軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第570話 港湾都市と雑貨屋

曲がりくねった路地裏を先ほど知り合ったばかりの獣人、ディエゴの案内に従って進んでいく。

「……大通りに出た方が早くはあるんだが、流石にこいつらを担いだままだと色々とまずいからな」

ディエゴがそう言った。

確かに俺たちの肩には先ほど倒した合計三人の冒険者が担がれている。

人通りの多い大通りにこのまま出たら、すわ誘拐か、という話になってしまうことだろう。

まぁ、その場合は素直に襲われたから倒した、家で介抱するつもりだ、と言えば良いのだろうが、それを言ったらそれこそこいつらは官憲に連れて行かれてしまうだろうし、俺たちも色々と事情を聞かれることになるだろう。

それは全く望んでいる展開ではないので、こそこそと路地裏を進む方が目的に合う。

問題は俺には全くどこに進んでいるのか分からないため、ディエゴが悪人で俺のことを仲間のところに連れて行ってどうこうしようとしている、とかいう場合には逃げようがないというところだろうか。

ただ、これについてはさほど心配する必要もあるまい。

そんなことを考えいるような奴が、わざわざこうして路地裏をルートに選ぶ理由など説明しないだろうからな。

その気になれば俺には《分化》という、普通の人間には捕捉しがたい逃走方法もあることだし、最悪の場合でも、多分なんとかなる。

実際、俺の勘は正しかったらしく、三十分ほど歩いてとうとう、目的の場所に到着する。

「……入ってくれ」

一軒の石造りの頑丈そうな家屋の裏口に辿り着くと、ディエゴがそう言った。

自分が先に入れば良いだろうに、二人の冒険者を肩に担ぎながら、器用に扉を開いて把持してくれている。

「おぉ、悪いな……ディエゴも」

中に入って、俺が扉の取っ手を押さえると、ディエゴも中に入ってきた。

それから、再度ディエゴが家屋の中を先に進んでいく。

感心したのは、家の中をただ進んでいくだけで、薄暗かった部屋の中にぽつりぽつりと光が灯っていくことだろうか。

「……贅沢に魔道具を使ってるな」

俺がそう言うと、ディエゴは首を横に振って、

「ほとんど俺の親父が迷宮から持ってきたもんだ……親父のお陰さ」

そう言った。

「へぇ、親父さんが……冒険者なのか?」

「……冒険者、だった、ってことになるな。ついでに雑貨屋もやってて……今は俺が継いでる」

「……そうか」

短い会話だが、これでなんとなく事情は分かる。

つまり、ディエゴの父親はもうすでにこの世の人ではないと言うことだ。

俺は尋ねる。

「門番が"マルガの呪物屋"って言ってたのは、親子二代でやってるから、ってことかな?」

「そういうことだな。時にはっきり店の名前を決めてやってるわけじゃないんだ。親父がやってたときは、"ラウルの呪物屋”だったぜ」

ディエゴの父親の名前がラウル、ということだろう。

「何で店の名前をはっきり決めない? 不便だろ?」

「俺も親父もほとんど道楽に近いからな。本業は冒険者の方なんだ。雑貨屋の方は、まぁ、気が向いたときか、常連が来るって連絡をもらったときくらいだけだな」

「それでやってけるのか?」

「言ったろう。道楽なんだ。それに……この街ルカリスでは、呪物屋はそれなりに需要があるんでな……よっ、と」

言いながら、どうやら目的の部屋に辿り着いたらしい。

ディエゴが部屋の中心に据えられてあるソファに、肩に担いだ冒険者を下ろしたので、俺もそうする。

しかし、ただでさえ体がでかくてかさばる冒険者三人にソファを占領されてしまったので、俺たちの座る場所がなくなる。

ディエゴはその辺から適当に椅子を持ってきて、

「……くつろいでくれ、ってわけにはいかないだろうが、とりあえずここに座っててくれ。今、茶を持ってくる」

「いや、適当で大丈夫だぞ」

「いいから客は座ってろ」

ディエゴはそう言って、キッチンの方へ歩いて行った。

なんだか突然押しかけたのに丁寧に扱われて申し訳ない気分に陥る。

ディエゴもこんな冒険者三人なんて受け入れる必要なかったのに。

ついでに俺についてもな。

俺のことをお人好し扱いしていたが、ディエゴこそ、まさにそういう感じの男では無いだろうか。

しかし、助かったのは事実で、まぁ、可能な限り迷惑はかけないようにしたい……。

――ことり。

と、テーブルの上に湯気を立てるカップが置かれた。

「へぇ、良い匂いだな……」

「ルカリス原産の……とは言わないが、舶来ものの茶だ。中々に味がいいぞ」

アリアナは気候の関係で農産物の生産があまり盛んでは無く、だからこそ商業が発達して、貿易も頻繁に行っている国だ。

当然、茶についても育ちにくく、育ってもそこまで良い味のものはない。

だが、ディエゴが出してくれたお茶に口をつけると、鼻に抜けるような香りと透き通った味がした。

舶来もの、というのは本当のことのようだ。

「……俺の友人に茶葉に凝ってる奴がいて結構良い奴を飲ませてもらえるんだが……それに匹敵する味だな。ディエゴの趣味か?」

もちろんそれはロレーヌのことだ。

ディエゴは俺の質問に答える。

「俺が茶に拘るような顔に見えるか? ……まぁ、あればうまいものを飲みたいとは思うが、その程度だ。客にもらったんだよ」

「あぁ、さっき言ってた常連とかにか……」

ということは結構な良客が来ると言うことだろうか。

これだけの茶葉を持ってくる者が一般庶民ということもあるまい。

ロレーヌは金を持ってるから買えるが、一般人はもっとグレードの低いものを買う。

「そうさ。こんな店にそんな上客が来るなんて不思議か?」

「いや……そこまでは言わないけど、少しな」

店を開けるのは不定期だと言うし、本業は別にあるとも言っていた。

呪物屋といってもマルトなら珍しいが、ルカリスなら他にもありそうだし、どうしてもここを、という感じでも無いだろうに。

そう思っての疑問だった。

これについてディエゴは言う。

「まぁ、俺は鑑定神の神殿で修行していたことがあるからな。呪物についてある程度の鑑定ができるから重宝されてるんだよ。ルカリスは大きな街で、目利きも少なくないが、わざわざ鑑定神のところで修行して呪物屋なんてやってる奴は俺くらいのもんさ」