軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第611話 港湾都市と訓練場

冒険者組合(ギルド) 訓練場は冒険者組合固有の施設であり、冒険者組合がある村や町には大抵存在するものであるが、その内実はそれぞれ異なる。

一般的には闘技場のような建物であることが多いが、酷いものであれば木の柵で仕切られただけの空間であることも少なくない。

その土地の冒険者組合の懐具合に左右されるところなのでこれはもう、仕方がないだろう。

その点、ルカリスの冒険者組合訓練場は中々に行き届いている方だと言える。

というのは、まさにしっかりとした石造りの建物である上に、魔術的処理がなされていてかなり強力な魔術などを使ったとしても十分に対応できるようになっていることが分かるからだ。

わざわざ外に行って魔物がいない開けたところを探し、そこで実際に魔術などを使った連携などの訓練をする、などといったことをしなければならないと、それだけで危険だ。

訓練かと思っていたら魔物が寄ってきてまさにそのまま実戦へ突入する羽目に、なんてことも普通に考えられる。

しかしルカリスではそのようなことにはならなそうで助かった。

そんな広い訓練場をきょろきょろと眺めていると、様々な冒険者の姿が見える。

ただ、多くは銅級程度の腕前という感じであり、それ以上はいなかった。

ルカリスが今置かれている状況のゆえ、ということだろう。

銀級以上になってくると指名依頼なども増えてくるため、街の方から例の魔王などについて警戒するように言われている、ということが考えられる。

また、そういう状況であるため、通常の依頼であってもおいそれと低級冒険者が行くことができないというのもあると思われた。

そんな中であるから、銀級程度の実力はあるだろうとパッと見で分かる、カピタンとディエゴの動きにはいくら訓練場が広いと言っても程なく気付くことができた。

俺は後ろに先ほどとっ捕まえたスリであるペルーサを引き連れつつ、その二人の元に近づく。

「……おい、話しかけないのか?」

ペルーサが俺にそう尋ねてきたので、俺は答える。

「あぁ。まだ戦ってる最中だろう? 今話しかけるとせっかくの集中を乱すことになるからな」

「別にいいんじゃ……」

「まぁ、二人は気にしないだろうが、俺としては水を差したくないからな。それに、見る限り、そんなに長くはかからないだろうし、待たせてもらおう。お前は嫌か?」

ペルーサからしてみれば、すぐに解放して欲しいのにそれまでの時間を無駄にしているようなものなので、当然嫌に決まっている、と返ってくるものかと思った。

しかしペルーサは意外な返答をしてきた。

「……いや? 二人ともかなりいい腕だし……見てて楽しいよ」

「へぇ、分かるのか?」

俺に対し、スリを働いた時の動きを思い出すに、気配についてはしっかり分かったが、全体的にみればかなり手慣れていた。

あれはスリに特化した技術というより、武術をかじっているがゆえ、ということなのかもしれない。

そう思っての質問だった。

ペルーサはうなずいて、

「槍は魚人の多くが学ぶから……私も学んだ。もちろん、剣を学ぶ奴もいるけど。ただ、あっちのおっさんの持ってるやつは……」

カピタンのことだろう。

おっさんは酷いな、と思うが誰がどう見てもおっさんでしかないのでこれは仕方がない。

「……剣鉈な。まぁ、あんまり使う奴は見ないが、かなり便利な武器だぞ。武器として以外に、道具として色々重宝する。あの人はそもそも狩人が本業だから……普通の剣よりもあっちの方がいいのさ」

長い下草やら張り出した木の枝やらを切り落としたりするのに剣鉈はいい。

しかも丈夫で多少の乱暴な扱いをものともしない耐久性がある。

その代わり純粋な切れ味とか武器としての使いやすさは普通の剣よりも落ちるが、そこは技術でカバーすればいいのだ。

そしてそうできるだけの技術を、カピタンは持っている。

「……狩人? なんで狩人が冒険者なんか……」

ペルーサが首を傾げる。

確かにすぐに浮かぶ疑問だろう。

一般的な狩人はそうそう自らの村や町を離れて冒険者なんかやったりしない。

登録くらいはしている者もそれなりにいるが、実際に活動する奴は少数だ。

あくまでも彼らの本業は、狩人なのだから当然だ。

片手間で出来るほど冒険者は簡単な仕事じゃないし、冒険者をできるのならそちら一本に限った方がずっと稼ぎが良くなる。

兼業すること自体に意味があまりない。

普通は。

カピタンの場合は特殊なのだ。

あの人は全然稼ぎとか気にしないし、ハトハラーで狩人をやっている方が性に合っている人だ。

今は、ガルブ婆さんから頼まれたから仕方なくルカリスで粘っているに過ぎない。

今回求めている海霊草さえ見つかれば、すんなりと狩人の生活に戻っていくだろう。

もちろん、その前に俺にしっかりと稽古をつけてもらう必要があるが。

「まぁ、色々あるんだよ。おっ、カピタンがディエゴに仕掛けるぞ」

俺が目の前の二人の戦いの動きについて口にすると、ペルーサも頷いて、

「あっちの黒い獣人の兄ちゃんがディエゴっていうんだな……私としてはあっちを応援したいんだけど……あぁ、押されてる」

同じ槍使いとして応援したくなる気持ちはわかる。

俺としてはやっぱりカピタンだしな。

ただ、残念なことにカピタンとディエゴでは持っている技術に大きな差がある。

ディエゴは身体強化については基本的に魔術のみのようだが、カピタンには《気》があるからだ。

しかもかなりその運用に長けていて、当然のことながらディエゴはどんどん押されていく。

その上、カピタンの《気》は身体強化のみの技術ではない。

「……えっ、嘘だろ。あのおっさん、槍で突かれたはずなのに、弾いたぞ……!? 肌が鉄ででも出来てんのか……?」

実際、ディエゴがうまく隙間を縫って、その槍の長いリーチを使ってカピタンに突き込んだのに、その一撃はカピタンの肌に弾かれたように見えた。

ただ、俺の目にはしっかりと見えていた。

カピタンの肌が弾いたのではなく、そのわずか1ミリほど上の部分で弾かれたのだと。

あれこそが、《気》の力だ。

以前見せてもらった、体の上に張り巡らせることにより、鎧のように機能させる技術……。

改めて見るととんでもないな。