体だからいちいち影響が大きい。だが、繊細に気を使っているのか被害はないようだ。潜っていった場所は元の地面と遜色がない。

踏んでみたが固さもある。本当に器用だ。

『王』ってだけある。

ふと――人の気配を感じる。

思い悩んでいるような、そんなシルレと鉢合わせた。

「なにやってんだ?」

「ジードさん……! いえ、私は……」

俺を見ると一瞬だけ嬉々とした顔になる。

しかし、すぐに陰りを見せた。

「どうした?」

「……その。依頼をしたいんです」

深刻な顔でシルレがそう言った。