軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第540話 山積みな課題と聖水

「……これでもう、骨人が村を襲ってくることはないのでしょうか……?」

リブルが少しだけ不安げにそう尋ねてくる。

彼ら村人にとってはそれが最も重要なことだから当然のことだろう。

不安そうなのは、まぁ、魔物の細かい生態とか発生の仕組みとかをよく知らないからだろうな。どうやったら骨人が発生しなくなるのかが分からない。

これは冒険者でもあくまでも大体こうであるだろう、くらいの認識しかないことだから仕方がない。

魔物というのは未だに分かっていることの方が少ない存在であり、俺たちが魔物の知識、と呼んでいるものは確定した知識と言うよりは日夜書き換えられ続けている暫定的なそれでしかないとしか言えないからだ。

何せロレーヌのような天才がお菓子と紅茶片手にたまに昼寝をしながら真剣に研究したって……真剣か?いや、真剣だ……中々明らかにならないことばかりなのである。

学なんていらねぇとかなりがちな冒険者がそんなこと細かく覚えているわけもない。

マルトの冒険者はウルフの影響か比較的知識を重視する気風があるけどな。

若いのには俺もその辺りを教えたし、悪くない方だ。

とはいえ、一般的にはその程度だということだな。

しかし、とりあえず今回の骨人については言えることもある。

「まだ、ここには邪気が漂っているからな。まだ安全だとは言えない」

「ということは……」

「放っておけばまた発生するだろうな」

「そんな……!」

俺の言葉に絶望的な表情を浮かべたリブルであるが、俺だってもちろんそんな状態で放置するつもりなどない。

しっかり説明してやる。

「リブル、慌てるなよ……“まだ”って言っているだろう? これから安全にするのさ……」

「あ……そっか、そうなんですね。すみません、焦ってしまって……でも、一体どうやって……?」

邪気の散らし方、なんてそれこそ普通の村人が知っているようなことではないからな。

ただ実際にはそんなに複雑なことでもない。

俺は魔法の袋からごそごそとあるものを取り出す。

「……それは、瓶ですか? 中に何が?」

リブルが俺が取り出した美しい作りの瓶を見てそう尋ねてきたので、俺は答えた。

「この中には聖水が入っている。マルトで宗教団体が寄付と引き換えにくれるものだな……」

本当に事実に即して言うのなら、寄付というより購入金額なわけだが、そのあたりを寄付、と言ってぼやかすのが宗教団体というものだ。

阿漕な商売である。商売とは絶対に言わないのだろうが。

ともあれ、寄付、というのもまるきり間違いというわけでもない。

特定の宗教団体に色々と貢献した者には寄付の額を下げてくれたりするものだからな。

はっきりと金額が決まっていないのだ。

逆に気にくわない奴には馬鹿高い寄付金の額を提示したりすることもある。

俺の場合はどうかと言えば、その本性が何かを考えるとそれこそいくら積んでもくれなさそうだが、俺にはニヴというロベリア教にかなり強いパイプを持つ知り合いがいるからな。

そのお陰でロベリア教から安めに仕入れることが出来る。

ロベリア教自体に気に入っている部分はさっぱりないが、それでもなんだかんだ言ってあそこの聖水は出来が優秀なのでついつい買ってしまう。

他にも、今なら東天教のリリアンが聖女としての力を取り戻しているからな。

そのうちマルトの東天教の教会の聖水も品質が上がるかもしれない。

今までもたまに買っていたが、やっぱり効果が若干弱かったからな……期待しているところだったりする。

そうなったら是非お友達割引が採用されたりしないものか……とか少しだけ考えたりするが、無理強いするつもりは勿論ない。

ロベリア教の場合もなんか向こうが妙に気を遣って安くしてくれてるというのが本当のところだからな……ニヴは結局ロベリア教のどんな弱みを握っているのだろうと気になるところだが、それを知るためにはもう一度奴に会わなければならない。

それは勘弁なので、永遠に分からないままでも別に構わない……。

そんなことを考えていると、聖水だと言われて納得したらしいリブルが俺に言う。

「聖水でしたら、村でも行商人の方から仕入れることがありますよ。年に一度、収穫祭の日に村の周囲に撒くんです」

「それは魔物除けのためだな?」

「ええ。と言っても、気休め程度らしいですが……」

「まぁ、それはそうだろうな。聖水を魔物除けとして使っても、揮発したらそれで効果が失われてしまう……余程濃いものなら数ヶ月持つこともあるが、流石にそんなもの使ってたら金が持たないだろうし……」

小さな村の収入くらいではそんなものを気軽に魔物除けには使えないだろう。

それでも年に一度はやるのは昔からの風習とかが残っているからだろうな。

収穫祭などで儀式の一環としてやるわけだ。

今でこそ他にも色々と種類のある魔物除けだが、ずっと昔は聖水一択だったとロレーヌに聞いたことがある。

当時は人が魔物から身を守るための手段が聖気に頼るしかなかったわけだな。

魔力や気もあるじゃないか、と言いたくなるが、これは聖気の性質によるものだ。

魔力や気はその力を潜在的に持っている者が後天的に気づいて努力し、戦闘能力まで高めるものだが、聖気は違う。

神や精霊の加護で、身についたそのときから普通に使えるのだからだ。

もちろん、努力で伸ばせる部分もあるが、理屈も理論も研鑽もすっ飛ばしてある程度魔物に対抗できる力、というのは、ずっと昔では今とは比較にならないほどに重要視されたに違いない。

だからこそ、今でも聖気を持つものは宗教団体で祭り上げられて聖者聖女と呼ばれるわけだな。

「でも……レントさんはその聖水を今から使うんですよね? どうしてですか?」

「それは邪気を払うのに高い効果があるものというのは事実だからだな。確かに長続きはしないから、村のような拠点を一年中守り続ける、なんていうことには使いにくいものだが、骨人が発生するほど強い邪気を散らす、というような使い方には実のところもってこいなんだよ」

まぁ、本当のところを言うなら俺には聖水なんて使わずとも聖気があるのでそれで散らす、ということも出来なくはない。

ただこれに関しては戦う力に転用できるもの、というかそっちにメインに使いたい。

聖水で代用できるなら聖水を使うべきだということだ。

若干疑いの目で見ているリブルに、俺は言う。

「まぁ、見てろ……ええと、どの辺に撒くかな……確か、さっきの骨騎士が発生したのはこの辺りだったよな?」

リブルに尋ねると、頷く。

「多分そうだったと……」

「じゃあ、ここがいいだろうな」

そして、俺は聖水を撒いていく。