軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第617話 その頃のニーズ達

「……ちょっとあんたたち! それはそっちの棚じゃなくて、こっちだって言っただろ!?」

雑多に品物の並んだ空間、その大半は呪物や魔道具であり、素人が迂闊に触れると大変なことになるものばかりであった。

そんな危険物がアバウトな安全策しかされていない状態で適当に並べてあるここは、言うまでもなくディエゴの店である。

その店の中で、威勢よくそう怒鳴ったのは魚人族のペルーサだった。

その姿や声色には、魚人族の王族だということを納得させる気品と圧力が溢れているのか、ニーズはヘコヘコとした様子で、

「あっ、わ、悪りぃ……いやでもよ、こんなにたくさんあったら覚えられねぇじゃねぇか……」

そんなことを言っている。

けれどそんなニーズに対して、ペルーサは言う。

「あっちの二人はもうほとんど完璧に覚えているようだけど? 記憶が怪しいのはあんただけだ」

彼女が示す方向をニーズが見てみれば、同僚冒険者であるルカスとガヘッドがテキパキとした様子で在庫整理を行なっているようだった。

確かにその手際には全く迷うところはなく、まるで長年この店に勤める丁稚か何かのようですらある。

主人はこのペルーサであり、俺は不出来な従業員か、と悲しくなってきたニーズだった。

そのニーズも流石にかなり慣れてきてはいるし、今間違えたのだってだいぶ久しぶりだったのだが、この女主人がディエゴの倍も厳しく言い立てるために卑屈な自分に戻ってしまう瞬間があるのだった。

レントやディエゴ、それにカピタンの三人に鍛えられて、以前では考えられないくらいに自分の技能が上がって行っていることを感じてはいるが、それでもこのペルーサという少女には勝てないらしいと言うことが余計にその気分に拍車をかける。

その上、この少女には何とも言い難い……気品というのか、生まれつき誰かに命令していた者にしか宿らない神秘性のようなものを感じるのだ。

ニーズは反対に、強い者に媚びへつらいながら生きてきたところがあるので、相性としては最悪……いや、逆にいいのか、妙な噛み合い方をしているところがあった。

実際、ルカスとガヘッドはそこまでこの少女に対して謙ったり、おかしな上下関係が強く出たりはしていない。

それでも一応、ぺルーサの方が上なのは明らかだが、それは彼女が強いからだ。

ただ、ニーズと彼女の関係は、さらに勾配のきついものだった。

なぜこんなことになってしまったのか……。

自問するも、答えは出ない。

ただそこまで不快でもないのが不思議だが、まぁ、いいか。

そこまで考えたところで、ペルーサがさらに指示を出そうと、

「あぁ、そっちの箱はそこじゃないって……ここ! ここに積んで……」

そう言いかけたところで、店の外から妙な歓声が聞こえた。

あまり性質の良いものではないことは明らかで、ニーズとペルーサのみならず、ガヘッドとルカスもすぐに荷物を置いて、自分の武具を手にした。

それから合図し合うこともなく、役割分担としてニーズが扉を開き、外を見た。

すると、大通り、その奥の方に妙な集団が見えた。

「……あれは…… 蜥蜴人(リザードマン) か? なぜこんなところに……」

竜人かもしれないが、このあたりで竜人は滅多に見ない。

それよりは蜥蜴人の方が可能性が高いだろう。

それに、その蜥蜴人と街の衛兵たちが戦っている様子である。

そんなことをするのであれば、やはり蜥蜴人だと解釈すべきだ。

後ろから顔を出して同じ光景を見たペルーサが、

「あいつら、ケルピーライダーじゃないか!?」

「そうなのか? 俺たちにはよく竜人と見分けがつかないが……」

「私も一見して分かるとまでは言えないけど……ただ装備が魔王軍のものだ。まずい……」

「まずいって?」

「ここで呑気にしてたらやばいってことだ。ディエゴの旦那たちから言われてる通り、貴重品だけ持って出よう。隠れ家に逃げて、そっちで帰りを待った方がいい」

「そこまでか」

「衛兵があいつらを追い返してくれたならそれで問題ないんだけど……」

「それに期待してここを動かないより、逃げておいた方がいいだろうな。よし、ルカス、ガヘッド!」

ニーズがそう言うと、全員が素直にテキパキと動き始めた。

そして数分で全ての荷造りを終えてしまう。

そのまま、

「じゃあ、お前ら。隠れ家で会うぞ。ペルーサもな」

そう言って、全員が別々の出口から出て、異なる方向へと走っていった。

こういう場合にはまとまって動くとまずいから、と初めから決めておいた動きだった。

その甲斐もあってか、全員が捕まることなく隠れ家に到着した。

それはよかったのだが……。

「……やっぱり、あれは魔王軍だった」

ガヘッドが隠れ家の洞窟で苦々しくつぶやく。

「衛兵も結構やられてたぜ。どれくらい死んだのかは分からねぇが……町人には手を出す気配がねぇのが幸いだが」

ルカスもガヘッドに続けて、街中を走る中で手に入れてきた情報を口にする。

「でも、あいつらどうしてこの街に来たんだ? 今まではずっと海上に居座ってたのに……」

ペルーサがそう疑問を口にしたので、これにはニーズが答えることになった。

「それについてだが、どうも、冒険者を集めてるようだったぜ。《海神の娘達の迷宮》に潜る者達を探してるって。経験がある者は嘘をつかずに出てくるようにとかなんとか」

「……なんで自分たちで潜らないんだろう?」

「さぁな。しかしそれよっか、これからどうするよ。ここにいたって、レントの旦那達が戻ってくるとは限らねぇぜ」

ニーズが口にした通り、レント達はここのことを知ってはいるものの、港に入った途端に捕まってしまう可能性もある。

そうなっては、ニーズ達がここに隠れている意味もあまりないだろう。

場所を吐くとか、そういうことを心配しているわけではないが、レント達が捕まってしまったら後は何もできることがないと思っているのだった。

それくらいにニーズ達は弱い。

ペルーサはニーズ達より強いが、それでもレント達にはまるで及ばない。

どうすればいいのか、ということだった。

しかし、この状況に対して、意外なことを言ったのはペルーサだった。

「……に行こう」

「え?」

「《海中街》へ行こう。私たち魚人の街に……それなら、ここにいるよりも危険はない。そうだろ?」

ニーズ達があっけに取られたのはいうまでもなかった。