軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第587話 港湾都市と怖気

世の中には天才というものが確かにいる。

大したことを教わっていないのに、人の期待の何倍、何十倍の結果を出す化け物のような奴らだ。

そしてそういう者たちこそ、冒険者の頂点へと登り詰めていくものだ。

そうではない者たちは途中で心を折り、諦めて他の職業につくか、徐々に腐っていくことを自覚しつつも、惰性のように同じ仕事を続けるかのどちらかだ。

いや、もう一つあったか。

死ぬという結果が。

この最後の一つはある意味で救いであろうが、やはり生まれてきたからには寿命を全うしたいのが人間というものだ。

だからこそ、賢い奴は自分の限界に気づいた時点で無理をしなくなる。

しかし、そうしてしまったが最後、その冒険者には成長がなくなるのだ。

人の成長は、自分の限界を一つ抜けた上に上がれるかどうかは、それに挑戦できるかどうかにかかっているのだから。

ただ、たった一人でそれを行えばやはり地獄へと真っ逆さまに落ちていくもの。

だからこそ、その直前で引き留める者が……教える人間が必要になってくる。

ニーズ達には今まで、そういう人間がいなかった。

だからこそ、腐っていくしか道がなかった。

しかしこれからは違うのだ。

ただ、あまりにも怯えすぎているのは良くない。

「さぁ、そろそろ行くぞ。カピタンとマズラックが港で待っているからな……覚悟を決めるんだ」

俺がそう言うと、ルカスが言う。

「あ、あのう……レントの旦那」

「なんだ?」

「今日は……やっぱり本当に《海神の娘達の迷宮》に行くってことで良いんですかい……?」

「そうだが……」

俺が頷くと、ルカスは慌てた様子で、

「で、でもっ、俺たちはその……海霊草探しをする要員ってことで……いいんですよね?」

と尋ねてきたので、これにも俺は頷いた。

「まぁ、そうだな。基本的には。だが他にもやってもらうことはあるぞ。というか、迷宮に潜るんだ。しっかりと魔物と戦うのは当然として、海霊草以外の素材についても探してもらわないと……」

「……や、やっぱり戦うんですかい……?」

ここまで来てなるほど、と思う。

なんだかんだまだ自分たちがまだ、戦うとは思っていなかったと言うことか。

鍛えてやるという話はしているのだが……鍛えると言ったとき、いきなり実戦に放り込まれるとは普通は思わないだろう。

つまりはそういうことだ。

一応、体力作りと場数を踏ませる、という話はしておいているので分かっているものと思っていたが……そういうわけではなかったようだ。

俺は言う。

「そりゃそうだろう。お前達を鍛えると約束したんだからな。どこで鍛錬するつもりだったんだ?」

俺が尋ねれば、これにはガヘッドが答える。

「……まずは迷宮の外である程度鍛えてくれるものと思っていた。迷宮の中では、海霊草探しだけしていればいいのかと……」

「それじゃあ時間がかなり無駄だからな。せっかく実戦が出来るところに行くんだから、それをしない手はないだろう。そもそも、お前達は曲がりなりにも冒険者なんだから、それなりに戦えるだろ?」

それこそ俺に三人で襲いかかってきた奴らだ。

魔物の二匹や三匹、十匹や二十匹、大したものじゃないと考えているのかと思っていた。

しかしニーズ達は顔を見合わせ、それから何かを諦めたかのようにため息を吐く。

それからニーズが言った。

「場所が《海神の娘達の迷宮》じゃなきゃな……」

「そんなにあの迷宮が恐ろしいのか?」

「まず近づくだけでも呪具が必要な迷宮なんて、俺たちは経験したことがねぇ。それに出現する魔物もかなり強いと聞く」

「……だが浅層はどんな迷宮であってもそこまで強力な魔物は出ないのが普通だろう。あそこだってその例外じゃない」

「そうは言うけどよ……」

意気地のない奴らだな、と思うが、まぁ、それだけあの迷宮はルカリスの住人にとっては特別、ということなのかもしれない。

ただ、何を言おうとも止めるつもりはないので、俺はニーズたちに言う。

「……いいから行くぞ。荷物は持ったな? ほら、店から出ろ」

追い出すように彼らの背中を叩くと、慌てて店から外に出て行くニーズ達。

あのまま逃げる、という可能性もないではないが、変なことをすれば俺に襲いかかったことを 冒険者組合(ギルド) に報告すると言ってあるので、そうそう逃げ出したりはしないだろう。

良くも悪くも、彼らの命を繋いでいるのは冒険者組合だ。

そこから追い出されれば、それこそ夜盗にでもなる以外に彼らの生きる道はない。

それが、落ちぶれた銅級冒険者の行き先というものだ。

まぁ、俺に襲いかかったという事実がなければ普通に就職して町人として暮らしていく、という選択肢もあるだろうが……。

俺が言わなければそうすることも出来はするだろう。

ただ、そこで俺が甘くすると、あいつらはまたそのうちやらかす可能性もあるからな。 やっぱり、ある程度性根を叩き直して、ついでに冒険者として生きていけるようにしなければならない。

「……乱暴だな」

ディエゴがそう言ったが、

「ああでも追い立てなきゃ、いつまでもこの店に引きこもってるだろ、あいつらは」

「それは困る……さて、俺たちも行くか。港だな」

「あぁ。船を準備して待っててくれるって話だからな……」

そうして俺たちも店を出て、港に向かった。

◆◇◆◇◆

港に着くと、数多くの船が留まっているのが分かる。

今の時間は早朝だが、しかしそれにしても船が多すぎる気がした。

通常であれば、漁師などはすでに出ているべき時間帯だからだ。

「……それに、あっちは噂の定期船か」

俺が少し遠くに留まっている大きな船に視線を向けながらそう呟くと、ディエゴが頷いて答える。

「あぁ。日に一度だけ、《海神の娘達の迷宮》とルカリスを結ぶ定期船だな。だが、本来であればあれも出ている時間帯だ……やはり、沖合に出現しているという魔物のことが影響しているのだろうな」

ディエゴにはカピタンから聞いた《魔王》の軍勢の話も伝えてある。

今日、港に船が多いのは長くルカリスに住んでいる彼からしても異常で、理由はつまりそういうことのようだった。

「マズラックまで船を出さない、なんて言わなければ良いんだがな……」

俺がそう言うと、ディエゴは首を横に振った。

「いや、あの爺さんは出すと言ったら出すよ……ほら、見てみろ」

そう言ってディエゴが視線を向けた方向を見てみれば、中型船の中ですでに待ち構えているマズラックとカピタンの姿がある。

どう見ても船を出す気満々、という感じで、ディエゴの言うとおり心配する必要はなさそうだ。

また船の前にはすでにニーズ達も立っている。

どうやら逃げなかったらしい。

「俺たちが最後みたいだ。急ぐか」

ディエゴがそう言って走り出したので、俺もその背を追った。