軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第559話 山積みな課題と伝えられた知識

「私の技術?」

インゴが首を傾げたので、ロレーヌは自らの持つ魔法の袋から何かを取り出す。

それは 小鼠(プチ・スリ) たちが背負っていた容器の少しサイズの大きめなもので、中に何が詰まっているかは言うまでもない。

それをロレーヌがゆっくり開くと、そこからぷるん、とした物体が我が実家のテーブルの上に這い出てきた。

「……これは……スライム、か。一般的なものよりも大分小さいな?」

インゴはそれに一瞬驚きつつも、大して動じた様子はない。

流石に魔物を従える技術を有している以上は、その対象に対しても冷静でいられるとうことだろう。

それに、実際このスライムは極めて小さく、人間に対する脅威という意味でも取るに足らないと言うことを分かっているのだろう。

普通の村人やマルトでも戦う技術を持たない普通の市民にこれを見せればそれでもかなり驚くし怯えるものなので、そこのところも流石というところだ。

「ええ、これはマルトの地下にある下水道で確保したものですから」

マルトの地下には迷宮が広がっているが、あれは現在使われているものよりも古い時代に作られたものを素材に作られたものであり、かなり深いところにある。

それが幸いしてマルトの現在の水道設備には大きな損傷はない。

それでもあれだけの地下改変の影響を受けないはずがなく、ちょこちょこ不具合は出ているようだが、しっかりと修復が行われており、問題なく稼働している。

マルトの職人達が優秀というのもあるだろうが、おそらくラトゥール家の暗躍もあるのだろうなという気はしている。

直接聞いてはいないが、あの人たちはかなりマメに街の維持をしている気配がある。

ともあれ、そんなところで確保した、と言われてインゴは納得して頷く。

「なるほど、街の防備の隙間を抜けた小型種ということか。といっても、スライムは他の魔物の小型種などとは違って、サイズにグラデーションがあって本当に小型種なのかどうかの判別も難しいがな……単純に大きさの話をするならスライムもいずれ年経たものは山に匹敵するほど巨大になるらしいが……流石にそれは見たことがない。この辺りで現れるのは、いわゆる 大(グラン) スライムと言われるサイズ程度までで、こういった小型種は珍しい」

「やはり、魔物についてはよくご存じなのですね」

「他の魔物についてもそうだが、スライムの生態については父からよく学んだからな。ただ、私の学んだそれはこの村で我々の一族に伝わってきたもの。都会の学者殿の学説とは異なる部分も多いと思うが……」

「確かに、一般で言われているスライムの知識とは異なるようですが……たとえば大型のスライムに山に匹敵するほどのものが存在するとは聞いたことがありません」

俺も山に匹敵するスライム、なんていうのは聞いたことがないな。

当然見たこともない。

大型のスライムでも見たことがあるのはせいぜい大スライム程度だ。

他にもいくつかいるのは知っているが、大体俺が相対できないような大物になってくる。

流石にそれに挑むほど無謀ではなかった。

インゴは言う。

「今はもういない、というか、よほど特殊な条件がない限りは発生しないらしい。父に聞いた話に寄れば、遙か昔は人工的に発生させていたらしくてな。自然のもとではまず見られないものなのだろうということだ」

「それは……一体どうやって……?」

「ロレーヌ。貴女ならなんとなく分かるのではないか? いわゆる《存在進化》を人の手で行っていたということだ。スライムの大きさにはグラデーションがある、とはいっても一定の大きさになると《存在進化》するということ自体は変わらない。小型種から中型種へ、そして大型種となり……最後は特殊種へと至る。これがスライム系統の《存在進化》の基本的な態様だ」

「《存在進化》を……活用していた?」

「私ではないぞ。昔の人間がだ。私にあるのは今に伝えられたわずかな知識だけだ……スライムをその特殊種へ至らせる方法も分からないしな。ただ、お前達二人を背に乗せたリンドブルム……あれはまさに《存在進化》を活用して手懐けたものだ。本来はもっと小型の……それこそ 飛竜(ワイヴァーン) の小型種と絆を結び、育ててあそこまでにしたのだよ」

「……馬鹿な! 従魔師(モンスターテイマー) に従えられた魔物は《存在進化》をしなくなるというのが通説だというのに!」

ロレーヌがそう叫ぶも、インゴは落ち着いて言う。

「やり方によるのだ、ということだな。嘘か本当かは、実際にリンドブルムを見ているお前達なら分かるだろう。今更、私がお前達に嘘を言う意味もない」

しかし、以前のインゴはその辺りについては特に口にしなかった。

なぜ、今回はこうして丁寧に説明してくれるのか気になって、俺が尋ねる。

「その話は……前はしてくれなかったのに、今してくれてるということは……本当はあんまり人には言うべきじゃない話なんじゃないのか?」

「確かにそうだ。いわゆる村長の……というか《国王》の血筋にのみ伝わる秘密だな。だが……今回、ロレーヌが持ってきたこのスライムを見るとな。説明して置いた方が良さそうだと思ったのだ。それに、ロレーヌが教えて欲しい、という技術というのも私の 従魔師(モンスターテイマー) としてのそれなのだろう? ちょうどいいではないか」

軽く言ったが、これで俺の父さんは馬鹿ではない。

もうすでに色々察していたらしい。

これにロレーヌは、

「それはそうなのですが……頼みに来た身で言うのもなんですが、よろしいのですか?」

と気を遣って言う。

実際、断られて当然くらいの気持ちで来ているのだ。

それなのにむしろかなり率先して説明してくれているので驚いているロレーヌである。

インゴはそんなロレーヌに言う。

「良くはないのだろうな。だが、転移魔法陣もほとんど譲ったようなものだし、この村の特殊な部分もお前達は知ってしまったからな。今更一つ二つ秘密が増えたところで大したことでもあるまい。まぁ、ロレーヌは学者だから知ったことは公表したいだろうが、そのときはこの村が情報源であることは言わずに、うまくごまかしてくれればそれで構わんしな。加えてだ。さっきも言ったがロレーヌ殿の連れてきたスライムだ……これは、自然にこの大きさに成長したものではないな?」