作品タイトル不明
第81話 銅級冒険者レントと広がった網
解体場にタラスクを置き、ついでに他に色々と得てきた素材関係についても解体すべきものは解体場に、植物などの類はシェイラに渡しておいた。
量が結構あるので、その場で即座に査定は出ず、後日と言うことになったがそれでも十分な金額になるだろう。
そして、残ったのは《竜血花》である。
孤児院でアリゼとリリアンが待っていることだろう。
……いや、リリアンは待ってないか。何も知らないからな。
ともかく、俺は 冒険者組合(ギルド) を出て、孤児院に向かう。
◆◇◆◇◆
――ばきり。
と、音がして俺は茫然とした。
そうだった、ここのノッカーは壊れていたんだった、とそのとき思い出したからだ。
壊れていたというか、俺が壊したわけだが……まぁ、直したのも俺なのだ。
もう一度、同じことをしよう、と即座に考えて、魔法の袋からスライムの粘液を取り出し、前よりも念入りに塗りつけて、ぎゅっぎゅとノッカーを扉に押し付けた。
「……かんぺきだな」
その出来栄えの前に一人そう呟くと、
「……何が完璧なの?」
と、後ろからから声がかかったので俺は驚く。
ゆっくりと振り向くと、そこにはアリゼが立っていた。
手にはおそらくは食料品が入っていると思しき袋を持っていて、彼女の後ろにいる数人の子供たちも同じような袋を持っていた。
どうやら買い物帰りらしい。
俺はアリゼ及びその後ろで不思議そうな顔で俺を見る孤児院の子供たちに冷静を装いながら言った。
「……いや、いらいがな」
そう言うと、アリゼは、
「えっ!? も、もう!? うそでしょ!?」
と驚いていたが、とりあえず中へと促されたので、両手の塞がっているアリゼたちに代わり、ノッカーに出来る限り振動を伝えないように細心の注意を払って俺は扉を開いたのだった。
◆◇◆◇◆
「……それで、本当なの? 依頼が終わったって……」
以前通された応接室の中で、俺とアリゼは対面に座りつつ、話をしている。
アリゼは俺の言葉を特に怪しまずに、しかしこれだけ早く依頼を終えてきたことに驚いているようだった。
完璧だったのは、ノッカーの完成度の話だが、この勘違いは永遠に秘密にしておきたい。
俺はそんな内心を表に出さずに、ただ無表情に言う。
「あぁ……ほら、これだ」
そう言って、魔法の袋から、《タラスクの沼》で採取してきた《竜血花》を一株出し、テーブルに置いた。
しっかりと土ごと布で包んでいるが、テーブルを汚しては悪いので一応、もう一枚布を敷いてのことである。
しかし、そんな気遣いにアリゼは特に興味はないらしく、ただ《竜血花》のことを見つめていた。
「これが……。初めて見たわ。きれいな花なのね……」
花の美しさになのか、それとも手に入らないと思っていた高価な薬の材料が手に入ったことになのか、アリゼの瞳は感慨深い色に染まっていた。
確かに、彼女の言う通り、《竜血花》は美しい。
血のように赤い花弁、空を見ず、傾いでいる花の形、それを目立たせるように広がった葉、花の生命力を伝えるように太く丈夫な茎。
その全てが絶妙なバランスで配置されていて、確かにこのような花であればプロポーズのときに恋人に渡したくなるのも理解できる気がした。
プロポーズするような相手がいない身で何を言うかと思うかもしれないが、それはそれだ。
「なんとかなりそうか?」
俺が花に見とれるアリゼにそう尋ねると、彼女ははっとして、
「何とも言えないわ。私にはこれが本物の《竜血花》かどうかすら分からないから……あ、疑ってるわけじゃないからね。そうじゃなくて、私にはその能力がないってことよ」
「……そういえば、しりあいのちゆじゅつしのつてで、ちょうざいをたのむ、だったか」
「ええ。だからまず呼ばないと……少し待っててもらうことになるけど、いいかしら?」
どうやらこれからその治癒術師というのを呼んでくれるらしい。
俺としては早く確認してもらって、依頼票にサインをもらいたいので、待つのは別に構わない。
そのことをアリゼに告げて、頷いた。
アリゼはそれから俺にここで待つようにいい、急いで部屋を出ていった。
おそらくこれから彼女自らその治癒術師を呼びに行くのだろう。
相手は治癒術師ということであるから、どこかの治療院か教会にいるのだろうが、そういうところは忙しいものだ。
それほどすぐに帰っては来ないだろう。
つまり、かなり時間が空いてしまった。
それまでここで、というのは精神的に辛いと言うか、退屈だな……。
そう思っていると、肩に乗ってだらんとしていたエーデルがふっと起き上がり、飛び降りてとことこと歩き出す。
それから、壁にカリカリとやり始めた。
「……なにしてるんだ?」
そう尋ねると、扉のノブをみて、ジャンプする。
エーデルの前足は確かにそこに触れるが、引っかかりのないタイプなので、エーデルの手では開けられないらしかった。
タラスクにあれだけ強力な攻撃を加えられても、扉は容易には開けられないらしい。
なんだか滑稽な気もするが……。
開けてやるかどうか少し迷ったが、ここにいろとは言われたがどこにも行くなと言われたわけでもない。
入ってはいけないところもあるだろうが、少しくらい歩き回ってもいいのではないか、と考えて扉を開けてやることにした。
何か言われたらペットが逃げたからということで全面的にエーデルのせいにしよう。
嘘ではないしな。
実際、エーデルが扉をあけろと言っているところから始まっているのだから。
そんな俺の内心が伝わったのか、若干エーデルは俺に睨むような目を向けたが、それでも扉を出たいと言う気持ちは変わらないらしい。
相変わらずノブを見ているのでかちゃりと開いた。
すると、エーデルは駆け出す。
一体どこに向かうのかと思ってついていくと……そこは、以前孤児院に来た時に訪れた地下室だった。
その部屋の中心でエーデルは「ヂュッ!」と一鳴きする。
すると直後、物凄い勢いで五匹の 小鼠(プチ・スリ) が現れて、エーデルの前に並んだ。
どこかで見た光景である。
というか、以前ここで見た光景だ。
並んでいる 小鼠(プチ・スリ) たちにも見覚えがある。
傷や毛並みが同じだ。
しかし、前に見た時より巨大化しているような気がする……成長したのか?
そう思っていると、エーデルと 小鼠(プチ・スリ) たちは何か会話のようなものをし始めた。
すべて、「ヂュッ!」という人間にはまるで理解できない鳴き声の応酬であったが、俺には幸い、エーデルとのつながりがある。
そのため、一体どんな会話をしているのかなんとなく理解できてしまった。
それによると、彼らエーデルに従えられている五匹の鼠たちは、あれからずっとこの地下室を守ってきたのだと言う。
その際、街中にいるいくつかの他の 小鼠(プチ・スリ) の群れからの襲撃を何度か受けたが、すべて跳ね除けることが出来、結果としてこの地下室を守り切ったらしい。
それを可能にしたのは、エーデルから流れてくる魔力や気の力のお陰で、それによって魔物としての存在の格が少し上がったため、通常の 小鼠(プリ・スリ) よりも強力な存在にそれぞれになりつつあるという。
つまり、存在進化が近いと……。
ここで俺は引っかかる。
そもそも、その魔力や気って俺のじゃないの?
だってエーデルの力って、俺から奪い取ったものじゃ……。
そう考えると、エーデルが振り返って俺を睨み「ヂュッ!」と強めに鳴いた。
黙ってろ、ということらしい。
……おい、理不尽だろうが。なんだそれは。俺が主でお前が従者だろ!
そう思うも、迫力のあまり、言われた通り黙ってしまったので何とも言えない。
それに、エーデルと手下の 小鼠(プチ・スリ) たちの会話らしきものは、俺にも結構有用なものだった。
彼ら曰く、ここに襲い掛かって来た 小鼠(プチ・スリ) たちは皆、結果的にここの 小鼠(プチ・スリ) たちの傘下に入ったらしい。
それによって、この都市マルトに存在する建造物の構造や隠し通路のうち、従えた 小鼠(プチ・スリ) たちが知っていたものについての情報が得られたという。
これで、ここに住む 小鼠(プチ・スリ) たちの生活は安泰であり、安心して生活していける、それもこれもすべてエーデル親分のお陰で……。
みたいな話をしている。
……うーん。
まぁ、いいんだが、そもそもその力の源は俺だって。
そう言いたい。
しかし言いにくい。
というか言っても 小鼠(プチ・スリ) だから通じないだろう。
それに、俺にはエーデルみたいなカリスマ性はないしな……残念ながら。
なんだか情けない気分になって来たが、エーデルがふっと俺に伝えてきたことに俺は少し驚いた。
それは、 小鼠(プチ・スリ) たちに、集めてほしい情報があれば、その旨伝えれば収集可能である、ということだった。
小鼠(プチ・スリ) たちは、この姿と素早さで、都市マルト内であればどこにでも入れる。
退治されることはもちろん日常茶飯事だが、繁殖のスピードとどっこいどっこいなので、減りも増えもせず、常にそこにいるのだ。
そんな彼らに情報収集を頼めるなら……。
俺は都市マルトで知らない話はなくなるかもしれない。
これは非常に有用な話だ。
俺はどうやら気づかない内に、とてつもないものを手に入れていたのかもしれない。
そう思った。