軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第614話 港湾都市と偵察

「……ん? おかしいな」

船に揺られて《海神の娘たちの迷宮》周辺の海域にまで進んでから、老船乗りマズラックが首を傾げてそう呟いた。

不思議に思ってカピタンが尋ねる。

「何かあったか?」

するとマズラックは答えた。

「いや、逆だよ」

「何?」

「見て分からないか?」

「見てって……あぁ! なんだか随分と静かだな。いつもなら遠くに見かけるケルピーライダーも全くいないようだ」

「そういうこった。この間も帰路は全く見かけなかったが……魔王陛下の命令でもう帰っちまったのかね?」

この辺りに出現していたケルピーライダーは魔王の軍勢であり、その命令でこの辺りを荒らし回っていたのは知られている話である。

ただ、その目的についてははっきりとは分かっておらず、ただ《海神の娘たちの迷宮》から出てくる冒険者たちを主な目当てとしてかかっていっていた、ということだけが確実な事実だった。

そんな彼らが今、全くいないということは、その目的を完全に達成したということなのかもしれない。

そういう話をマズラックはしているわけだ。

実際にそうなのかどうかは分からないが……。

「だとしたらだいぶ助かるんだけどな。街の冒険者たちにとっても、それに漁師や魚人たちにとっても」

俺がそういうと、マズラックもうなずいて、

「全くだぜ。流石にこれ以上長く居座られると街自体が干上がっちまうからな……。ま、とりあえず今日戻ったら漁業組合には俺の方から報告しておくぜ」

そう言ったので、カピタンが、

「じゃ、冒険者組合にはこっちで報告しておくことにしよう。もしかしたら調査依頼が出されるかもな」

そう言ったのだった。

その場合はおそらく、自分が受けたい、と思っているのだろう。

そのときは俺たちも一緒かな。

修行があるが、気を維持し続けるとか、体の僅か数ミリ、数センチ上に張り続けるとか、そういう訓練はどこででも出来る。

今も、俺とディエゴはまさにそれをやっているのだから。

まぁ、まだ全然身に付いておらず、体全体どころか、手のひらを覆う、くらいが関の山だ。

こんなことをずっと続けていると迷宮を潜る頃にはすっかり気も尽きてしまいそうだが、俺もディエゴも魔力を扱える。

だから、気がほとんど尽きてしまったとしても戦えなくなる、ということはないと言っていい。

まぁ、気は生命エネルギーと言われているから、疲労は蓄積されるわけだが、俺の場合はそれこそゼロになっても動けるからな。

カピタンが言うには流石に全くのゼロになったら動けないものだ、と言うことだが、多分この体の不可思議構造がそれを可能にしているのだろう。

ディエゴについてはやはり使い果たすと少し休まなければ動けないから、そちらが普通なのは間違いないな。

「まぁ、あの鬱陶しいケルピーライダーたちが全くいない状況ならのんびりお前らを待ってられるな。さて、この辺りだ。そろそろ潜るか?」

マズラックがそう言って、海の下の引き手に手綱を引っ張って指示を伝え、船を止めたので、俺たちは頷いてから、それぞれ《空気管》を咥える。

カピタンとディエゴは何度やってもなれないな、と言う表情をしているが、俺の場合はなんともないのでなんだかズルをしているような気分になる。

実際、ほぼズルみたいなもんだけどな。

体質上、呼吸は要りませんというズルだ。

ちなみに、今日、迷宮に潜るのは俺とカピタン、それにディエゴの三人だけである。

ニーズたちは置いてきた。

ペルーサは昨日、彼らに紹介しており、比較的すんなりと受け入れられている。

というか、ニーズたちは受け入れざるを得なかった、と言うのが正確だろう。

そもそもあそこはディエゴの店だし、さらにペルーサは槍を学んだ、と言うだけあってあれでニーズたちよりも強かったからだ。

最初からほぼ尻に敷かれているというか、後輩なのにニーズたちを顎で使っている。

魚人の王族だから、そういうのに慣れているのか、人を使う者特有の雰囲気というのもあって、ニーズたちは反対に上の奴らに媚びへつらって生きてきたようなところがあるからな。

逆らえないのだろう。

まぁ、今ではニーズたちもそのような情けなさみたいなのはほとんど消えてきているが、本能に刻まれている部分はまだ敏感に反応するのだった。

そんなニーズたちを今日、置いてきたのは足手まといだから、と言うのが主要な理由だ。

それを言ったら今まで連れてきていたのはどう言うことだと言う話になってしまうかもしれないが、今日の探索は中層を主にするつもりだからである。

ニーズたちもいずれ連れてきてそこを探索しようと思ってはいるが、ディエゴも含めて、中層がどんな構造でどんな魔物が出現しどんな危険があるか、とここにいるメンバーは誰も詳しく知らない。

一応、冒険者組合で情報を買ってある程度は調べてはいるが、聞くだけと実際に体験するのとではまるで違う。

又聞き話だけを頼りに向かって、実際にはまだ広まっていない危険がありました、では困るのだ。

ニーズたちはそんなくらいで簡単に死んでしまう可能性があるのだから……。

だから、今日来た三人で先に偵察というか、ある程度の確認をしておこう、と言う話になったのだ。

ニーズたちは店番と、それから自主練を頑張ってくれと言っておいたから、暇を持て余すと言うことにもならない。

《空気管》がしっかり効果を発動し、海の上で息が厳しくなってきたので、カピタンが指で海の中を示し、それからジャポンと潜っていく。

俺とディエゴもそれに続いた。