軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第485話 ヤーランの影と伝授

「……う……?」

しばらくして、意識を失っていたフアナが目覚める。

ロレーヌが持っていた 回復水薬(ポーション) をぶっかけておいたので、傷はほとんど消えていた。

一応、というと怒られそうだが、年頃の少女を傷だらけ焦げだらけの状態にしてそのまま、というのは可哀想だという気遣いからの行動かな、と思ったら、ぼそぼそと、

「……これであの魔術が使えなくなっても困るからな……」

と言っていたのを聞いてぶれない女だなと思った。

仮にフアナがあの他人の魔術を鎧にする術を使えなくなったとしてもロレーヌは一度見ている。

その魔眼でもって構成もある程度見抜いているだろうと言うことを考えればそこまで困らないのではないか、と思うが、未完成ということもあり、制作者の設計思想や発想というのは大事だからな。

そう言う諸々を考えてのことだろう。

もしかしたら少しくらいは女の子を傷物にするのは、というのもあったかもしれないし。

これで優しい女だ。

実験が関わらない限りは。

「……私、負けたのね。 魔吸鎧(まきゅうがい) まで使って……」

フアナがゆるゆると起き上がり、周囲を確認してからそうつぶやく。

ロレーヌはそんな彼女に、

「どこか不調はないか? 一応、 回復水薬(ポーション) を振りかけておいたから、ほとんど傷は塞がったと思うが、体内についてはわからん。一応、これを飲んでおけ」

そう言って、 回復水薬(ポーション) を手渡す。

青い色を帯びたあまり食欲を誘う色合いとは言えないものだが、ロレーヌの作るこれは結構味がよかったりする。

回復水薬(ポーション) は製作者によって味がいろいろ変わるからな。

材料が、というのもあるだろうが、なにを重視しているかという部分もある。

ただ回復量さえ高ければいい、という至極合理的な理由から味には無頓着な製作者もいれば、飲み物なんだからうまい方がいいだろうという考えで味にこだわっているものもいる。

ロレーヌは中間だな。

どちらも重要だと考えて作るタイプだ。

フアナは受け取った 回復水薬(ポーション) をしばらく見つめていたが、

「……毒など入っておらんから安心して飲め。だいたい殺したいなら此奴らはいつでもそれができたんじゃぞ」

老人がそう言ったため、納得して頷き、ごくごくと飲んだ。

「……おいしいわ」

と不服そうな、それと同時に満足そうな顔でそう言ったフアナ。

体の外からぶっかけただけでは効きが弱い内臓系に対する回復効果が体中に行き渡ったのか、少し悪かった顔色も完全に元通りになった。

回復水薬(ポーション) よりも魔術や聖気による浄化が優れているのはそういう部分だろうな。

かければ体全体に即座に効くのが治癒魔術や浄化だが、 回復水薬(ポーション) はかけた部分にまず効き、それから少しずつ体に浸透していく、という順番をたどる。

さらに、体の深いところに行くにつれ、回復効果は弱まってしまう。

それを避けるためにはただかけるより飲む、という方法をとるしかないが、戦闘中とか、今のように本人が気絶している場合となると難しい。

ただ、悪いことばかりではなく、 回復水薬(ポーション) は作っておけば誰でも使えるからな。

加えてしっかりと保存方法にさえ気をつければ材料の続く限り作り置きもしておける。

治癒魔術や浄化は使い手の力が尽きればそれで終わりだ。

何事にも善し悪しはあるということだな。

「なにも問題なさそうで良かった……それで、本題なのだが……」

「あぁ、《 長(おさ) 》に会わせる件ね? それなら……」

「いや、それではない。先ほど君が使ったオリジナル魔術についてだ。確か、さきほど 魔吸鎧(まきゅうがい) と言っていたが……」

いや、それじゃないだろう。

本題は《 長(おさ) 》の方だろう。

そう突っ込みたかったのは俺だけではないだろう。

しかし、ロレーヌの興味は止まらないようだった。

彼女は続ける。

「おおむね、構成については理解したのだが、いくつか疑問点もある。また、まだ未完成な魔術だと言うことはフアナ、君があれの制御にかなり苦心していたこと、それに体に細かな傷を負っていたことからも明らかだと思う。ただ、あの魔術は非常に将来性のあるもので、完成させれば我ら魔術師にとって強力な技術となるだろうこともわかる。そこで、いくつか仮説を考えたのだが……」

「えっ、えっ……」

フアナが若干引いている。

が、こうなったロレーヌは俺には止められない。

話が一段落つくまでは、放置しておくしかない。

こちらを見る老人や《ゴブリン》の視線に、首を横に振るしかない俺だった。

◇◆◇◆◇

しばらくして。

「……貴女の言いたいことは分かったわ。あれを教えろってことね。でも、私にとってもあれは大事な魔術なのよ。ただってわけには行かないわ」

フアナがそう言うと、ロレーヌも勿論、と頷き、

「当然、発明にはそれに見合う対価が支払われるべきだ。なにがほしい? 金ならいくらでも出すぞ。あぁ、魔術の方がいいか? 禁術でも古代魔術でもいいが……」

と、出せるものをいくつも上げていく。

自分で言っておきながら、こうまで色々と出そうとしてくれるとは思っていなかったらしいフアナは困惑気味で、しかしもらえるものはもらいたいと思ったのか、

「じゃ、じゃあ……ジジイに大ダメージを与えたって魔術を教えてよ。それなら構わないわ」

と言った。

そこまで強力な魔術を条件にすれば、ロレーヌも引くだろう、と考えたところもあったのかもしれない。

けれどロレーヌはこれに二つ返事で、

「良かろう。今すぐか? あれは一つの魔術ではなかったから、即座に覚えるというのは難しいと思うが……あぁ、一応実演しておこうか。ちょっと、闘技場を借りるぞ」

そう言って、一人闘技場に降りていく。

《ゴブリン》も分かったもので、闘技場の魔力壁を再度、形成すべく装置のあるだろうところまで無言で走っていった。

その後、闘技場で起こったことは容易に想像がつくだろう。

ロレーヌによる魔術大盤振る舞いだ。

正しく老人に大ダメージを与えた古代魔術三つ。

魔力壁を軋ませるその魔術の規模と破壊力を見、フアナは唖然として口を開いていた。

それでも魔術師としてしっかりと覚えたいと思ったのかよく観察していたようだが、

「……すぐに身につけるのは無理だわ……」

とがっくり来ていた。

それでも約束は約束、とロレーヌに自らの魔術についての疑問に答えていたあたり、誠実な態度だっただろう。