軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話 ロレーヌの従魔師修行8

「……さて、今日のところはこの辺にして、一度村に戻るか」

インゴがそう言ったので頷きかけた私だった、ふと考えてから言う。

「……このスライム、そのまま連れて行ったらまずいのでは……?」

インゴはこれに頷いて、

「まぁ、そうだな。だから一旦寄り道して行くことになる」

そう答えた。

不思議に思って首を傾げ、

「どこにですか?」

そう尋ねると、インゴはニヤリと微笑み、

「そこは行ってからのお楽しみだな」

そう言ったのだった。

◆◇◆◇◆

「こ、これは……!!」

しばらくの間、森の中を進み、いくつかの結界を通り抜けてたどり着いたその場所で、私は度肝を抜かれた。

なぜと言って、こんな光景など他のどんな場所であろうとも見ることが出来ないからだ。

そこは森の中が切り開かれた場所で、結構な広さがあるところだった。

面積だけで言うのなら、ハトハラーの村よりも広いのではないだろうか。

ただ、家や建物が林立しているようなことはなく、柵で囲まれた平坦な場所である。

端の方に少し大きめの小屋があるのは見えるが、建物といったらそれくらいだ。

そして、柵の内側にいるのは……多種多様な、魔物たちだった。

その中にはついこないだ見た……というか、背中に乗らせてもらったリンドブルムもいる。

「おぉ、おぉ、よしよし。皆、そんなに興奮するな。ロレーヌも驚いているではないか」

魔物たちが私たちが来たことに気づき、たくさん寄ってくる。

スライムやリンドブルムから始まり、グリフォンやヘルハウンドなど、こんな田舎の森にいないような魔物まで普通にいる。

しかもその中には少なくない数の、まず人と見たら襲いかかってくるような凶暴な魔物もいるのだ。

けれどいずれもインゴを見るとまるで友人や恋人を見るような穏やかな目つきになり、彼に甘えるように頭を擦り付けたりする。

また、私に対しても非常に穏やかで、インゴに対するよりは控えめではあったが、頭を撫でるようにずい、と求めてくるものだから、可愛くなってつい撫でてしまう。

猫や犬のように機嫌が良くなってゴロリと転がるようなものまでいるのだから、なんだか魔物と触れ合っている感じがしない……。

「ふふ、どうだ。すごいだろう?」

珍しく自慢げにそう言ったインゴだが、確かにこれは自慢するだけの価値のあるものだ。

そもそもどのような権力や経済力のある王侯貴族や大商人だとて、こんなものを持てるはずがないのだから。

「ええ、驚きました。ここは……魔物の牧場、というわけですか?」

「そういうことになるな。まぁ、ここにはいない、森の中でほぼ野生に近い形で飼育しているものも少なくないのだが、森には村人たちも普通に入る。滅多にはないと思うが、そのような時にまさかグリフォンやヘルハウンドと出くわしたらまずいだろう?」

「確かに、驚く、で済めばいいですが……」

どちらも強力な魔物である。

迷宮で出くわすならともかく、普通に狩りをしている最中に出会ったら、それだけで事件だろう。

普段からいる、と分かっていれば違うだろうが、生息地が違う。

それこそ冒険者や騎士などに調査を頼むような事態にまで発展する可能性があった。

インゴが従魔師だと知っていれば納得するだろうが、彼がそうだと知っている人間は村でも少数だ。

何も知らない村人たちからグリフォンが出たからどうにか冒険者か騎士を呼んでくれまいか、と頼まれれば村長であるインゴとしても無碍には出来ない。

そんな事態を避けるために、このように隔離しているということだろう。

「まぁ、皆しっかりと《絆》を結んでいるから村人を襲うようなことはないのだがな」

「出会っただけで大事件ですからね。なるほど、途中の結界は……」

「あれはガルブに定期的に張ってもらっているものだ。決まった順番で通るか、よほどの腕をもった魔術師が解除するかしない限りはここに辿り着くことは出来ん。ロレーヌであれば解除は可能かもしれないが……」

「いえ、あれだけ強固なものはかなり手間取りますから……それに、一度解除したら張り直すのにも触媒や時間がかなりかかるでしょう。そんなことはしませんよ」

「それを聞いて安心したよ」

「ふふ。それに、ここに私を案内してくださったのは……」

「あぁ、察しの通り、ロレーヌが従魔とした魔物たちについては、いきなり村には連れて行けないからな。離れている間は、ここに置いておいてもらうためにだ」

「やはりそうでしたか。しかし、大丈夫なのでしょうか?」

「ん? 何がだ」

「私の従魔とインゴ殿の従魔を同じ柵の内側に放してしまって、喧嘩など起こらないものかと」

「なるほど。確かに従魔同士であっても人間と同じように相性というものはある。強力な命令を与えてぶつかり合わないようにする、ということも可能だが、あまりそういうことをしすぎるとストレスになったりするからな」

「では……」

「いや、それでも私の魔物とロレーヌの魔物の相性は悪くはなさそうだから、大丈夫だろう。ほれ」

言われて見てみると、足元にいる私のスライムは、柵の方に近づいていって、そのフルフルとする体の一部を伸ばして、グリフォンの足に触れようとしていた。

グリフォンの方も嫌なら避けたり逃げたりすればいいのだが、そうする様子はなく、さらに実際に触れられても特に嫌がったりはしていないようだ。

他の魔物についても興味深そうに私のスライムを見ているが、不審な目ではなく、穏やかな視線だった。

「なるほど。これなら安心できそうですね」

「あぁ……おっと、そうだ。このスライムなのだが」

「はい?」

「この牧場にはそれなりの数のスライムがいるからな。一度放してしまうと見分けがつかん。それでも《絆》を通して呼べば来るだろうが、ただのスライム、というのも味気ないだろう」

「……つまり?」

「名前をつけてはどうか、ということだ。私も魔物には一匹一匹名前をつけているのでな。一応、その方が《存在進化》しやすい、という現実的な理由もある」

「そうなのですか!? それはまた興味深い」

「理由については色々説があるが、まぁ、とりあえずどうだ」

「そうですね……では、《ロレン》と」

「ほう……なぜだ、と聞きたくなるところだが、分かりやすいな」

苦笑したインゴに、少し気恥ずかしくなった私だった。