軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第590話 港湾都市とブラックアウト

神殿の入り口から中に入っても、相も変わらず内部は海水に占められていた。

しかし、これがずっと続くというわけではないことを俺たちは知っている。

もしもこの迷宮が最後の最後まで水中、というのであれば流石にニーズ達は連れてきていない。

基本も覚束ないような彼らに流石にそれは無茶だし、彼らを鍛えるのに水中戦だけの専門家にしても仕方が無いからだ。

とはいえ、それでも少しばかりこの水中は続く。

いわゆる一階層部分だけであり、そしてかなり短いという話をカピタンがしてくれていたのでそれほど心配はしていないが……。

だからといって、何の問題もない、というわけでもない。

それに初めに気づいたのはディエゴだった。

先ほどまでずっと静かだった水の動きが、急に圧力を帯びたためだ。

それなりに大きなものが、こちらに近づいてきている……。

方角については地上で索敵しなければならない場合よりも分かりやすかった。

いつも必ずそうだ、というわけではないだろうが、今回の場合、相手は単純な動きしかしていないようだからだ。

つまり、一直線にこちらに向かってくる……。

俺とディエゴ、それにカピタンが、その相手の方向に視線を向け、武器を抜く。

俺は片手剣、カピタンは剣鉈で、ディエゴが槍だ。

そんな俺たちの物々しい動きを見て、ニーズ達も何か起こっていることを察し、少し遅れて武具を抜く。

海中と言うことでかなりもたもたしていたが、こればかりは慣れが必要なので仕方が無い。

対してカピタンは何度となくここに潜っているし、ディエゴもこういう状況には慣れているのだろう。

俺も水中戦はこの十年で何度も経験しているし、武具の扱いでもたつくことはない。

ただ、それでも地上より動くのが大変なことは変わらない。

気を引き締めて挑まなければ……。

そう考えたそのときには、もう相手の姿は俺たちに見えていた。

それは、比較的大きな魚の魔物だった。

といっても、神殿の近くを悠々と泳いでいたものと比べれば子供か孫かというくらいの大きさでしかなく、圧力という意味でも大したものではない。

概ね、大人を二、三人、丸呑みに出来る程度という感じだ。

……それでも十分デカいか。

神殿に入ると同時に近づいてきたことから、あれがとりあえずの門番、という感じなのかな……。

強さはどれほどなのか……まだ一階層に過ぎないということを考えればさほどではないだろうが、どうかかるか。

まぁ、ここが迷宮攻略の始まり、ということを考えれば、まずはよくこの迷宮を知っているカピタンの行動に合わせるのが正解だろう。

彼の方を見ると、視線でもって、とりあえず俺に任せろ、と言っている……ような気がする。

言葉が発せないからなんとなくになってしまうが、長い師弟関係があるのだ。

それほど間違っていないはずである。

そしてそういうことなら、俺がすべきことはあの魚の魔物に向かうことではなく、ニーズ達を守ること、だろうな。

俺は泳いでニーズ達の前に陣取った。

ニーズ達にはまとめて一呑みにされないように少し距離をとるべきことをハンドサインで伝え、魚の魔物の動向を見守る。

ディエゴはカピタンと俺の動きを見て色々と理解してくれたようで、ちょうど中間地点に身を置いていた。遊撃を担ってくれるようだ。

事前に水中戦になることも分かっていたから、概ねのパターンを相談していたからこそ出来ていることだが、かなりの即席パーティーであるのに最初からこれくらいスムーズにやれているのは幸先がいいな……。

まぁ、それもこれも、あの魚の魔物を倒せなければ話にならないが。

だが心配はしていない。

戦うのがカピタンだからだ。

あの人はこと戦闘に関しては何の心配も要らない腕の持ち主だ。

実際、俺たちの位置関係を把握して、最も近くの獲物をカピタンと定めた魚の魔物に対し、カピタンは剣鉈を悠然と構えていた。

海中の魚の遊泳速度というのは、本来人間が追いつけるようなものではないのだが、魚の魔物がカピタンの直前でその巨大な口を開き、一噛みにしようとした瞬間を見計らい、カピタンは 水を蹴って(・・・・・) 斜めに避けた。

避けた場所はちょうど魚の魔物の頭上、斜め上であり、絶好の位置取りであることは遠くから見ている俺たちにも分かった。

カピタン自身も当然理解していて、剣を振りかぶる。

その動きは洗練されていて、地上での動作と速度も含めてなんら変わりがなかった。

水の抵抗はどこにいったのか、とか、先ほど水を蹴ったがあれは一体どうやって……とか色々聞きたいことが生まれる動きであるが、今重要なのはそんなことよりも、カピタンの剣鉈の刃の向かう先だろう。

それは静かに、しかし最短距離を走って魚の魔物を頭上から襲った。

そして、一瞬の後、魚の魔物の首が落ちた。

これにはディエゴも、それにニーズ達も目を見開いて驚いていた。

何故と言って、カピタンの剣鉈は大して長さもなく、あれほど巨大な魚の頭を一撃で切り落とせるほどの長い斬撃を放てるようなものではないからだ。

それなのに現実に魚の頭は落ちている。

ディエゴも、それにニーズ達も、冒険者であるから目の前であったことをそのまま事実として受け入れ、尊重する心があるが、それでも一体どうして、という疑問は隠せないのだろう。

しかし、そんな彼らの驚きにカピタンは反応することなく、ただハンドサインで向かうべき方向を指示した。

あまり長時間ここにいると、あの魚の魔物の死骸を食べるために海棲系の魔物が大小問わず寄ってくることは火を見るより明らかだからだ。

そうなる前に水中から上がってしまうべきだ。

その理屈は俺のみならず、他のメンバーも理解したので、先導するカピタンを慌てて追う。

ニーズ達もここに来て緊張感が増してきたのか、次の行動に移るまでのタイムラグが短くなってきている気がする。

良い傾向だ。

ただ、逆にあまりにも緊張しすぎるのもまた良くないので、その辺りはしっかり見て誘導していってやらなければならないが……今の状態はまだ大丈夫そうだな。

まぁこの後もこんな風でいられるかというと難しいところだが。

迷宮で彼らがどれくらい戦えるかはこれから見るからだ。

水中戦というわけではないのでそこまでのプレッシャーはない、と思うのだが……。

今回の迷宮探索は色々と考えなければならないことが多いな。

そんなことを思いながら、先へ進んでいく。

すると、徐々に光が見えてくる。

水上から漏れているのだ。

しかし、ここは神殿の中であり、あの先が海の上に繋がっているわけではない。

あの先にも迷宮が続いているのだ……。

まず、カピタンがそこに辿り着き、水の上に上がっていく。

ディエゴ、ニーズ達と続き、そして俺も……と思って手を伸ばした。

しかし、突然、目の前が暗くなる。

……窒息?

いや、そんなわけはない。

ではどうして……。