軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第480話 ヤーランの影と叫び

「……な、なんなのよ! あれ!」

観客席、ロレーヌの横の方からそんな叫び声があがる。

先ほどまでここにいた老人はヴァサの意識の有無を確かめるために下に降りていった。

審判役、と言っても試合の開始を宣言することと、外から横やりが入らないように確認するだけなので別にここからで問題なかったわけだ。

流石にまだ生きているのか、意識を失っているだけなのかについては近づかないと分からないだろうから仕方がないな。

それはともかく、叫び声があがった方を見てみれば、そこには立ち上がった《魔賢》フアナがいた。

今、自分の目で見ただろうに、そこで行われた戦いが信じられないのだろう。

そしてそれは、ヴァサが負けたことが、とかそういう仲間意識や信頼の話ではなく、単純にレントの動きが、だろうな。

レントがああいう体になってからもっとも長く付き合っているだろうロレーヌにしても、未だにこれは本当のことなのだろうか、と思ってしまうこともある。

初見の者にとって、どれだけの衝撃を感じるかは想像するに余りあるものだろう。

なんだかおもしろくなって、ロレーヌはフアナに話しかける。

「どうかしたのか?」

「ど、どうかしたのかって……見たでしょ! おかしいじゃない!」

「何が?」

「……背骨無いみたいな動きしてたし、ヴァサの攻撃だって結構あたってた……それに、最後はお腹に槍が刺さってたのよ! なのになんで無反応なのよ!」

背骨はあるのだろうが、不死者の体は軟体動物のように柔軟である。

攻撃が命中したり、槍が刺さっても何の反応もしなかったのは、いくらダメージを負おうとその存在が消滅するまでは無傷と変わらないと言う不死者の特性からである。

と、答えられたらどれだけの納得が得られただろう、と思うが、そんな話は出来ない。

仕方なく、少しずれた言い訳とも言うべきことを話す。

「……そういう《異能》だからではないか? 私もあのヴァサという男の持つ《剛鉄》だったか? いきなり空中に武具を出現させられる能力には物理的法則をもう少し考えてくれと叫びたくなった」

実際、どうしてあんなことが出来るのだろう、と思う。

魔術や気であれば、もとは魔力や気と言ったエネルギーを元に現象を引き起こしているのであるから納得できる。

が、異能はそういう力とは根本から違う印象を受けてしまう。

何か力が使われているという感覚がしないのだ。

魔力のように、それを持たない者には感じ取れないと言うことなのかも知れないが……。

そういうことを考えると、レントもヴァサも、ロレーヌのような"普通”の人間からすると同様に異端だと思われる。

しかし、その異能者の一人でもあるフアナから見ても、レントの方がおかしい、と思えるようだ。

「……じじいだってあれくらい攻撃が命中してればもう少し反応するわよ! あんな異能……おかしいわ!」

「そうなのか……? 異能の幅にも限界があるということかな。その辺りの感覚は私にはよくわからないが……」

そんな、微妙にかみ合わない会話をしていると、

「いやぁ、勝った勝った」

そんなことを言いながら、観客席にレントが上ってくる。

隣には老人もおり、肩にヴァサを担いでいる。

老人が巨体の男性を軽々と担いでいるその様子には大きな違和感を感じないでもないが、老人の本性を考えると何もおかしくない。

老人はその気になれば、ヴァサの数十倍も大きくなれるのだから。

老人は観客席に着くと、乱暴にヴァサの体をぶん投げる。

「お、おい、大丈夫なのか? 気絶したばっかりなんだ。もう少し労った方が……」

と、レントが心配げに言うが、老人は鼻を鳴らして言う。

「この程度でどうにかなるような鍛え方はしておらんわ。それに、こやつは今回、油断しすぎじゃったからのう……これくらいの扱いで構わん」

「いや、十分戦ったと思うけどな……俺みたいなの相手に」

「……ん? なんじゃ、お主、釈然としない顔をしとるのう」

「そういうわけじゃないが……ちょっとずるかったかなと思って」

それはつまり、不死者の性質のごり押しで勝ったようなものだからだろう。

同じくらいか、一段下の実力しか持たなくとも、無尽蔵の体力と耐久力を持っていればいずれ勝ちを拾えてしまう。

つまり、実力で勝ったわけではない、という気がしているのかもしれない。

しかし、そんなレントの台詞に老人は言う。

「たとえ《異能》のごり押しじゃったとしても、それも含めてお主の実力じゃ。だいたいよく考えてもみよ。わしらは主に暗殺などの裏の仕事を生業とする組織じゃぞ。その構成員がじゃ。事前に何も情報も集めずに真正面から戦って負けたのじゃ。愚かなのはどっちなのか、はっきりしとるじゃろう」

そう言いながら、老人は自嘲もしている。

まさに自分がこの間やったことだからだろう。

それでも老人たちは事前に組織から情報を受け、可能な限り気づかれないように振る舞い、それでもどうにもならなかったから力押しで挑む、という段階を経ている。

それに比べてヴァサはバカ正直にあたってきただけだ、ということを考えれば、老人の言葉にこそ理があると言えるだろう。

「そうかな……?」

「そうじゃ。その意味でもこいつは完全に敗北じゃ。お主らはこいつの情報をわしからしっかりと聞き、それなりに対策を考えた上で挑んでおるのじゃから。こやつには今回の敗北でその辺りについても学んでほしいのじゃが……」

「やっぱり俺は教育に利用されたのか」

「ほ? 気づいておったのか? 別によかろう。誰も損はせん」

「……また俺たちが狙われるような流れになったら、損はするんだがな……」

もちろん、そうならないようにするためにここに来ているわけだが、これからどうなるかはまだ分からない。

「お主らをまた狙うなど、勘弁じゃ。そう命令されてもわしは拒否する。じゃから安心せい」

「うーん……まぁ、今のところはそうしておくか。それで……次はロレーヌとフアナが戦うんだよな。準備はいいのか?」

そこでレントがロレーヌとフアナの方を見てそう言った。

これにロレーヌは、

「あぁ、私はいつ始めても構わんぞ」

そう言ったが、フアナは、

「え!? あ、わ、わたしは……い、いつでも相手になってやるわよ!」

と微妙に震えた声で返事をした。

レントの戦いがよっぽど衝撃を与えたらしかった。