軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第589話 港湾都市と迷宮

一体どのくらい潜っただろうか。

海面の上から差し込んで来る光はほんの僅かとなり、周囲はほとんど夜の暗闇に近いほどの暗黒が占めている。

夜空に星が瞬く地上の方が、ここよりもずっと明るいだろう。

けれど、そんな中でもまだ行動できているのは、ここにいるメンバーそれぞれが手に 海灯(ヤム・オール) と呼ばれるランプに似た魔道具……いや、呪具を持っているからだ。

これは海の中で使えば無尽蔵に灯りを灯し続けることが出来る非常に便利な道具なのだが、地上で使うと、運が悪いと爆発する厄介な代物で、だからこそ呪具として扱われている。

元々は普通のランプ……というか、魔道具であるが欠陥があるが故にそうなるのだ、と思われていたらしいが、どこにでも変わり者はいて、海の中で使ったらどうだろう、と試した結果、それが適した使用法なのだと判明したらしい。

どうしてランプを海の中で使用しようとしたのか、正直言って理解に苦しむ判断だが、しかしそのお陰で俺たちはこうして海の中でもかろうじて活動できるのであるから文句も言えない。

ただ、世の中、一体どうしてそんなやり方をしたのか……なんて思ってしまう物事は沢山ある。

食べ物の大半はそうだしな。

どうして大冬蛙とか 殺人蟷螂(カーティス・マント) とかを食べようと思ったのかとある特定の地域の住人達に尋ねてみたいくらいだ。

まぁ、実際は数多くの失敗があって、その積み重ねで今があるわけで、そういうおかしな取り組みをしてくれる人がたまに現れることが人類の進歩を支えているのだろうが……。

それを言ったら、俺だってその変わり者の一人だろうしな。

流石に中々いないだろう。

龍に食われて 骨人(スケルトン) になり、 不死者(アンデッド) にはなっているけれども冒険者の最高峰、 神銀(ミスリル) 級を目指している冒険者、なんてものは。

だから俺もきっと、人の進歩を支えている……はず、などと益体もないことを考えていると、前方でゆっくりと進んでいた海灯の静かな灯りが停まり、それから合図するように横に揺れる。

実際、それは事前に俺たちの間で決めていたサインだ。

目的の場所へ到着した、という意味だな。

最前の海灯はその場で揺れ続け、そこに一つ、また一つと他の灯りも集まっていく。

そして、俺も最後にそこに合流した。

近づけば、しっかりと海灯に照らされた皆の顔が見える。

カピタン、ディエゴ、ニーズ、ガヘッド、ルカス……そして俺。

誰一人として欠けることなくここまでたどり着けたことにとりあえず安堵する。

俺とカピタン、ディエゴはともかく、ニーズ達については途中ではぐれる可能性もあったからな……。

一応、よく見ていたが、それでも不安は不安だ。

場合によっては迷宮の中よりもこの海の上から、ここまでの道のりの方が彼らにとっては危険だった。

中に入ってしまえば、少なくとも簡単にはぐれると言うことはないだろうから。

そう、迷宮の中にだ。

今や、その目的地は俺たちの前に姿を現していた。

六つ集まった海灯の光が、全てではないにしろ、その存在を俺たちの前に見せてくれている。

ニーズ達は初めて見たのか、目を見開きつつそれを見つめている。

それというのは……もちろん《海神の娘達の迷宮》だ。

全体としては、石造りの巨大な神殿、といった感じである。

そして不思議なことに、柱や屋根に地上にあるような植物が蔓を巻きつけ、森のように密集して生える巨大な珊瑚達と相まって、幻想的な風景を作り出していた。

周囲には好戦的な魔物の姿はないが、大人しくも巨大で、俺たち六人くらいなら軽く一呑み出来そうな魚系の魔物が一匹、迷宮の周りをゆったりと泳いでいる姿も見えた。

――あれは襲ってこないよな?

という視線を俺に向けるニーズに気づいたが、それはなんとも言えないところだ。

魔物も全てが人間に敵対的というわけではないが、通常の動物と同じで今の今まで普通に仲良く出来ていたと思ったらいきなり手を噛んできた、なんてことは普通に起こりえる。

あの巨大な魚がそんな気まぐれを起こしたら、俺たちは手を食いちぎられる程度では済まない。

船ごと一呑みにされたという昔話のように、六人まとめてあの魚の腹の中だろう。

まぁ、そうなったとしても俺は《分化》なりなんなりして出てくることも可能だとは思うが、他のメンバーはそうはいかない。

腹を突き破って出てくるしかないな……。

そんな事態に陥るわけにもいかないし、早いところ迷宮に入った方がいいだろう、というのは俺以外も思ったようで、カピタンが手で合図をし、先に進むべく先導を再開した。

一旦ここで合流したのは、ここから神殿の入り口までは珊瑚や植物が絡まり合って、結構入り組んでいるからだ。

先ほどまでのように長い距離を取りながら進むと、それこそお互いに位置を見失いかねない。

またあの魚も実のところ刺激すればそれこそ一呑みにしてくるらしい。

タイミングを見計らって、かつ最短距離で迷宮の入り口に辿り着くには、カピタンの案内が不可欠だった。

ゆっくりと進んでいくカピタンに着いていく俺たち。

珊瑚はともかく、植物の方は見れば見るほど地上のそれとそっくりで、花が咲いているものまである。

迷宮というものが発する、理を変えてしまう力がそうさせるのか、それともこういう植物がこの辺りには元々生えているということなのか……。

俺も薬効のあるものであれば特殊な植物でもかなり詳しい方だとは思うが、そうではないものについてはそこまででもない。

しかも、ここにだけ生えている特殊なものだったら、知りようがないというものだ。

けれど、ルカスが花については少し摘んでいるため、もしかしたらルカリスでは比較的知られているのかもしれなかった。

後で聞いてみよう……俺が知らず、しかしルカスが知っている知識というのも当然沢山ある。

お互いに教え合えれば、それもまた、互いのためになるだろう……。

そして、俺たちはとうとう迷宮の入り口に辿り着く。

それは神殿の偉容に比して不釣り合いなほどに小さかった。

まぁ、神殿があまりにも大きすぎるので小さく見えると言うだけで、それでも十分に巨大なのだが、位置も真正面と言うよりは端の方に近い。

……何でだろうな?

不思議に思いつつも、海の中では誰が答えてくれるわけでもなく、カピタンが先に進むぞ、という合図を入り口でしてきたので、俺たちもその後に続いたのだった。