軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第552話 山積みな課題と眷属

「おはよ……うおっ。これは……」

ロレーヌに朝の挨拶をしようと自室から出て、居間に顔を出したら、そこにはかなりの数の 小鼠(プチ・スリ) の群れがいて面食らう。

加えて、それぞれが数体のグループに分かれており、その中の一匹が必ず小さな容器を背負っているのだ。

そしてそこからは小鼠とは異なる魔力が発せられている。

そんな彼らの前にまるで隊長か何かのように立っているのが俺の眷属であるエーデルである。

ロレーヌもその隣に立っていて、なんだかほくほく顔というか、何か機嫌が良さそうだ。

「おぉ、レント。起きたか。おはよう」

ロレーヌが俺に気づいてそう言ったので返答する。

「あぁ……それより、これは一体どうしたんだ? 魔力もあんまり感じられなかったから面食らったぞ」

エーデルや彼の手下の小鼠たちは当然ながら魔物であり、魔力を発しているが、いつもよりかなり気配が稀薄だった。

あえてそうしているのだろうと察せられる。

「彼らが背負ってるのは私が先日頼んだものなんだが、変に魔力を吸わせてしまうとちょっと問題があるからな。あえて魔力を抑えてもらうよう頼んだのだ。無理なら無理で仕方がないと思っていたのだが、エーデルもその子分達もやはり優秀だな。注文通りにこなしてくれているようだ」

「先日頼んだものっていうと……あぁ、下水道からスライムをって話だったな。なるほど、そういうことか」

スライムはかなり原始的な魔物であり、周囲にあるあらゆるものを取り込んで成長していく。

動物や魔物の死骸などは言わずもがな、魔力についてもそういう傾向が他の魔物より強い。

といっても吸収効率が良いというわけではなく、非常に影響を受けやすいという感じだ。

魔力の濃いところに生息するスライムは極めて活発になって、率先して他の生き物に襲いかかって来たりするが、その反対に魔力が稀薄な地域だとのろのろと動き、食料も自然に命を落とした生物の死骸しか口にしなかったりする。

そんな風に性格に大きな影響が出たりするのだな。

他にも様々な影響があるが、ロレーヌとしてはそういった偏りのあるスライムではなく、極めて平凡な普通のスライムが欲しかった、ということだろう。

もちろん、多少、環境や他の魔物の魔力の影響を受けてもしばらく放っておけば元に戻る程度だろうが、ロレーヌは出来る限り早く実験がしたいのだろう。

おもちゃを前にした子供だな。

研究者というのは多かれ少なかれそういうものがあるものだろうが。

「……よし、それではエーデル。スライムを実験室に運んでくれ。細心の注意を払ってな」

「…ヂュッ!」

エーデルはロレーヌにそう返答し、身振りと視線で子分達に指示を出して、階段を上っていく。

よく訓練された兵士達のように一糸乱れぬ動きである。

家の中を小鼠の群れがそんな風に活動する様子に一瞬あっけに取られるも、俺は我に返ってロレーヌに言った。

「これからあの杯の実験をするんだよな? 俺も見学して良いか?」

「あぁ、もちろんだ。ただ、何にも起こらないかもしれんし、見てても楽しくないかもしれんぞ。責任は持たん。それでもよければ好きにしてくれ」

「それは分かってるさ。じゃあお言葉に甘えて」

そして俺たちはエーデル達についていき、実験室へと向かった。

それにしてもエーデルは俺の眷属のはずだが、ロレーヌの命令にも問題なく従っているのは一体何なのだろうとちょっと思わないでもない。

俺よりもロレーヌが上位だという認識なのだろうか……?

まぁ間違ってはいないが……俺はこの家において居候だしな。

大家の意向には出来る限り従わなければならないだろう。

そう思いつつも、ロレーヌのその点について尋ねてみれば、

「別に無理に言うことを聞かせているわけではないぞ。一種の交換条件でな。食料や魔道具などを融通する代わりに頼みを聞いてもらっているのだ」

「……いつの間にそんな取引を……」

「結構よくやっている。お前には伝わっていないのか?」

眷属としてのつながりを通して分からないのか、という意味だ。

これについては、

「……まぁ、思考を読もうと思えば読めるし、視界なんかも共有しようと思えば普通に出来るんだが、ずっとそれをやっているわけではないからな。割とエーデルには自由に行動してもらっているし……。前に何度かそんなことをやっているとは聞いたけど、そんなに頻繁だとは知らなかったよ」

「そうか。私も当初はそんなつもりではなかったが……色々頼んでみると随分と有能なのでな。もはや助手か出入り業者のようなものだ。エーデル様々だな……」

「役に立っているなら良かったが……本当に俺の眷属なのかどうか不安になってくるな」

まるでロレーヌの眷属のようだ。

「私も眷属など得られるのなら欲しいが、あいにく体は人間のものなので難しいな。可能性があるとしたら 従魔師(モンスターテイマー) としての技能だろうが、あれはその技能の詳細は秘匿されているものが大半だからな。そう簡単に身につけられるものでは……あぁ、だがレント、お前の義父殿に頼み込めば教えてくれたりしないかな? 今回の杯の実験でもそれがあれば結構楽なのではないかと考えることが増えたんだ」

最近分かったことだが、ハトハラーにいる俺の義父は従魔師として極めて特殊で強力な技能を持っている。

それは古い時代からハトハラーに住む一族に伝えられてきたものらしく、義父も実際、リンドブルムという通常では従魔師が従えられないと考えられている強力な魔物をすら従えているのだ。

学べばかなり有用なのは間違いなく、特に魔物の研究をしているロレーヌにとっては喉から手が出るほど欲しい技能だろう。

「そうだな……とりあえず、今度会いに行ってみるか。今は色々と落ち着いたし、改めて報告しにも行った方が良いだろうし。俺は俺でハトハラーに行ってカピタンやガルブのばあさんにも会いたい。そのときについでに頼んでみるだけ頼んでみよう」

ただ会いたい、というだけではなく、銀級試験のためにも必要だと思っている。

基礎を見直すにはやはり、その基礎を学んだ人々に見てもらうのが一番だからだ。

剣術や魔術についてはカピタンとガルブが俺の第一の師である。

魔物としての技能についてはイザークにも見てもらいたいとは考えているが。

俺の言葉にロレーヌは頷いて、

「楽しみだな……ある程度でもいいから魔物を従えられれば出来ることが広がる。研究も進むぞ!」

そう言って笑ったのだった。