軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第596話 港湾都市と掘り返し

《海神の娘達の迷宮》、その遙か上の海上でそんなことが行われていたなどとは当然、レント達には察知することは出来ない。

ただ、それでもその戦闘……と呼ぶべきかどうか判断に迷う一方的な蹂躙の余波はしっかりとレント達の元にも届いていて、彼らを強く警戒させたのは勿論のことだった。

◆◇◆◇◆

信じられないほどの強大な魔力の集約と、深い海の底に存在する迷宮にまで伝わるほどの揺れを生じさせた何かがおそらく海上にあるのだろう、ということは俺にも、カピタンにも分かった。

ただ、それが何なのか想像がつかない。

恐ろしいほどに強い魔物なのか、それとも自然災害なのか、もしくはそれ以外の何かなのか……。

「……ともあれ、揺れは落ち着いた、か……」

カピタンが周囲の石壁などのうち、崩れそうなものがあらかた崩れ終えたのを確認してから、息を吐いてそう言った。

確かに、先ほどまであった小刻みな揺れはもう完全になくなっている。

それに加えて……。

「魔力も、もう感じないな……。何だったんだ? カピタンは分かるか?」

そう、一瞬感じた、爆発的な魔力の集約、それすらももう、跡形もないと言って良いほどに何も感じない。

むしろ、先ほどよりもずっと魔力的に周囲は安定しているなと感じるくらいだ。

魔物である俺の感覚は、そういうことに敏感である。

これについてはカピタンにも分かるようで、

「……何が起こったのかは俺にも分からん。ただ、これ以上は何も起こらなそうだとは思う。何というか……デカい魔物が暴れ回った後の森の空気感に似ているな。エネルギーの全てが発散されて、場が落ち着いた感じというか……」

なるほど、言われてみるとそんな気もする。

しかしだからといって完全に安心していい訳でもないだろう。

なにせ、先ほどの出来事こそ、一切の前置きなく急に起こったことだからだ。

とはいえ……。

「ああいうのは、心配するだけ無駄だと言っていい。どれだけ気をつけていようが、 出会(でくわ) すときは出会す。そういうものだ」

カピタンが達観した雰囲気でそう言った。

確かにそれもそうだ、というか冒険者をやっていれば誰でもそういう望まない出来事に出会すことはそれこそ一度くらいはある。

そんなとき生き残れるのは、ただの運だ。

まさに俺なんかがその良い例だろう。

そして、気をつけたからと言ってどうにかなったとも思えない。

「つまり、迷宮探索は続行、ってことだな」

俺があえて声に出してカピタンに確認すると、

「ああ。それでいいだろう」

と頷いた。

それから、

「……お、戻ってきたようだぞ」

《海神の娘達の迷宮》、その奥の方へと続く石造りの通路から、四人の人物が現れた。

当然それは、俺たちのパーティーメンバーであるところの、ディエゴとニーズ達だ。

ディエゴは冷静な表情をしているが、ニーズ達は不安そうな顔だった。

彼らは俺たちを見つけると、少し小走りで近づいてくる。

「……レントの旦那! さっきのはなんですかい!?」

縋るように駆け寄ってきて、俺にそう尋ねてきたのは、小太りの冒険者、ルカスである。 さっきの、とはまさに俺たちも感じたあの揺れのことだというのはすぐ分かったので、俺は言う。

「分かるわけないだろう……ただ、もう落ち着いたみたいだし、大丈夫じゃないか?」

それは紛う方なき本心だったのだが、ルカスからすればかなり無責任というか、あっけらかんとしたように聞こえたらしい。

必死な様子で、

「そ、そんなの分からないじゃないですか! もう戻りましょう! 早く戻って……今日のところは一杯やりましょう!? そうでもしなきゃ、落ち着きませんぜ……それともまさか、このまま迷宮探索を続けるなんて言わないでしょうね!?」

などと言っている。

しかし、そんなルカスを冷めた目で見ていたディエゴが、無慈悲に言い放つ。

「……ルカス」

「なんですかい?」

「レントもカピタンも、今日のところは引き上げる、って顔はしていないぞ。むしろ、あんなのは気にしても仕方が無いという表情をしている……そうだな?」

「ええっ!? ま、まさか……」

ギギギギギ、という油の切れた金属人形のように首を動かして俺たちを見たルカスである。

俺は彼に視線を合わせながら、はっきりと言った。

「……帰らないぞ。少なくとも、こんなことくらいじゃな」

じゃあどんなことがあれば帰るのか、と言われたら、まぁ、龍に出会うとか、それくらいのことがあればな……。

まぁそのときは帰ろうとしても無駄なのだが。

そもそもだ。

「ルカス、大体帰るにしたって夕方までは船は来ないんだぞ。それまでここで時間を潰していても仕方ない。どうせ動けないなら少しでも探索は進めた方がいい」

さっきまでの俺の言葉は、確かに聞きようによっては無謀な者の暴勇のように感じられるだろうと思い、より現実的な理由の方を伝えると、流石にルカスも理を認めたのか、

「……それもそうですね。あぁ、でもさっきのがまた起こったら……」

そんなことを言っている。

これにニーズが、

「ルカス、諦めろよ。俺が言えたことじゃないが、そもそもどうせ拾った命だろう。どっかでなくすにしてもそれはそれで仕方がねぇさ」

そう言って笑ったので、ルカスも苦笑して、

「……へっ。お前に付き合ってるとろくな目に遭わないな……まぁ、そうでもなきゃ、ここに潜ることなんて一生なかったかもしれねぇし、一長一短か」

「そういうことだ」

うまい具合に二人の間で話がついたらしい。

ルカスの怯えもそれで消えた。

それから、俺はふと思い出してディエゴに尋ねる。

「そういや……カピタンから聞いたよ。妙な幻覚を見たんだってな?」

「ん? あぁ、まぁそうだが……あれは俺の精神的な問題からだと思うぞ。ちょっと、この迷宮に関して色々あってな……情けない話だが、それでおかしな幻を見たんだと思う」

ディエゴの中ではすでにそういう理屈で決着がついているらしかった。

これをあえて掘り起こすのもなんだか申し訳ない気がするが、放置しておくわけにもいかないだろう。

なぜなら、この後も同じようなものを見る可能性があるからだ。

だから俺はディエゴに言う。