軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第615話 港湾都市とおかしな魔物

それなりに攻略してきた《海神の娘達の迷宮》である。

俺たちはすでに中層まで到達しており、そして入り口に存在する転移装置も使えるようになっているため、今日は中層まで一気に飛ぶということで合意している。

ここにニーズ達がいたらその選択は取らずに、また低層をある程度進みつつ実力をつけるための訓練を、ということになっていただろうが、今日は俺とカピタン、それにディエゴの三人だけだ。

カピタンとディエゴの実力については言わずもがなであり、俺についてもとてつもなく実力が高いとまでは言えないにしても、この迷宮の中層を進んでいける程度のそれはある。

最悪の場合でも、俺にはそうそう死なないというアドバンテージもあるわけだが、それについてはあまり過信すべきではないだろうというか、俺がバラバラにされて、そんな俺を守るためにカピタンとディエゴに頑張らせる状況になってしまったら、それは違うからだ。

あくまでも、一度、普通の人間が死ぬような致命傷を負ったら終わり、という感覚で挑むつもりである。

カピタンと二人だけだったら全然構わないが、ディエゴには俺が魔物であることは言っていないわけなのだから。

それでも、ばれなければ折れた手足を一瞬で修復、くらいのことはやるけれど。

「中層だが、出てくる魔物のランクが上がるから気をつけることだ」

ディエゴが歩きながら言った。

《海神の娘達の迷宮》の中層は、低層の風景とはだいぶ異なっていて、まるで珊瑚でできた森の中のようであった。

壁がある廊下のようなところ、という感じではなく、開けている空間である。

ただ、上に向かって思い切りその辺の石を投げてみると、開いているはずの空間になぜか境界のようなものがあるのが分かる。

つまり、空を飛んで道を短縮、みたいなことは中々厳しいらしい。

天井があるらしいのと同じく、見えない壁もまたあるのだ。

ちなみに、空を飛んでいけない、というのを確認したやつがいるのかと気になって尋ねてみると、いたらしい。

呪物には羽を生やせるようなものもあり、そういうものを活用して挑戦したものが何人かいたという。

もちろん、呪物であるから、代償はそれなりにあったようだが。

その詳しい内容についてはディエゴも口を噤んだ。

あまり聞かない方が良さそうなことのようだった。

「具体的にはどんな魔物が出てくる?」

俺が気になって尋ねると、ディエゴは答える。

「分かりやすいのは 魚怪人(サハギン) だな。レッサーでないものが普通に出てくるし、また上位種…… 魚怪闘士(サハギンファイター) や 魚怪妖術士(サハギンソーサラー) 辺りも出現するようになる」

「なるほど、迷宮のセオリー通りというわけだ。特に気をつけなければならない魔物とかいるか?」

「中層でも最初の方はいないが、ある程度深くなってくると 栄螺鬼(さざえおに) が怖いと聞くな」

「栄螺鬼?」

「その名前の通り、栄螺の化け物なんだが、幻術を使ってくる。気づけば自分の家にいて、いい気分で休憩しようとしたら体に激痛が走って襲われていることに気づいた、なんて話もよく聞く」

「よく聞くのか……」

「店の客にな。ただしっかり帰ってきてそうやって土産話に聞かせてくれるんだから、なんとか出来たんだろうが。一応、呪物で幻術に対抗できるものも持ってたはずなんだが、思ったより強力で効かなかったらしい。気をつけた方がいいぞ」

「怖い話だな……」

そんなことを話しながら、ふと、カピタンが何も言わないことに気づく。

不思議に思って最前を歩くカピタンに、

「……カピタン?」

と尋ねると、彼は足を止めて、

「ところでディエゴ。聞きたいことがあるんだが……」

「ん? なんだ」

「この迷宮に、 蜥蜴人(リザードマン) は出るのか?」

「いや、出たとは聞いたことがないが……」

首を横に振ったディエゴである。

しかし、カピタンは、

「おかしい。少し先にいるぞ」

そう言って前方を示した。

見れば確かに向こうの方に一匹の 蜥蜴人(リザードマン) の姿が見える。

結構な装備をしていて、こんな中層にいるような雰囲気でもないのが奇妙だった。

ディエゴもそれを確認して、

「……これは変だな。一度戻って冒険者組合に報告するか?」

と、俺とカピタンに確認する。

迷宮で異常事態が起こっている時、冒険者は可能な限り冒険者組合に早めに報告することが推奨される。

ただ、これは別に義務ではない。

それにどの程度の異常からそうすべきか、という規定もない。

基本的に迷宮というのは存在それ事態が異常としか言えない存在であり、明確な基準など定めようがないというのが正直なところだからだ。

そう言った事情からするに、今回の蜥蜴人の出現は報告すべき事例かどうか。

もちろん、最終的には報告はするが、今すぐ戻るほどかといわれると……。

「装備は大層なものだが、あまり強そうには見えん。それに……俺にはあれに見覚えがある」

カピタンが少し考えてからそう言った。

「見覚え?」

俺が首を傾げて尋ねると、カピタンは言う。

「あぁ、ここ最近、海上でうろついているケルピーライダーの話をしたろ。ケルピーの背中に乗ってたのが、ああいう蜥蜴人だったんだ。装備もあのまんまだしな」

「つまり……海上でうろついているのに飽き足らず、迷宮の中に入ってきたわけか……そもそも、この迷宮の中で何かするのが目的だったのかな?」

「それは分からんが、それを知るためにもここで倒してしまった方がいいんじゃないか? 見るに、ここにいる三人でかかれば問題なく倒せる程度の実力しかなさそうだしな。どうだ?」

そんなカピタンの誘いに、俺とディエゴは顔を見合わせて少し考えてから、

「……そうしようか」

「俺もそれでいい」

そう言って頷いたのだった。