軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話 ロレーヌの従魔師修行7

「……いましたね」

「あぁ、いたな。これ以上ないほどに一般的なノーマルスライムが」

草むらに隠れる私とインゴの視線の先には、ぽよぽよと動くノーマルスライムの姿がある。

大きさは中型犬ほど、色合いは水色だが向こう側が透けるくらいの透明度、動きは決して鈍くはないが、かといって特別速いわけでもないという普通さ。

冒険者であれば素通りするくらいの、どこにでもいるタイプのスライムだった。

しかし、なぜこれの発見に私とインゴがこれほど喜んでいるかと言えば、インゴ曰く、最も従魔にしやすい魔物だから、ということだからだ。

スライムはその体全体が見た目通り、水分で形成されていて、中に申し訳程度に臓器のような部分と核、それに魔石が見えるだけだ。

したがって、従魔にするための工程である、魔力を魔物の体に流す、というのを非常にやりやすいのだった。

ただ、スライムであっても毒スライムとか、そういったものはそれこそ体を形成する部分にいわゆる不純物が混じっているような状態にあり、この作業は難しくなってしまう。

また、同じノーマルスライムであったとしても、何か捕食した後の濁っているものはやはり魔力が通りにくくなる。

インゴほどの習熟した従魔師であればそのような魔物であっても問題なく従魔にできるのだが、私はまだ一度も従魔をもったことのない初心者である。

可能な限り簡単な相手をまず初めての相手に選ぶべき、というのは当然の話だった。

とはいえ、ここまで何度か他にノーマルスライムを発見し、挑戦しているのだが、いずれも失敗している。

どれも少し濁っていたもので、だからこそ途中で魔力が流れなくなってしまったことが原因だ、ということだった。

それだけに、今回のスライムには期待が大きい。

あれだけ透き通っているスライムなら私にも……。

「よし、ではロレーヌ。挑戦してみてくれ。何、今度こそいけるはずだ。まぁ失敗したとて、また探せばいいからな」

インゴがプレッシャーをかけないように穏やかにそう言ってくれる。

従魔術も、一般的な魔術ではないにしろ、魔力を使う以上、魔術の一種であり、したがって術者の精神状態が強く影響する。

だからこその弟子に対する穏やかさだった。

しかし、私にはそれが分かるからこそ、今度こそは失敗しない、という強い気持ちがある。

昔から天才呼ばわりされてきたプライド、と言うわけでもないのだが、魔力を扱う技術でここまでうまくできないのは本当に初めてのことで、正直、色々と傷ついているところもあった。

やってやる。

そんな気持ちなのだった。

まぁ、あまり気負いすぎるとできるものもできない、というのは私自身、よく分かっているので、たとえ失敗してもいい、と言うのは心の端っこの方で思ってはいるのだ。

私はインゴに頷き、それからソロソロと草むらから這い出て、スライムのところへ近づいていく。

そして、今だ、と思った瞬間に、魔力を含ませた血液の入った試験管をぶつけた。

それは見事にスライムの中心部に命中する。

……これだけ集中した上で細心の注意を払って、なおノーマルスライムに物を投げて外す銀級冒険者も滅多にいないだろうが。

さらに、それを確認すると同時にスライムを中心にして地面に魔力で魔法陣を描く。

魔物との契約のための魔法陣──従魔契約陣と正確には呼ぶらしい──である。

これは、大まかな形はあるが、魔物によって組み替える必要があるもので、意外に扱いが難しい。

ただ、ここまでスライム相手に何度も挑戦しているため、その組み替えも比較的素早く終えられた。

さらに、魔力を体外に放出し、それを、スライムの体の、私の血液が付着した部分にまで伸ばしていく……。

「……通ったっ!」

「よし、いいぞ。落ち着いてやれ……!」

インゴの声に心を鎮めつつ、しかしここまでスムーズに進んだことに僅かに喜ぶ。

これ以上気持ちを昂らせては失敗してしまうから、その気持ちもすぐに沈めるけれど。

あとは、魔力をスライムの体全体に満遍なく通し、足元にある魔法陣と繋げるだけだ。

……いけるはずだ……!

私の魔力に抵抗しているのか、スライムは体をくねらせたり、ブルブル震えたりしているが、少しずつその動きは収まっていく。

体に魔力の通った部分の支配が私に奪われているからだ。

そして魔力は、魔法陣に繋がる。

それと同時に魔法陣の形は大きく姿を変えていき、立体的なものとなって、スライム全体を包んだ。

それを確認した私はスライムに注ぐ魔力を増やし、そして立体魔法陣の大きさを変えていく。

初めはスライム全体を取り囲むようなサイズだった魔法陣は、徐々に大きさを縮小していき、最後には、その体内に完全に格納されるほどのものとなった。

そのタイミングでインゴが、

「……呪文を」

そう言ったので、私は事前に教えられていた呪文を唱える

「……我が血と魔力を贄に、盟約を結ばん。其は我のために、我は其のために……《 原初契約(コントラクトクトゥス・オリーゴー) 》!」

するとインゴが見本を見せてくれた時と同じように魔法陣が輝きを放つ。

今度は事前に準備が出来ていたため、さほど目を瞑らずに済んだ。

魔法陣はスライムの核と一体化するように溶けていき、そして完全に見えなくなると同時に、光は完全に収まったのだった。

気づけば、そこにはスライムが楽しげな様子でポヨポヨと動いている。

それを見ると、何かが伝わってくる。

気分のいい感じというか……あぁ、これが魔物との間に《絆》が作られた、ということなのだと直感的に理解できた。

レントがエーデルに対して感じているものも、これと近いものなのだろう。

「ロレーヌ。よくやったな……! 気分はどうだ」

「不思議な感じです。自分が、体の外にもいるような感じというか……」

「うむ。しっかりと従魔に出来たようだな。まさかこんなに早く成功させてしまうとは思ってもみなかったが……」

驚いたようにそういうインゴに、私は首を傾げる。

「そうなのですか?」

「あぁ。魔力を血に溶かすだけで一年もかかることもザラなのだぞ? 契約にも同じだけ、もしくはそれ以上にかかるのが普通だ。実際私はそうだったしな。やはり、天から才能を与えられたものというのはいるのだなぁ……」

しみじみとそう言ったので、私はかつて投げ捨てたと思っていたプライドのようなものが、少しだけ満たされたような気がしたのだった。