軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第618話 港湾都市と上陸方法

「……おいおい、ありゃ一体なんなんだ?」

カピタンが船の上から街を見て、そうつぶやいた。

同じものを俺たち全員で見ている。

俺たち、つまりは俺、レントとカピタン、それにディエゴと、船乗りのマズラックだ。

街の港はいつものように見えて、閑散としていた。

まぁ、ここのところは普段以上に人がおらず、船もほとんど出ていなかったが、少数の漁師が多少活動していたり、漁に使う網などを手入れしている姿を見ることが出来たのだ。

しかし今はそういった漁師は誰一人としていない。

ただ、問題はそこではなくて、代わりに他の存在がそこをトコトコ闊歩しているところだろう。

それは、俺たちが《海神の娘達の迷宮》で見た蜥蜴人に似ていた。

というか、まさにそのものだ。

武具も身につけていて、規律も感じられる……。

ということは、だ。

「さっぱりケルピーライダーたちを海の上で見なくなったと思ったら、こんなところにいやがった、ってわけだ」

マズラックが苦々しい声で、心底困ったようにそう呟き、額を叩いた。

気持ちは理解できる。

この様子だと、港のみならず、街全体が蜥蜴人たちに攻撃されている可能性を考えるべきだろう。

冒険者たちだっているし、このような状況に陥ったのなら、他の都市からの援軍もすでに呼んだだろうと想定されるから、永遠にこの状況が続くとは流石に思えない。

しかしながら、数日、もしくは数週間程度なら続く可能性があった。

まさかその期間ずっと、海上で漂っているわけにもいかない。

街が心配であるのはもちろんだが、俺については銀級試験だってあるのだ。

目的を終えたら帰りたいところだ。

まず自分のことってのは薄情じゃないかって?

まぁそれはな……別にここは俺の街じゃないし、そこまで手を出すような話かと言われると微妙だ。

出来ることはしてやりたい、くらいは思うが、果たして俺に出来ることがあるのかどうかもな。

それを考えるとまず、帰る方法の方を先に確保したくなるのが人情というものだ。

ただそういうわけにもいかないのは、俺にもこの街に多少の思いがあるからだ。

より正確にいうのなら、街自体にではなく、この街で知り合った人々にな。

横を見ると、悔しそうな顔で街を見つめるディエゴの顔が目に入った。

彼にとって、この街はかけがえのない故郷であるはずだ。

だから、その気持ちはよくわかる。

俺だってマルトが襲われたら平常ではいられないからな。

実際、あの迷宮ができたときは、焦りが色々と沸き続けていた。

それでも我を失わなかったのは、俺が優れて冷静な人間だから、というわけではなく、この魔物の体が故に感情の動きが希薄だから、ただそれだけのことだっただろう。

あとはロレーヌという大事な人間の安全は常に確保出来ていたからな。

そうでなければもっと取り乱して冷静な行動もできなかった。

今のディエゴはどうかな。

彼にとって重要なのは店と街、という感じでことさらに誰かが、ということはなさそうに思える。

もちろん、店をやっている関係上、お得意様とか付き合いのある他の店とか冒険者とか、そういうのはいるだろうが……。

そんな色々を考えていると、

「……店はともかく、あいつらが心配だな」

ディエゴがそういった。

確かにそれは俺も思っていたことだ。

あいつらとは誰か。

それはつまりは、ペルーサとニーズたちのことだろう。

他に俺たちに共通の知り合いはあまりいないからな。

いてもあいつら、とは呼ばない。

それこそ店に来る客たちのことは。

「多分大丈夫だろう、事前に避難場所とかそういうのは話し合ってあるんだし……」

俺がそう言うと、これにカピタンが同意する。

「あいつらにはとりあえず逃げることはしっかり教え込んでおいたからな。命を何より大事にするだろう。だからそこまで心配はいらねぇとは俺も思うぜ。ただ、どこまで大丈夫かはなんとも言えねぇからな。可能な限り早く合流したほうが良いはずだ」

「それはその通りだよな……でも、港にはつけないだろう?」

俺がマズラックにそう尋ねると、彼は少し考えてから難しそうな顔をする。

「……つけてもいいが、すぐに蜥蜴人たちが寄ってくるだろうぜ?」

「だよなぁ……何か手は……」

そうだろうな、という答えが返ってきたので俺ががっかりとしてそう言うと、マズラックがアゴをさすりながら、やはり難しそうな顔で、

「……一応、街の外れに隠し港はある。陸からは見えねぇ小さな洞窟だから、そこに蜥蜴人たちの奴らが気付いてなきゃ、なんとかなるかもしれねぇが……」

「おっ、いいじゃないか」

「だけど、危険は危険だぜ? 別にこの街につけないで、近くの漁村まで行くことは出来るんだ。そっちの方が安全策だが」

「そりゃそうかもしれないけど、ニーズたちに合流するのが遅くなればなるほど、あいつらの生存の可能性は下がるからなぁ……」

出会いは色々あった奴らだが、今となっては立派な仲間である。

見捨てたくはない。

手段があるのなら、それを使いたいと俺は思った。

そんな俺に、ディエゴとカピタンも、

「俺もそれでいい」

「あぁ、俺もそうだな……何、いざって時はそれこそ逃げりゃあいいんだ。マズラックの腕がありゃ、それも出来るだろ?」

「お前ら……」

三人とも街に行くつもりであることにマズラックは提案した身でありながら呆れた顔をしたが、しかし最後には腹をくくった表情で、

「仕方ねぇな。俺も海の男だ。乗りかかった船ってやつから降りられはしねぇ。行ってやるぜ!」

そう言ったのだった。