軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第584話 港湾都市と無神経な言葉

マズラックの言葉に、なるほど、と俺は思う。

ずっと気にはなっていたのだ。

ディエゴが父親のことを語るとき、常にそれは 過去形(・・・) だった。

何らかの理由で離れたところにいるだけ、という可能性もあったが、呪物屋……雑貨屋は、ディエゴの父親が始めた店だという話だった。

わざわざそれを放置して、どこかにずっと行ったっきり、というのもあまりないだろう。

そもそも、そうであるならディエゴもそこに言及するだろうしな。

そうしないということは、すでに帰らぬ人になっている、という可能性が高いと察していた。

ただ、あえてディエゴが言及しないことを理由なくこちらから詳しく尋ねることも憚られたため、はっきりとはしなかったが、マズラックの台詞でそういうことなのだと分かった。

こうなると、母親の方も気になってくるが……。

「……親父は幸せだったよ。好きなことをやって、それで死んでいけたんだからな……」

ディエゴがマズラックにそう言うと、マズラックも頷いて、

「確かにな。ある意味勝手すぎる男だったが、だからこそお前が生まれたとも言える。ただ、マリアーナがいなくなってからは……」

「お袋のことは……」

何かディエゴが言いかけたところで、酒場の奥の方から竪琴の音が聞こえてきた。

「……吟遊詩人か。たまにはいいな……よし、ちょっと聞いてくる」

ディエゴは不自然にそう言って席を立ち、酒の入ったコップと干し肉を一枚持って吟遊詩人の声がよく聞こえる席にまで行ってしまった。

これにマズラックは、

「……あぁ、余計なこと言っちまったみたいだな。悪いな、皆。俺のせいで」

そう、俺たちに謝ってくる。

これにカピタンが、

「いや、別にいいさ。ディエゴもそこまで気にしてはいないんじゃないか? ただ、これ以上話したいわけでもないってだけだろう」

そういう話は、誰にだってある。

俺も、昔の……子供の頃のこと、父や母のことを酒場で話す気にはあまりなれないからな。

マズラックはそういう意味で少しばかり無神経だったが……。

「だといいんだが……後で謝っておくことにする。ディエゴとはなんだかんだ、久しぶりに会ったんでな。加えて酒も入っているとどうも口が変に軽くなっちまって……仕事の話をした方が良さそうだ」

マズラックも自覚があったらしく、頭を強く掻きながらそう言った。

まぁ、確かにそういうこともある。

人間誰もが常に自制心を発揮し続けられるなら、この世に争いなど起こらない。

酒は特にそういったものを軽く剥がしてしまうからな……。

喧嘩にならないようにディエゴが席を立ったのは、彼が大人だと言うことの証だろう。

マズラックの謝罪もすぐに受け入れるはずだ。

「そういうことなら、仕事の話をするか。といっても、マズラックに頼むことは今日までの依頼とあまり変わらないが。変わるのは人数だけだな」

カピタンがそう言うと、マズラックは頷いた。

「あぁ。カピタン……あんたに、レント、ニーズ、ガヘッド、それにルカスの……五人ってことでいいか?」

「俺としてはその予定だが……」

カピタンが俺を見ながらそう言ったので、俺もマズラックに言う。

「あぁ。それで構わない。ただ……」

「ただ?」

「ディエゴはどうかなと思って」

ふと気になったのでそう口にする。

するとマズラックが首を傾げて、

「なんだ、ディエゴも迷宮に潜るのか? しかも《海神の娘達の迷宮》に? まさか……」

不思議そうにそう言った。

その言葉の意味は気になったが、ディエゴの過去についてはさっきのこともある。

特に触れずに、ただ仕事上の話だけを続ける。

「潜るかどうかは分からないが、俺はディエゴに呪物を持ってくることを約束してるんだよ。呪物は……なんというか、変わった品が多いだろう? 確保した場所の様子が分からないと稼働すら出来ない、なんて場合もある」

たとえばそれは今回、俺以外の人間がお世話になる《空気管》だろう。

あれを口に挟んでいれば水中で息が出来る、なんていうのは、あの呪物が水に近しい場所で確保された品だと分かっていなければ推測が難しい。

ただの管にしか見えず、何かの部品か?で終わる可能性もある。

しかし、水に近い場所にあったものだ、という情報があれば、水の中で使うものかもしれない、という想像が働くし、そこから用途にたどり着ける可能性が出てくる。

迷宮に出現する呪物は、魔道具関係よりもずっとその場所などとの結びつきが強く見える場合が多いと言われる。

だからこそ、それがどこに出現したものか知るのは重要だ。

つまり、俺が呪物を確保してディエゴに持って行くのはいいが、ディエゴがその呪物を確保した場所を観察したくなることもないとは言えない。

その場合に足となるのはマズラックの船だけだ。

そんな俺の考えをマズラックは理解し、頷く。

「あいつが……《海神の娘達の迷宮》の呪物を集めてる、か。なるほどな。そういうことなら、場合によっては潜りたくもなるだろう。今聞くのはちょっとあれだが……後で聞いてみて、ディエゴが潜りたいっていうなら、船に乗せるのは構わねぇ。だが、あんたたちはそれでいいのか?」

カピタンと俺にマズラックがそう尋ねたので、カピタンがまず、言う。

「俺としては構わない。俺は海霊草が欲しいだけだし、他に呪物が必要ならディエゴにくれてやってもいい。呪物なんぞ、大抵が使いようがないからな……ガルブは欲しがりそうだから、土産にいくつか確保しても良いかもしれないが、それくらいだ。それに、ディエゴは身のこなしを見る限り、足手まといになりそうもない。海霊草を見つけるには目が一つでも多くあった方が良いし……むしろ、実力的にはニーズ達の方が怪しいくらいだが……まぁ、俺とレントで鍛えるんだ。問題ないだろう」

ニーズたちに鋭い視線を向けながらそう言ったので、ニーズたちが少し怯えていた。

俺は彼らに、

「……まぁ、カピタンの修行は厳しいから、覚悟はしておいた方がいいかもしれない」

「一体何をさせられるんだよ……」

ニーズがそう言ったので、俺は言う。

「とりあえず、最初は体力作りと場数を踏むところからだろうな……昔は俺もやったし、乗り越えられた。大丈夫、心配するな」

「信用が出来ねぇぜ……」