軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話 若き日4

「少し時間を置く、ね。まさか十年待ってればそれでいいだろうとか言うつもりはないだろうな?」

先ほどの会話を思い出して俺が怪訝な目を向けると、ロレーヌはくつくつと笑い出して、

「はっはっは、よく分かってるではないか……いやいや、冗談だ冗談。そんなに睨むな」

そう言った。

「冗談って……俺にとっては一大事なんだぞ? もうちょっとちゃんと考えてくれ」

ついそう文句を言ってしまう俺だがロレーヌは真剣な表情で言う。

「真面目に考えているとも。だが、レント・スミス。お前もわかっているだろうが、そもそもが突拍子もない話なのだ。普通の思考では答えには辿りつけない可能性もある。こう言う時は、めちゃくちゃでもいいから出てきたアイデアを全部出してしまうのもまた一つのやり方なのさ」

「なるほど、そういうものか」

流石というべきか、この時代においても彼女の理屈には一定の説得力があった。

「とはいえ、十年待ては冗談が過ぎた。私が時間を置けというのは……せいぜい、数時間とか半日とか、長くて数日とかのことだよ」

「と言うと?」

「お前の話によれば、こちらに来た時は夜だったのだろう?」

「あぁ、そうだな。で、ここに着いたら昼になってた」

「なら、こちらから向こうに戻るときは、こちらが夜である必要があるとか、そう言う可能性もあるだろう。夜でなくとも、特定の時間帯でなければならないとかな。この特定の時間帯、が数秒のずれでもダメとかならもはや諦めるしかないだろうが」

「……そうでないことを祈るしかないな」

「そうだな。とりあえずは、一時間置きくらいに確認してみたらどうだ? で、少しずつ時間を伸ばしていく。暇な時間は他の手段を探る、そのくらいしか出来ることはないのではないか」

「分かった……あぁ、ついでだけど、ロレーヌもちょっとあの……空間の歪み、見てくれないか?」

彼女なら何か、俺が気付けないことに気づくかもしれない。

そう思っての言葉だったが、ロレーヌは首を傾げて尋ねる。

「いいのか?」

「いいのかって何が?」

「私がその歪みとやらを破壊してしまう可能性は考えないのか?」

言われて、なるほど、と思う。

悪人というか、よからぬことを考える人間ならそういうこともするだろう。

別に俺の利用価値がどうとか、そんなことではなく、ただただ嫌がらせがしたいというだけのために悪事を働く人間というのもこの世にはいるからだ。

そういう可能性のある自分に、正確な歪みの場所を教えたりしてもいいのかと、そういう話だろう。

だが、俺がロレーヌを信じないということはあり得ない話だ。

たとえ、十年若くても。

こうして話していると、十年後とは勿論感覚が違うところも多々あるけれども、それでも彼女がロレーヌであるという本質に疑いはないことを感じる。

だから俺は言った。

「そんなことしないさ。分かってる」

「……どっちがお人好しなんだかな。ま、確かにそんなことはしない。どれ、善は急げという。とりあえず見に行ってみるか」

「あぁ」

*****

そして、歪みのある場所に辿り着く。

都市マルトの路地。

そこに俺がここに到着した時と変わらずに空中に浮かぶようにある。

向こう側には、おそらく十年後のものだろう、都市マルトの景色が窓のようにのぞいている。

たまに人が通っていて、見覚えのある顔も見えるのだが、向こうは歪みには気づいてないらしくそのまま通り過ぎていく。

不思議なことに、歪みのある部分をすり抜けるような挙動をする者はいないようだった。

無意識に避けているのか?

こっちでも数人、この路地を通る者はあったが、彼らもどこか歪みから距離を取った位置を歩く。

奇妙なことだが、俺からすると都合はいいような気がする。

何せ、俺がこの歪みを通れた瞬間、向こうで人が歪みをすり抜けていたらどうなってしまうのか、考えるだけでも恐ろしいからだ。

合体するのか、貫通してしまうのか、それとももっと酷いことが起こるのか……。

そういう可能性がないというだけで助かる。

「それで? どこにその歪みというのはあるのだ?」

ロレーヌが尋ねてきた。

俺はこれに驚く。

いや、どこかでは予想はしていたが……。

「そこにあるよ……やっぱり、見えないんだな」

「ふむ……? なるほど。見えんな。だが……何か力が集まっているのは感じる。単純な魔力という感じではないが……」

「そうなのか?」

「あぁ。どうにか触れられないものか……スミス、私の手をその歪みに近づけてみてくれないか?」

「いいけど……大丈夫なのか? 危なくないか?」

「分からんが、気になるからな。危なそうならすぐに引っ込めるさ。ほら」

「分かった」

俺はロレーヌが差し出した腕を掴み、そして歪みへと近づける。

すると、

「む……!? おぉ、これは……スミス。見えたぞ!」

ロレーヌはそう言った。