軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第562話 山積みな課題と剣の師の行方

「……それでここに来たと言う訳かい」

ハトハラーの薬師かつ凄腕の魔術師である老婆、ガルブの自宅兼店舗を訪ねた俺に、ガルブはそう言った。

急に訪ねて来たことについては、あの転移魔法陣の存在を知っているガルブはまるで驚いてはいなかったが、なぜ来たのか、という理由については分からなかったようで、今一通り説明したところだ。

ちなみに今日はロレーヌとではなく、俺一人である。

ロレーヌは今日から親父に 従魔師(モンスターテイマー) の基礎を教えてもらい始めたからだ。

俺がどうするかはっきりしてからでも良かったのだが、ロレーヌが新しい知識を得られるまたとない機会に我慢が出来そうもなかったので、先に始めておいてもらうことにした。

ロレーヌに先にある程度学んでおいてもらえれば、後で俺が学ぶ段になったときに彼女にコツなども聞けるだろうし、悪いことではないだろう。

子供の頃の記憶を引っ張り出すに、親父自身、それほど人にものを教えるのは得意ではなかった記憶があるし、ロレーヌに整理してもらった方が俺にとってはむしろ早道である可能性すらある。

「あぁ。やっぱり俺が初めに学んだ“師匠”って言えば、結局ガルブとカピタンだからな。魔術についてはロレーヌに教えてもらえばいいだろうが、薬のことについてはガルブに、剣での戦闘についてはカピタンにもう一度鍛え直してもらいたくて……」

薬師としての修行は別に必要ないようにも思われるかもしれないが、そうでもない。

薬師としてガルブにそれなりに色々教わった俺であるが、マルトで冒険者として過すうち、あまり使用頻度が少ないものについてはあやふやになっている部分も少なくない。

しかし、銅級冒険者として魔物をただひたすらに倒して小銭を稼いでいる生活の中ではあまり使う機会がなかったにしても、今にして思うに、いくつか有用だと思われる薬もあり、それらについて学びなおしたいのだ。

剣での戦闘技術については言わずもがなであり、加えて“気”の運用についてもカピタンは達人である。

俺もある程度は“気”が使えるようになったとはいえ、カピタンがやっていたようなことに関してはまだ、からっきしなのだ。

やはり鍛え直す必要がある。

「……あんた、教えた薬の素材や調合を忘れたのかい?」

俺の言葉に、ガルブが少し視線を鋭くしてそう尋ねる。

しまった、叱られるか、と思ったがここで嘘をつくべきでもないだろう。

俺は言う。

「少し……」

するとガルブは、ふぅ、とため息を吐き、それから視線を緩くして言った。

「……全く。まぁ、仕方ないだろうさ。もう十年以上前に教えたことなんだからね。それにあんたは本業の薬師ってわけじゃない。冒険者をやっていて、よく使うものとそうでないものが出てきて、後者の方については記憶が薄くなることもあるだろうさ」

「理解してくれて助かるよ」

「まぁ、ただ時間もそうあるまい。基本的には試験に役立ちそうなもので、忘れてしまったものだけを覚えなおすってことでいいね」

「もちろん。……他のものについても学びなおしたいものはあるんだけど、それはまたの機会にお願いできるか?」

「ああ、構わないよ……おっと、そうだった。そう言えば以前は教えられなかったが、今のあんたには魔法薬も教えられるよ。魔力量がかなり増えたようだからね」

意外な提案に俺は驚く。

ガルブは村人に薬を売る時、それが通常薬か魔法薬かを特に説明していないが、その中には魔法薬もあった、ということなのだろう。

一般的にはしっかりと説明する。

それは値段の問題もあるが、それ以上に、人によって合う合わないがあるからだ。

にも拘わらず、ガルブがそういうことをしなくて問題なかったのは、薬を買いに来るのがこの村の村人だけであり、ほぼ顔見知りであるからだろう。

ガルブ自身が購入する者の素性や体質を知り、症状なども聞いたうえで適切な処方をするために、問題が起きないわけだ。

薬師、と言ってもほとんど医者や治癒師のような仕事をしているということだ。

それにしても嬉しい話である。

魔法薬と言えばロレーヌも専門家だが、帝国仕込みであるためか俺がガルブから学んだそれとはかなり系統が違う。

また錬金術の業も必要になってくるため、彼女から学ぶとなると年単位での修行が必要になってくるものだ。

だから、ロレーヌが魔法薬を作っていても、俺は手伝いくらいしかできない。

もちろん、十年前から今くらいの魔力量があったらロレーヌから学んでいただろうが、俺の魔力は最近増えたものだからな……。

まずは魔術をしっかり身に着けてから、という方針もあって魔法薬関係についてはロレーヌに頼りきりだった。

しかし、ガルブが教えてくれると言うのであれば……。

そのつもりがある、ということはロレーヌのそれのように、錬金術の知識や技法を覚えるところから、というわけではなく、今までの薬師としての技能の延長で出来るものなのだろう。

ただ、心配ではあるので一応聞いておいた方がいいか……。

「……今の俺の魔力や知識でも身につけられるのか?」

「まぁね。ただ勘違いしないでほしいんだけど、私の知っている魔法薬の作り方すべて、というわけではないよ。あくまでも基本的なものになるだろうね。それでもいざというとき、 回復水薬(ポーション) の一つや二つ、自分で作れれば違うだろう?」

回復水薬にも普通薬と魔法薬があるが、当然後者の方が効力はずっと上だ。

またそれ以外にも薬それ自体の製作時間の短縮が出来たりするなど、効力以外にもメリットはある。

本当にじっくり製作した場合には普通薬の方が高い効力をだせる場合もあるので一概にどっちの方が優れている、とは実のところ言えないのだが、両方作れるに越したことはないだろう。

俺はガルブの言葉に頷いて、

「その通りだ。ありがたいよ……本当なら昔から作れればその方が良かったんだけどな」

「ま、そこは仕方がないだろうさ。魔術師になれる者が少ないように、魔法薬を作れる者も少ない。それでも、あんたはその資格を得られたんだからね。そのことに感謝するこった」

「……その通りだな」

デメリットとして魔物の体になってしまう、というのがあるが、それもまた仕方ない。

いつかは人に戻るつもりはあるのだけれど。

それから、俺はガルブにもう一つ、薬師としての修行のやり直しを頼む以外の目的の方を訪ねる。

「……そうだった。カピタンがどこにいるか知らないか? 狩人小屋に行って聞いてみたんだけど、どうも留守にしてるって……」

実のところ俺はガルブのところよりも先にカピタンの方を訪ねていた。

優先順位的にまずは剣術と気の修行を先にすべきだろう、と思ってのことだった。

しかし、残念ながら留守だったのでガルブを訪ねたという経緯がある。

カピタンは普段、自宅か狩人たちが集まる狩人小屋にいるのだが、どちらを訪ねてもいなかった。

他の狩人たちも居場所を知らないと言うことで、ガルブなら、と思ったと言うのもあった。

これにガルブは、

「あぁ、そういえばそうだったね。カピタンなら今、海に行ってるはずだよ。ちょっと薬の材料で必要なものがあって、頼んだんだ」

そう答える。

何もおかしくはない……ように聞こえるが、実のところこの台詞はハトハラーで聞くには決定的におかしい。

「海? ここから何キロ離れてるんだ……?」

そう、ハトハラーには海なんてない。

一週間では辿り着かないくらいに距離がある。

しかしこれにガルブは笑って、

「今更そんな距離のことなんて心配する話でもないだろう。あんただって一週間かかる距離を一瞬で来たじゃないか」

それでカピタンがどんな方法で海に行ったのかを理解する。

「……転移魔法陣を使ったのか」