軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第598話 冒険者ルカス

これは一種の地獄だ、と俺……銅級冒険者ルカス・ゼイユは思った。

何故かって?

それは簡単な話だ。

ついこないだまで、ノーマル・ゴブリン一、二体を三人で相手にするのが精一杯だった俺とニーズ、ガヘッドみたいな冒険者が、ルカリスのベテラン冒険者でも潜るのに躊躇すると言われる迷宮《海神の娘達の迷宮》に来ているからだ。

……いや、それだけならまだ良かっただろう。

一緒に来ている……というか、俺たちを荷物持ちに連れてきた旦那方、レント、カピタン、それにディエゴの旦那達の強さは、ルカリスのベテラン達とほぼ遜色なく、ただついていくだけならそこまでの危険はなさそうだったからだ。

けれど実際はどうだ?

今、俺の目の前には、 小魚怪人(レッサー・サハギン) が五匹、小さな銛を構えながら、こちらに向かって威嚇音をカチカチと鳴らしている。

それに相対しているのは、俺と、それに同じく銅級冒険者であるニーズ・ラブラ、それからガヘッド・オーダンだ。

昔からの腐れ縁で……一緒にパーティーを組んで依頼を受けたことも数え切れないほどある、ルカリスにおける俺にとっての親友たちと言ってもいい者たちだ。

ただ、実力のほどは頼れる、とはとてもではないが言えず、俺と同じくらいで……。

つまりどれだけ調子が良くてもゴブリン二体くらいが戦える限界だと言うことだ。

それなのに、目の前には小魚怪人が五匹……。

もちろん、俺たちの後方にはディエゴ、カピタン、それにレントの旦那達がいる。

だから最終的にはなんとかなるのだろうとは思うが、ただ、彼らはそれぞれ言ったのだ。

俺たちが限界に達するまでは後ろで見物に徹している、と。

だから助力は期待するな、と。

これが、俺たちが「限界だ!」と言えばそれで助けてくれるというのなら話は違うのだが、あくまでもその判断は旦那方が独立して行うという。

実際、小魚怪人五体が現れた時点で、無理だ!と泣きついてみたのだが、冷たい目を三人に向けられただけで終わった。

とりあえず戦ってみろ、ということらしい。

そんなことを言ったって、一撃致命的なのをもらえばそれで終わりじゃないか、と俺なんかは思ったのだが、ニーズとガヘッドは覚悟が決まったような顔をして武器を抜いて、

「……ルカス。やるぞ」

「考えようによっては、良い機会かもしれん。死んだらあの世で楽しく呑もう」

などと言うのだ。

何を言うのか、と思ったのは確かだが、いくら臆病者の俺でも親友二人にこうまで言われて泣き言を言い続けられるほど腐っちゃいない。

彼らと同じく武器を構え、覚悟を決めて小魚怪人達と相対した。

覚悟さえ決まれば、何をすべきか自ずと見えてくる。

ニーズは戦いにおいて、勘でもって挑む直感型であり、ガヘッドは基本を崩さない防御型だ。

それに比べると俺は、考えた末に行動を決めるタイプで、だからニーズ達以外の冒険者にはよくうすのろ扱いされる。

実際、行動に移すのが遅く、戦闘が始まった直後に何も考えずに突っ込めば倒せるような魔物でも、時間をかけて倒すことになったりすることも少なくない。

これは良くない癖だ、と昔から思っていて、だから何度も直そうとしてきたのだが、今日まで出来ていない。

一応、やってはみたのだ。

何も考えずに、ただ突っ込んでいく。

後は勘で勝負する。

そんな戦い方を。

しかしそれをすれば傷は増えるし倒すのにも時間がかかるし良いことはなかった。

たまに運良く不意を討てたり、偶然良いところに命中して一撃で倒せることはあったが、ただそれだけで……。

でも、それが求められている戦い方なのだろうし、そうすべきなのだとずっと思ってきた。

けれど、ついこの間、レントの旦那は言ったのだ。

それは独り言のような感じだったが……。

「……この三人だと、ルカスが最後の砦になるのかもな。ニーズが突っ込み、ガヘッドが遊撃……ルカスは全体を見ながら戦い方や相手の弱点を考える、そういう分担が自然に出来てる。まぁ、まだまだ不十分だが」

レントの旦那が金を出して買ってくれた武具の軽い慣らしがてら模擬戦を少ししたのだが、そのときの台詞だった。

そのとき、レントの旦那は俺たちと三対一で戦ったのだが……悲しいくらいに完敗だった。

まぁ、そもそも一番最初の出会い頭に俺たちは負けているのでさもありなんという感じだったが。

実際に戦ったのはニーズ一人ではあったけれど、三人でかかっていっても同じ結末だったのだろうと再確認できた。

だが、その模擬戦でもって、レントの旦那は俺たちの役割分担というのを考えたらしい。

実際のところ、俺たちはそこまで細かく考えていなかったというか、確かに言われてみればそんな感じでやっているときもあった。

ただ、多くはがむしゃらに全員で戦うことの方が多かった気がする。

それは、俺たちの実力が不足しているからで、そうしなければすぐに押し負けるだろう、と常に思っていたからだ。

けれど……。

レントの旦那に言われて思ったのだ。

本当にそうだろうか?

と。

むしろ、非効率に戦っていたから勝利を得るのが困難なのであって、しっかりと戦い方を考えた上で、詰め将棋のように戦った方が楽なのではないか、と。

今、こんなことを考えるのは愚かなことなのかもしれない。

小魚怪人五匹と言えば、ゴブリン十匹にも匹敵する戦力だ。

まともに戦えば俺たちくらいの実力ではすぐに敗北してしまうだろう。

しかし、だからこそ、考えて戦わなければならない。

短い付き合いではあるが、レントの旦那方は、無茶を言っているようであっても、本当に不可能なことは言わなそうだということは理解できている。

だから俺たちにも、やりようによっては小魚怪人を五匹、相手に出来る可能性を見ているのではないか?

そう思うのだ。

であれば、俺がすべきことは……。

「ニーズ!」

「あぁ?」

「……お前は出来る限り、一匹ずつ確実に潰すようにしてくれ!」

「……あぁ。分かった」

「ガヘッド! お前は必ずしも倒す必要はない。ニーズと小魚怪人を出来る限り一対一になるように他の奴らを牽制しろ!」

「……なるほど。確かにこの狭い通路なら、それが出来そうだな」

ニーズは、俺たちの中でも最も攻撃力があり、一対一なら小魚怪人相手でも押し負けることはない。

問題は数なのだ。

そしてこの迷宮の狭い通路内なら、俺とガヘッドがうまく動けばニーズと小魚怪人を一対一の状況に持って行けると思った。

あくまでも他の奴らを遠ざけつつ戦う、くらいなら俺とガヘッドでも出来る。

そして一匹ずつ確実に数を減らしていけば……なんとかなるのではないかと思ったのだ。

もちろん、体力の問題はあるので賭けではあるが……。

「……来るぜ!」

ニーズがそう叫び、俺たちは地を蹴った。