軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話 ロレーヌの従魔師修行5

「……それで、だ。先ほど話した魔力的繋がり……《絆》を通して私の指示はこのスライムに伝えられる。例えば、こんな風にな。私の周りを三周回れ」

インゴがそういうと、スライムがぽよぽよとした動きで地面を這い回り、たまに跳んだりしながら、インゴの周囲を三周まわった。

なるほど、確かに指示はしっかり聞いているようだ。

「言葉を理解している、ということですか?」

「いや、厳密にはそうとは言えないな。もちろん、言葉を理解する魔物もいる。犬や猫が人の指示を言葉で理解しているように、な。ただ、理解力は魔物によって違う。それにそもそも聴覚にはあまり頼らないものもいる。死霊系とか……あぁ、海棲系の魔物なんかは、言葉で指示するのは難しいしな」

「死霊系はそもそも感覚器官と呼べるものがない、と言うことですか?」

死霊系、というのはつまりレントと同様に不死者と呼ばれる種類の魔物たちのことだ。

特に物質的な肉体を持たないものをそう呼ぶ。

ただ、死霊、と言っても果たしてそれが生き物の魂なのかどうか、とかそういうことは厳密には分かっていない。

そのような振る舞いをすることは事実だが、死後に残ったただの思念に過ぎないとか、残留思念が魔力によって一応の形を持ったものだとか、そういう考え方もある。

まぁ、普通に見れば幽霊そのものではあるのだが。

この辺りのことは、魔物について詳しく研究している学者でないと知らないことも普通ではあるけれど。

生前の知り合いの死霊が、そのまま話しかけてきたとして、あれは貴方の知人の幽霊とかではない、と言われて納得する者も少ないしな。

扱いの難しい存在だ。

「あぁ、そうだな。一応、人の言葉を聞いているように振る舞うが、彼らが聞いているのは正確にいうなら、人間の思念だ。それが魔力を通じて伝わるわけだな。だから、従魔にしたとして、普通に言葉だけで指示してもはっきり伝わらないことが多い」

「それは意外ですね。話してみると普通に会話が成立するのですが」

「確かに、全く通じないわけではない。だが、そういった死霊系と会話していると……どうもうまく噛み合っていない、そういうことがよくあるだろう? それは、今言ったような事情があるからさ。人間、口から出した言葉と頭の中で考えていることとは微妙にズレているものだからな」

「なるほど……そう言われると納得ですね。では、海棲系の魔物については?」

「彼らの場合は単純だ。通常、水の中にいるだろう? 普通に声で呼びかけてもあまり伝わらん。水の中で会話は出来んだろう? 魔術や魔道具を使えば別だが」

「あぁ……」

言われてみれば当然の話だった。

「水の上にいる時なら言葉での指示も聞くが、水の上にいられる海棲系の魔物よりも、水の中でしか生活できないものの方が多いからな。魚類系はほぼ全てそうだ。亀系統の魔物などは陸の上に上がれるが、あえてあげる必要もない。そして海の中で彼らに指示する場合には言葉によるのは難しい」

「そのような場合はどうやって指示を?」

「そこで《絆》の出番、というわけだ。その繋がりを通じて、私たち 従魔師(モンスターテイマー) の思念が、魔物に伝わるのだ。これもある程度慣れが必要だから、ロレーヌも練習が必要だぞ。やり方は、考えたことを伝えようと強く思う、としか言いようがないから、自分で試行錯誤してもらうしかないが……」

「つまり、基本的に言葉で指示する必要はないんですね」

「あぁ。さっきこのスライムに言葉で指示したのは、ロレーヌに分かりやすくしただけだ。周りの者に、自分が魔物にどんな指示をしたのか理解して欲しい時にはしっかり声を出すことにしている。でないと、驚くだろう?」

「確かに……」

例えば、インゴが従えるリンドブルム、あれに乗せてもらった時、無言で飛び立ったとしたら、急に振り落とされたりしてしまうこともあるだろう。

そういう場合には口で飛べと指示を出しているとはっきり主張してもらった方が、周囲としてもありがたい。

そういう話だ。

「ま、指示についてはそんなところだな。あとは、この後に魔物に必要なこと、だったか」

「ええ。世話などについて……食事は必要なのか、とか、何を与えれば良いのか、とか。扱いについてですね」

「その辺りは通常の動物の世話とほとんど変わらんな。スライムの場合は雑食性だから、好きにさせておけばいいから一番楽だ。特殊なのは先ほど話題に上がった死霊系のようなものだな。通常の食事は出来んから、魔力を与えることが必要だ。そういう特殊な魔物の場合は、研究が必要になるから、最初に従えるのはスライムにしておいた方がいいぞ」

「確かにそういうことならスライムが良さそうですね……死霊系も便利そうでいいかなと思っていたのですが」

死霊系は実体を持たない。

つまり、どんなところでも好きに入り込むことが出来る。

姿を消すことも可能だし、もしもそれを従魔と出来るのであれば、偵察などに相当便利であろうことは想像にかたくない。

それに、私はやらないが、暗殺などには非常に使えるだろう。

それを考えると、インゴの従魔術が広く伝わっていないことが良かったと思ってしまう。

死霊系の従魔による暗殺が広く行われている世界など、勘弁願いたいからだ。

「便利なのは便利だがな。管理が難しいのだ。あまり強い光を浴び続けると消滅してしまったりもするしな。これは三つ目の質問の答えにも繋がるが、従魔でなくなる場合のひとつだな。死亡したり、消滅すれば《絆》がなくなる。その感覚を、従魔師側は感じられる」

「どのような感覚がするのですか?」

「こう……ぽっかり穴が空いたような感覚だな。しばらくすればなれるのだが、これは結構精神的に来るぞ。だから、従魔は大切にした方がいい。ただでさえ、従魔にするとたとえ 腐肉歩き(ゾンビ) であっても愛着が湧いてくるものだからな」

「……腐肉歩きを従魔にされたことが?」

「一度な。好奇心から……。動きがおっとりしててなんだか可愛く思えてきてな……しかしあまりにも匂いが酷いし、衛生的にもよくないだろう。それに、遺体を冒涜しているようで……すぐに我に返って、聖水をかけて土に埋めてやったよ」

「それが良かったでしょうね……」

流石にレントの義父らしく、まともなようでどこかズレている。

そう思った私だった。