軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第498話 ヤーランの影と疑問

「……メルはちょうど、リリアンがこの孤児院を出て東天教に入る直前に、この孤児院に来た子です。リリアンにしろ私にしろ、東天教に入ったあとも定期的にここに来て仕事を手伝ったりしていたものですから。妹のような、娘のような、そんな関係なのです」

エルザがメルについてそう説明する。

つまりは、リリアン、エルザ、メルの三人は姉妹のような関係と言うことか。

だとすると、連絡をとれなかった、というのは本当に寂しかったことだろう。

生存しているかしていないかについては孤児院が東天教の運営によるものであるし、エルザはかなり高い地位にいるわけでいくらでも調べられるだろうが、実際にどうしているかについては……。

エルザはそうそう、マルトなんて辺境には行けないだろうし、メルにしてもこの孤児院の責任者だというのなら留守にも出来まい。

東天教はロベリア教と違って資金が潤沢なわけでも何でもないからな。

孤児院で働く人の数も多くはない。

それでも、ヤーランでは東天教の僧侶たちは敬われているので、何くれとなく手伝いや差し入れなどしたりもするが、それでもやはり、内部の人間でなければ出来ない仕事があるからな。

リリアンの様子を見るためだけに何週間もここを留守には出来ないだろう。

マルトは遠い。

まぁ、俺とロレーヌはあの転移魔法陣を使えば一発で移動できるので、彼女たちのために提供してやりたいような心境にもなるが、やはりどこからばれるか分からないからな。

エルザは信用できそうな人柄だが、しかし東天教の高位聖職者だ。

組織のために自らの信念を曲げることがないとは言えない。

「そんな関係なら、リリアンも手紙くらい送ってもいいのにな……いや、事情は分かるけど。この間までだいぶ体を悪くしていたわけだし」

俺がそう言うと、メルは心配げな表情で、

「えっ、ど、どこかお悪いのですか? リリアンさまは……」

「エルザには言ったが、邪気蓄積病にかかってたんだよ。まぁ、もう治ったけどな」

「……そんな難しい病気に。たしか、あれを治すには……」

「竜血花が必要だな……でも俺が採ってきたから。処方はしっかりと薬師がやったし、もうそれについては心配はいらないな。元気に孤児院で働いているよ」

「そうですか……! レントさんはリリアンさまの恩人なのですね! ありがとうございます。レントさんは私にとっても恩人です!」

「いや……」

すごく感謝されるが、そんなに大層なことをしたわけでもない。

俺も俺で、あれはいい経験になったし、そのお陰でイザークと知己を得、ラウラとも知り合えたのだから。

まぁ、もしかしたらあそこで会わずともいずれ接触してきたのかもしれないが、タイミングが遅かったらそのあとのいろいろなことで問題が起こっていたかもしれないしな。

今の俺がいるのは、あの依頼を受けたからだ、と考えてもいいかもしれない。

「しかし、俺たちをここにつれてきたのは、リリアンの話をするために?」

エルザに尋ねると、彼女は頷いて答える。

「ええ。出来れば、マルトでの彼女の話をしてもらえないかと思いまして。私一人で聞いてもいいのですけど、やっぱりメルと聞きたかったものですから……あとは、お土産の荷物持ちに利用させてもらいました」

最後に付け加えて微笑んだのは、ちょっとした冗談だろう……と思う。

まぁ、少しは本気も混じっているのだろうけどな。

確かにあれだけの量の土産を女性一人で持ってくるのは厳しかっただろうし。

重さと言うよりも、容積的な問題で。

「ま、そういうことなら……リリアンについて話すか。ロレーヌも少しは話せるよな」

アリゼを弟子にしたこともあり、ロレーヌもリリアンとはそれなりに関わりがある。

たまに余分に作った魔道具とか魔法薬とかを寄付したりとかな。

俺よりも関わっている部分があるかもしれないくらいに。

「あぁ、そうだな……では……」

そして、俺たちはしばらくの間、リリアンについての話に花を咲かせた。

俺たちから、ばかりではなくエルザとメルは、この孤児院でリリアンが子供のころどういう風だったかについて語ってくれた。

また、東天教の寺院でのことも。

しかし、リリアンがなぜ、王都の寺院を追われることになったのかについては触れられなかった。

やはり、内部的な秘密、ということなのかもしれない。

意外にもリリアンは子供の頃、かなり活発な少女だったようで、エルザとメルは引き回されているに近い扱いだったらしい。

それと同時に面倒見もよく、孤児院の者たち皆に好かれていた姉御的存在だったという。

確かに、マルトの孤児院でもどこか、リリアンには逆らえないような空気感が感じられるからな。

子供たちも彼女には逆らわない。

今の彼女からはそういうやんちゃさは感じないし、穏やかで親しみやすい雰囲気なのだが、その根底にあるものを子供たちは敏感に感じ取っているのかもしれなかった。

そんな話を笑顔と共に少しして……。

「……こんなところでしょうか。あっと、そう言えばすっかり忘れるところでした。これをお願いします」

エルザがそう言って、懐から手紙を差し出してきた。

見れば、しっかりと封がされていて、そこからは聖気の気配が感じられる。

やはり、リリアンからエルザへのものと同様に、聖気による封印術がかけられているのだろう。

つまり勝手に開いたらばれる、と。

そんなことはしないからいいのだけどな。

その手紙を、

「……すん、すん」

と、今までメルの後ろに寝転がってソファになっていた犬……ポチが起きあがり、顔を近づけて匂いを嗅いだ。

どうしたのか、と思ってみていると、少し嗅いで気が済んだらしく、

「…… わふ(だいじょうぶ) 」

と言っている。

……やっぱり聞こえるよ。

「ポチさん、そんなに心配しなくても私の封印術はそう簡単に解けませんよ」

エルザがポチに話しかけると、

「…… わう(そうかな) ?」

と答える。

「そうですよー」

エルザがさらに答え……?

会話が成立しているのは気のせいなのだろうか。

そんな疑問が頭の上に浮かんだとき、俺の表情も少し変わったのだろうか。

「……やっぱり。聞こえていますね? レントさん」

エルザが急に、そんなことを言った。