軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話 若き日

「……なんだこれ」

ある日、俺が都市マルトを歩いていると、ふと路地裏に妙なものがあるのを見つけた。

酒場からの帰りであり、もしかしたら酔いのせいなのかもしれないな、と一瞬頭の中に過ぎる。

けれど、今の俺の体は不死者のものだ。

眠気は言うに及ばず、酒による酩酊もほぼ受け付けることはない。

もしも酔えたら、この苦しみは半分になったかもしれないな、と静かな真夜中に思うことはよくある。

月明かりすら存在しない、少し曇った夜更けの静かさは、この身の永遠に終わらないかもしれない孤独を強く意識させるからだ。

忘れるために強い酒をいくら飲み込んでも、決して酒精が俺の味方をしてくれることはないのだった。

まぁ、それでも酒の味は好きだし、二日酔いにもなったりしないので楽しみに飲むことは飲むのだが。

ともあれ、そういう俺であるから、今の目の前にあるものが幻覚ということはおそらくないだろう、と思った。

そこにあるもの。

それは……。

「……空間の……歪み? 何か向こう側が揺らめいて見えるな……どこかの街の光景か? いや……見覚えが……」

逃げ水のように、妙にゆらゆらとゆらめくものが見える。

ただ、それは地面ではなく、空中にあって、空間そのものが歪んでいるような、そんな感じがした。

これは尋常なことではない、と流石に俺にもわかる。

ふと、手を伸ばしかけたが……。

「いや、流石に良くないな、これは。ロレーヌからも、迂闊なことはするなとよく言われてるわけだし……後で、ロレーヌと共に訪れることにしよう……っ!?」

珍しく冷静さを発揮して、踵を返しかけた俺だったのだが、そこで強烈な引力を感じて目を見開く。

「ま、まずいぞ……これは……!!」

どうにかして引力を振り切ろうと努力してみるが、この不死者の体から発せられる人間離れした筋力を以ってすら、振り切れないほどに強く、 そこ(・・) に引かれていく。

「このままじゃ怒られる……どうにか……どうにかぁ……!!」

息も絶え絶えになって頑張る俺だったが、

「……あっ。これはだめだ……」

踏ん張りも限界に達し、力が一瞬ふと抜けた。

その瞬間、俺の体は思い切り引っ張られ、地面からも引っぺがされる。

結果として、俺の体は後ろに思い切り運ばれていき、そして、視界が真っ白に染まった。

「ロレーヌ……すまん……」

*****

そして気づくと……。

「……あれ? ここは……」

周囲をキョロキョロと見回してみる。

するとそこは、いつもの見慣れた光景だった。

都市マルトの街並みがそこにはある。

場所も変わっておらず、どう見ても路地裏であった。

だが……。

「いや、おかしいな。さっきまで夜だったろう。いくらなんでも、朝まで気を失ってた、なんてことはないだろうし……」

そう、周囲が明るいのだ。

けれど俺はさっきまで夜の路地裏を歩いていた。

街灯が僅かに照らす中を、一人歩いていたのだ。

見間違うはずもない。

それなのに、ここは確かに明るくて……。

「……でも、実際に朝だか昼だかだもんな……ってことは、俺はだいぶ気を失ってたか? いやぁ、そんなはずは……」

いくらなんでもそこまでうっかりした性格になった覚えはない。

抜けているところがあることは確かに否定できないが、それでも朝と夜の違いくらいはわかる。

冒険者として生きていくのに、体内時計を正確に把握するくらいのことも普通に出来る。

そして、俺の体内時計は、さっきの出来事からほんの数分も経っていない、ということを教えていた。

それに……。

「……おっ、これは……?」

振り返ってみると、そこには先ほど見た、空間の歪みのようなものが存在しているのを見つける。

ただし、今度は全く引力を感じないが、手を伸ばして触れてみることにする。

そうすれば、何かが起こるだろうと、そう思って……。

けれど。

「あだっ!」

バチっ、と小規模な雷のようなものが迸り、俺は痛みを感じて慌てて手を引いた。

どうやら触れられないらしい、とそこで理解する。

どうして……というか、結局これはなんなんだ?

そう思っている俺に、

「……そこの人。どうかしたのか?」

ふと、そんな声がかかる。

気配が近づいてきていることは察していたので、俺はそちらに振り返る。

そして、息を呑んだ。

そこにいたのは……。

「なぜ目を見開いている? どこかで会ったか?」

「……あぁ、いや……」

若い女だった。

いや、少女と言っていいだろう。

おそらくは、十五、六の……。

ただし、問題はそこではない。

彼女が十五、六、のはずがないのだ。

「ふむ……何か訳がありそうだな。面白そうだ。話を聞かせてくれないか?」

「あ、あぁ……俺は……その、レントだ」

「レント? ほう、知り合いと同じ名だな。私はロレーヌ。ロレーヌ・ヴィヴィエだ」

そう言われたのだった。