軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第490話 ヤーランの影と優秀な人材

迷宮核。

それは迷宮の中心部であり、迷宮を支配するために必要なものである。

迷宮核を取り込み、同化することによって迷宮を支配できるようになるのだ。

そのことを、俺たちは以前、 吸血鬼(ヴァンパイア) であるラウラ・ラトゥールに教えられた。

マルトの地下にある新造の迷宮、あそこは、どこかからやってきた 吸血鬼(ヴァンパイア) シュミニによって作られたものだが、迷宮核はシュミニ自身が保持することなく、彼が無理矢理、自らの眷属としたリナによって保持されていた。

それを俺たちは発見し、ラウラによってリナから分離され、そして今はラウラの中に存在している……。

推測するに、ジャンが第一王女の後見役の女伯爵ジゼルから聞いたという、千載一遇のチャンスとは、あの迷宮の迷宮核のことを言っているのだと思われるが、そうだとすると……。

無理では?

と即座に俺とロレーヌは思った。

だからこその表情だった。

しかし、迷宮などどこにでもある。

マルトの周囲には、新造のものを含めて三つもあるくらいだし、世界中に何十、何百と存在するのだ。

迷宮核が欲しい、というのなら何もマルトのものではなく、他の迷宮から選んでもいい。

だから、俺とロレーヌは、とりあえず、ジャンの話の先を聞いてみようか、という顔になり、向き合っていた顔をジャンの方へと直す。

「……? どんな反応だ? あぁ、迷宮核が何か、分からねぇか。あれは、一般には知られてない話だもんな。なんだかお前らなら知っているかと思ったんだが……」

ジャンは俺たちの反応を驚きと疑問からのものだと勘違いしたようだ。別に訂正してもよかったが、とりあえず話の腰を折るのも、と思って黙って聞くことにする。

「迷宮核ってのは、読んで字のごとく、迷宮の核になっているもののことだ。すべての迷宮にそれは存在し、何かしらの存在がそれを守っているらしい。それを倒せば迷宮は消滅するとも……だが、実際に確認したって話は、まず、聞かねぇ」

おおむね、ラウラから聞いた話とも一致する。

ただし、実際に確認したことがないというのは……。

もしそうだとすると、なぜ、存在すると思っているのだろうか。

そんな俺の疑問を表情から理解したのか、ジャンは続ける。

「…… 冒険者組合(ギルド) の長い歴史の中で、そういう存在を倒した、という奴が何人かいるんだよ。ただ、なぁ……いずれも表に出せない話ばっかりだ。どっかの王族とか、聖職者が持ってたとか……な。どうも、迷宮核って奴は迷宮の外に持ち出せるらしい。迷宮を最深部まで踏破した冒険者の話はお前たちも聞いたことがあるだろうし、その最後の部屋に強力な 守護者(ボスモンスター) がいて、そいつを倒したって話も聞いたことはあるだろう。迷宮核を持ってる奴と、 守護者(ボスモンスター) は別なんだ。なんというかな……店で言うなら、オーナーと店長みたいな関係か? で、オーナーは必ずしも迷宮の中にいるわけではない、と」

なるほど。

分からないでもないが、随分と俗なたとえである。

ラウラオーナーのあの迷宮の今の店長は誰なんだろうなとか思ってしまう。

たまにオーナーが来ると戦々恐々となる店員モンスターたち。

入り口から整列してオーナーに元気よく挨拶する 骨人(スケルトン) 。

揉み手でご機嫌とりをするゴブリンやオーク。

ジュースを生成し差し出すスライムたち……。

割と楽しそうだな、迷宮。

ただしオーナーの機嫌を損ねるとその首筋から血を吸われたり、場合によっては重力魔術で押しつぶされるのだが。

ラウラは四つの迷宮核を保持している、という話だったし、迷宮主界隈では大商店なのだろうか。

まぁ、普通は一個でもきついみたいなことは言ってたから、相当大規模な方なのだろうと思うが……。

「なんとなく、イメージは掴めた。それで、その迷宮核をどこでどうやって手に入れようと言うのだ?」

ロレーヌがそう尋ねると、ジャンは言う。

「マルトで新しくできた迷宮からだ」

やはり、と俺とロレーヌは顔を見合わせる。

しかしだ。

迷宮核を持っている奴は必ずしも迷宮の中にいるわけではない、とジャンは言った。

それなら、そう簡単に得るというわけにはいかないのではないか。

そう思って俺が尋ねる。

「どうやって迷宮核を持っている奴を特定するんだ? 迷宮の外にいたら、もうだめだろう」

「確かにな。だが、新造の迷宮は別だって話だ。《塔》の奴らが言うには、新造の迷宮は安定していないから、しばらくの間は迷宮核を持った者が内部にいなければならないという。期間はおおむね、一年以上だと推測されるとも」

なるほど、そうだとすると、まだ迷宮の中に迷宮核を持った者がいる、だからそいつを迷宮内部をくまなく探して倒せばそれで得られる、という話になる。

しかし、それにしても……。

「……よく《塔》はそこまでの分析が出来たな? 迷宮の研究は世界中、どこでもそれほど進んでいない。帝国ですらそうなのに……」

「まぁな。だが、何かの発見ってやつはどこかで唐突に起こることもあるもんだ。驚くべきことに、《塔》はかなり小規模だが、迷宮の人工生成の方法も見つけたようだ。といっても、本当に小さな……アリの巣レベルで、そこから迷宮核をとる、ってわけにもいかないみたいだが。実用化に持って行くにも何百年かかるか分からねぇってよ。だが、俺も見せてもらったが、確かに一応、迷宮として稼働していたよ。魔物はそれこそ小さなアリばっかりだったが……酸とか吐いてたからな。あれはあれで危険だぜ」

「そんなことまで! すばらしいな。ヤーランの《塔》は目立った業績など一度も上げた記憶がないから、遅れているのかと思っていたが……どうやらそうでもないらしい。ちなみに、その《塔》で、迷宮の研究をしている責任者の名前は分かるか?」

結構ひどいことを言っているが、事実だから仕方がないか。

名前を知りたいのは、後で話を聞きに行きたいからだろう。

特に隠すことではないと言うことなのか、ジャンは素直に答える。

「あぁ……ハミシ・ファボルって奴だな。不健康そうな、いかにも研究者って感じだったが……頭の冴えはすごかったぜ。なるほど、こいつなら、と思わせるような才気が感じられた」

長年、裏表の巨大組織のトップをしてきたジャンにそうまで言わせるということは本当に優秀な人物なのだろう。

ヤーランはど田舎国家であるから、他の国にそう言った技術関連ではまず大半は後塵を拝しているものなので、仕方がないかと思っていたが、そういう才能ある人物が自分の国にもいると思うとなんだかうれしくなるな。

俺の手柄では全くないし、そこまで愛国心があるわけでもないが、なんとなくの雰囲気で。

しかし、そんな才気あふれる人物の研究でも間違っていることは当然ある。

というか、まだ研究が始まったばかりのようだから、それが普通だろう。

つまり、一年立たずともラウラはすでに迷宮の外にいると言うことだ。

計画の最初から、すべて破綻してしまっているわけだな……。

これは、どうしたものだろうか……。