軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第85話 奇妙な依頼と依頼主

次の日。

冒険者組合(ギルド) に入ると、慌てた様子のシェイラが近寄ってきて、

「れれ、レントさん! ちょっと!」

と、話しかけてきた。

俺は先日のタラスクの素材の扱いがどうなったか、とりあえず尋ねに来ただけだったのだが、そういうわけにもいかなさそうなことをそれで察する。

「……どうしたんだ?」

俺がそう尋ねると、

「とりあえず、こちらに……」

と言われて、奥の部屋に通された。

そこは 冒険者組合(ギルド) に設けられたいくつかの応接室の一つで、冒険者と言うよりかは依頼主向けにある部屋である。

依頼内容が複雑で細かい相談が必要な場合や、依頼自体の規模が大きい場合などにこの部屋に依頼主を案内して話し合う訳である。

まぁ、つまりは基本的に依頼主がある程度以上の経済力か権力を持っている場合に使われる部屋と言うことである。

必ずしもそれだけではないということは、今、俺が通されていることからも分かるが、秘密の話をするにはもってこいの部屋なのだ。

そんなところに俺を通した理由は……?

シェイラは口を開く。

手には一通の依頼書を持ちながら。

「……レントさん。あの、レントさんって、ラトゥール家の方とお知り合いだったんですか?」

おずおずとした口調で、されたその質問に、俺は首を傾げる。

なぜなら、その家名に俺は聞き覚えがないからだ。

だから正直に言う。

「……いや? なぜそんなことをきく? そのいらいしょか?」

するとシェイラは首を傾げつつ、依頼書を、

「ええ……実は、レントさんに指名依頼が入ってまして……」

と言いながら渡してきた。

俺はそれを受け取り、内容を読み込む。

そこには《タラスクの沼》で週一度定期的に《竜血花》を採取することと、ついこないだまでスライムやゴブリンを狩りながら生計を立てていた俺からすれば信じられないほど高額の報酬が記載してあった。

そして、その依頼者の名前は……。

「あぁ、なにかとおもえば、いざーく、からのいらいか」

あの《タラスクの沼》で出遭った男、イザーク・ハルトの名前が記載してあった。

この俺の反応に、シェイラは、

「……やっぱりお知り合いなんですね……」

と驚いたような、唖然としたような、そんな表情で俺を見ている。

なぜそんなに驚いているのか、と思うが、それは先ほど彼女が言った家名に関係するのだろう。

そして、イザークは主がいるという話をしていた。

そこからすれば、話はなんとなく想像できる。

「いざーくがつとめているいえが、その、らとぅーる、といういえなのか?」

そういうことだろう。

俺の推論はどうやら正解のようで、シェイラは頷く。

「ええ……ラトゥール家はこの都市マルトでも古い家系で、その運営に昔から関わっているんですよ。 冒険者組合(ギルド) との付き合いも長いみたいで……マルトの 冒険者組合(ギルド) が珍しく気を遣わなければならない相手と言うか」

その言い方に色々と奥歯に物が挟まったようなところがあることが、なるほどラトゥール家の都市マルトにおける権力のようなものを示しているように感じられる。

しかしイザークはそこまで悪い印象は受けなかったけどな。

気になって俺は尋ねる。

「なにか、けんりょくをふりかざして、いたけだかなようきゅうをしてくるようないえ、なのか?」

「いえ、それは違います。むしろ、最近はかなり穏やかと言うか、ほとんど干渉はしてきませんね。ただ、マルトにおける発言力が衰えたわけではないので、やはり気を遣うという感じで……」

やはり、その説明は曖昧なところが多かった。

そもそも……。

「らとぅーるけ、というのはきぞくなのか?」

この国ヤーラン王国にも当然、貴族はいる。

上から公侯伯子男という順番で爵位の序列が決められている。

まぁ、そもそもが田舎国家であるから、公爵が農作業をしていたり伯爵が商売していたりとあまり大きな国と比べると自由と言うか貴族感の薄い愉快な人たちが多いのだが、それはとりあえず置いておこう。

俺の質問にシェイラは、

「そうではないようですね。ただ、古い家、というだけです。古くからこの街にあり、その運営に多大なる寄与をしてきた。そう聞いています。だから、無下に扱ってはならないのだ、と。この都市マルト一帯を治める領主のロートネル子爵もラトゥール家とは繋がりが深いと聞いていますが……正直なところを言いますと、 冒険者組合(ギルド) 職員でもある私にも詳しくはよくわからない家なんです。何かと秘密主義と言うか。でも 冒険者組合長(ギルドマスター) は絶対に粗相がないようにと強く言うもので……今回のこの依頼についても、レントさんがまずいことをしないようによく言っておけと言われまして」

「……いったいなにものなんだ」

「ですから、詳しいことは分かりません。でも、マルトの運営に昔から関わっている古い家系で、領主一族と深い親交がある、というだけですでに粗相は出来る相手ではないです。つまり、レントさん、この指名依頼はマルトで生きていくつもりなら断ることは出来ません」

シェイラはそう断言した。

……酷い話である。

ただ《タラスクの沼》で会っただけなのに、とんでもない者とかかわりを持ってしまったらしい。

まぁ、そもそも断る気はない。

報酬もいいし、依頼主はそのラトゥール家ではなく、イザーク・ハルトなのだ。

彼は依頼について内容を見て、納得したら受けてくれと言う話をしていた。

冒険者組合(ギルド) としては絶対に断ってほしくはなさそうだが、断りたいなら実際に会って、無理だと言えばおそらく納得してもらえるだろうと思われた。

いつもの依頼受注と大して変わらず、俺としては問題は感じない。

ただ、イザークの仕えるラトゥール家が一体どんな家なのか、その詳細については気になるところだが…… 冒険者組合(ギルド) 職員でも下っ端には教えてくれないと言うのだ。

知りたいなら本人に尋ねるしかないだろう。

周りの冒険者や知り合いに尋ねてみる、という方法も思いつかないわけでもないが、俺はこのマルトで十年冒険者をやってきた。

大した腕はしていなかったのは間違いないが、少なくともマルトのことについてはそれなりに知っているつもりでいた。

それなのに、俺はラトゥール家については知らない。

都市運営に関わる古い家なんて、いくつも知っているが、しかしその中にラトゥールの名前はないのだ。

一体……。

まぁ、その辺はイザークが知っているだろう。

教えてくれるかどうかは分からないけどな。

色々と考えた俺は、シェイラに言う。

「いらいをことわるつもりはない。《たらすくのぬま》で、いざーくともはなしたしな。あそこにいって、《りゅうけつか》をとってくることは、おれにはそこまでたいへんでもないこともわかった。だから、うけるさ」

「本当ですか? でも……大丈夫でしょうか。その、レントさんは……」

その先は言わなかったが、彼女の言いたいことは理解できる。

俺が魔物であるのに、ラトゥール家、などというおそらくは都市マルトの上層部と深いつながりのある家と関わっても平気なのかということだ。

もしばれれば、俺はマルトから追放されるどころか、マルト中の人間から狙われてしまう可能性がある。

最終的に行きつくところは、それこそ討伐ではないか。

そう思ったのだろう。

しかし、俺は首を振る。

「このみためでは、そうかんたんには、わからないからな。じじつ、いざーくも、あったときはきにしてなかった」

あのとき指摘されなかった以上、改めて俺の格好を問題にするとも考えにくい。

問題があるとすれば、ラトゥール家の当主とかに会わせられて、その際に仮面やローブは失礼だ、と言われることだろうが……酸で焼かれて醜いのでそちらの方が礼を失するとかなんとかいえばどうにかなるだろう。

無理ならそれこそ依頼自体断ってしまえばいい。

イザークも、自分で言ったことをひっくり返したりはしないだろう。

そういうことをしそうなタイプには見えなかった。

シェイラはそんな俺に、

「……何かあったら、言ってくださいね。私に何が出来るか分かりませんけれど、可能な限り、力になりますから」

そう言ってくれたので、俺は頷いて、シェイラの肩をぽんと叩き、応接室を出たのだった。