軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第92話 奇妙な依頼と空飛ぶおもちゃ

「……これは?」

歩きながらなんとなく目に留まり、俺が楕円形と言うか円柱形のような形をした物体を指さすと、ラウラは頷いて説明してくれる。

「それは魔道具、というよりかは模型ですね。主に西方地域を飛んでいる飛空艇というものです。もちろん、本物同様に動きますよ。こうしてですね……」

ラウラがそう言って魔石を持ち、その飛空艇の模型にそこから魔力を注いで、それから手に何かを持って何かを念じた。

すると、飛空艇の模型から煙が噴き出してきて、それから空中に浮かび出す。

ラウラは続ける。

「今、実際に飛んでいるものは魔力ではなく、蒸気の力で動いていますから、厳密には模型とは言えないのですが……それを模したおもちゃ、のようなものと言ったところでしょうか」

そう言った。

飛空艇の話は聞いたことがある。

ただ、乗ったことは無い。

なにせ、飛空艇はラウラが言う通り、西方地域を飛んでいる代物であり、こんな辺境国家でしかないヤーラン王国まで飛んできたりしてはくれない。

まぁ、王都で行われた何かの祭りのときに来た、とは聞いた覚えがあるが、せいぜいその程度だ。

それに加え、乗れる人間は、運賃の高額さからそれなりに財力がある人間に限られる。

銅級冒険者に過ぎなかった俺には、全く縁のない交通手段だった、というわけだ。

しかし、それの模型が目の前にあり、そしてびゅんびゅん飛んでいるのを見ると何だか楽しくなってくる。

ラウラが持っている石のような物体は飛行機を操縦することが出来る 操縦器(コントローラー) というものらしく、

「……操縦してみますか?」

と差し出され、尋ねられたので、俺は頷いた。

やり方は簡単で、 操縦器(コントローラー) を握りながら、飛空艇の進む方向や高度を念じるだけである。

実際、やってみると恐ろしく楽しかった。

空なんて、特殊な魔術を身に付けた魔術師などの例外を除いて、人間が飛べるものではないから、憧れも大きいのだ。

飛空艇に乗れば空の旅が出来るのは事実だが、それが出来るほどの経済力はまだまだない。

そんな俺に、こんな機会が訪れれば嬉々として活用してしまうのは至極当然の話だった。

「楽しいですか?」

ラウラに尋ねられたので、俺は頷く。

「あぁ……ほしくなったな……」

「では、それに?」

「いや……」

確かに、欲しいは欲しい。

しかし流石におもちゃを持って帰ると言うのは……。

心の中の俺の少年の部分が、ぜひにこれをもらおうぜ、と言っているが、大人の俺はそんな馬鹿なことしないでもっと役に立つ物を選びなさい、と言っている。

後者の方が正しい。

正しいのは分かっているが、世の中正しさだけで生きていって楽しいと思っているのか?と俺の中の少年は畳みかける。

……いや、さぁ……確かにそうなんだけど。

そうなんだけど、ここは断腸の思いで……。

と俺が決意しかけたところで、ラウラがさらに言った。

「そんなに楽しいのであれば、他の機能も使ってみては? あの模型に、意識を集中してみてください」

そう言われて、俺はその通りにした。

すると、今まで見上げていたはずの視点がパッと変わり、模型から見下ろしたような視点になる。

下方にはこちらを見上げる仮面ローブ男と、そして美しい少女の姿が見えた。

「……っ!? なんだ、これは……」

慌てると、視点は元の位置に戻り、目の前にラウラの姿が目に入った。

彼女は言う。

「あの模型には意識を乗せられるんです。模型、と言いましたが、実のところ、今、世の中を飛んでいる飛空艇を模してあれが作られたわけではなく、あの模型を模して、飛空艇の方が作られたんですよ。あれは迷宮産出品ですので」

つまり今、飛んでいる飛空艇は発明されたもの、というよりかは迷宮産出品の模倣で作られた、ということだろう。

世の中に広がっている魔道具と同じ過程で作り出されたわけだ。

それなのに魔力だけで動くこの模型とは違い、蒸気で、というのは完全に模倣するのが難しかったからだろうな。

迷宮産出品は、解析・分解してもその詳しい仕組みを完全に理解しきるのは難しいのだ。

それでも似たようなものを作ろうとするなら、工夫や発明がいるというわけである。

しかし、意識を乗せられる、か。

俺は改めて模型に意識を集中する。

すると、模型の先端から世界を見つめているような視点になった。

これは、ただのおもちゃだ、と思っていたがそんなことはなく、有用そうな品である。

これを使えばかなり遠くの状況を空から見ることも出来るのではないだろうか。

偵察にはもってこいの品だろう。

俺がそうラウラに言えば、

「そうですね……そういう使い方も出来るでしょう。ただ、魔力の関係であまり長距離を飛ぶのは難しいですから、使いどころは選ぶかもしれません。少し先を覗く、もしくは空から周囲を観察する、くらいの使い方が出来るかなと言ったところでしょうか」

確かに、先ほどラウラが魔石からそれなりに魔力を込めていたのに、もうかなり目減りしていることが分かる。

あれくらい注いで五分程度で尽きるとなると……ずっと飛ばし続けるのは難しそうだった。

遠くまで行けないとなると、いくら意識を乗せられるといっても、使いどころは難しいかもしれない。

魔力が多量にあるならともかく、さっきライラの使った魔石はかなり大きかったからな。

俺が全力で魔力を注いでも十分は持たないかもしれないと考えると、微妙だ。

「……わるくないとおもったんだが」

「そちらはやめておかれますか?」

そう尋ねられたので、俺は少し考えてから答えた。

「……いや、ほりゅう、にしておこう。けっきょくこれがいい、となるかもしれないからな……」

今は大して使えないかもしれないが、そのうち魔力が増えていけば長く飛ばすことが出来るようになるかもしれない。

それに、遊んで楽しかったし……。

とは言わないが、そういうところもないではなかった。

ともかく、他にも見てみようと、俺は再度、ラウラとイザークと地下室を歩く。

◆◇◆◇◆

それから、色々な魔道具を見せてもらった。

飛空艇の模型以外にも、障壁を張る魔道具とか、自分自身を空中に浮かべるもの、毒の無効化ができるもの、魔力を刃にできる武器、魔力を注げば自動的に戦ってくれる鎧や、爆炎のような炎を発射する筒などなど、こんな魔道具があったのか、と思うものがたくさんあった。

中でも一番気になったのは、最初に見た飛空艇の模型と、それから声を変えることの出来る魔道具である。

前者は言うまでもなく楽しかったからだが、後者は今の俺の声の聞き取りにくさがかなり改善されるのでいいなと思ったのだ。

問題は、後者はいずれ必要なくなるかもしれないということだが……。

「お決まりになりましたか?」

俺が優柔不断に悩み続けているのに、ラウラは嫌な顔一つせず、待ち続けてくれている。

非常にありがたく、かつ申し訳ない気分になってくるが、これはかなり今後に関わる大きな選択なのだ。

時間をかけることを許してもらわざるを得ない。

まぁ、別に気にしている様子はないのだが。

「じつのところ、なやんでいる……どうしたものか……ん?」

顎を摩りながら、周囲を見回しつつそんなことを言うと、俺の目にふと、妙なものが飛び込んできた。

俺は素直に尋ねる。

「あれは?」

ラウラは、

「あぁ、あれは……まぁ、見てのとおり、魔物の素材などですね。魔道具ではないのですが、気になるものもありまして、少しだけ集めているのです」

そう答える。

量を見るに、少しだけ、などという数ではないのだが、しかしラトゥール家からすれば本当にそんな感覚なのかもしれなかった。

竜の鱗や、ユニコーンの角、巨人の骨やら、売り払えば目も飛びでるような金額になるだろうものが所狭しと置かれている。

すごいな……と思いつつ、少し見せてもらうと、俺の目にふっと気になるものが映った。

俺の視線を見て、ラウラが言う。

「……それが気になるのですか?」

「あぁ。まぁな」

俺が頷くと、ラウラはそれを手に取った。

細長い、透き通った水晶で作られた容器だ。

中には赤黒い液体が入れられている。

ラウラは言う。

「これは、 吸血鬼(ヴァンパイア) の血液ですね。武具や魔道具の製作や魔法薬の調合の際に触媒として使われるものですが……」