軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話 夢と現実と3

「準備はいいか?」

ロレーヌが俺に尋ねる。

俺は、リアの隣に横になっている。

リアの頭部と、俺の頭部にはロレーヌの作り出した怪しげな魔道具が取り付けられていて、このまま実験されそうな気配すら感じる。

リアの母親……ヒュミもこの見かけに不安になったのか、ロレーヌに尋ねる。

「あの、これから……どうなるのですか?」

「リアの夢に、レントを送り込みます。この器具はそのためのもの……。前提として、夢魔は人の夢に入り込み、そこで人の生気を吸い取って栄養とする魔物です。その存在は精霊に近く、現世において攻撃することは極めて難しいとされています。しかし、夢の世界でなら……。夢の世界は、一種の異界なのですが、眠っている人の意識を媒介にすれば入り込むことも出来ます。もちろん、特殊な方法が必要になりますが……我々魔術師、錬金術師はその方法を知っているのです。それが、これらの器具になります」

つまりは、夢の世界で夢魔を倒してこい、というわけだな。

俺が。

なぜロレーヌではなく俺がやるのか、と言えば、ロレーヌは外側でこの器具を使った術式の調整をしなければならないからだ。

加えて、夢の世界というのは、その人間の精神力がものをいうのだという。

実際に強いかどうかは関係がない。

自分の強さをどこまで信じられるか、それが重要であるらしい。

俺ならそれがある、とロレーヌは思ったようだ。

……どうなんだろうな。

がんばるつもりではあるが……。

まぁ、ここまできたら今更やめるとも言えない。

なんとかするさ。

「ではレント、やるぞ……」

そう言って、ロレーヌがぶつぶつと呪文を唱え出す。

頭に取り付けられた器具がキチキチと音を立てて動き始めたのを確認したところで、俺の意識は飛んだ。

◇◆◇◆◇

ーードサッ!

「……痛っ! ……ここは……?」

唐突に体をどこかに投げ出されて衝撃を受ける。

一体ここはどこだ。

そう思って周囲を観察すると、どうやら森の中のようだった。

さっきまで街中の家屋の中にいたというのにな。

いきなり瞬間移動出来たわけでもあるまいし、つまりここは……。

「夢の世界って奴か」

ロレーヌが言っていた。

夢の世界の形は人それぞれで、どうなっているかは入ってみないとわからないと。

大きくは、世界中の人の夢の世界はつながっていて、夢魔とはその夢と夢の間を行き来する存在だという。

だから、現世に本体はない……というようなことを詳しく説明してくれたが、細かいところは専門的すぎて俺には分からなかった。

また今度勉強し直したいところだが……今はそれどころじゃないな。

リアを探さないと。

ロレーヌによれば、この世界のどこかにいるはずだというのだが……。

しばらく歩き回っていると、

「……ん? 君は……」

森の奥からがさがさと人が顔を出す。

そして俺を見つけ、そう口を開いた。

「……あんたは……」

「いや、こんなところで会うとは奇遇だな。私のことが分かるかい? レント」

「分かる……ザールだろう?」

そうだ。

その顔には覚えがある。

三十代半ばの、人の良さそうな顔の男。

しかし彼は、ついこの間、死んだはずだ。

黄茶一角獣(ピュラスーピ) にその胸を貫かれて。

ザールは、リアの父親だった。

◇◆◇◆◇

「いやはや、本当にいい偶然だったよ。このあたりの森は危険でね……一人で出歩くのは薦められない」

ザールが歩きながら言う。

「一応俺も冒険者だから、大丈夫だと思うが」

「過信は禁物さ。人は、いつ死ぬか分からない」

あんたがそれを言うのか、と思うが所詮、夢の存在である。

特に触れずに、ザールの後をついていく。

しばらく歩くと、森の奥に開けた場所があり、そこに一軒の小さな愛らしい小屋が建っているのが見えた。

扉の前まで進み、ザールがリズムよく叩くと、

「はーい!」

という幼い声が響き、がちゃりと開く。

出てきたのはやっぱり……。

「……リア。ただいま」

「お父さん! お帰り……あれ? お客さん……?」

「あぁ! 見て驚くといい。レントだよ!」

「えっ! レントおにいちゃん!?」

そう言ってひょこりとザールの横から顔を出して俺を見たリアは、本当に驚いたような顔をしていた。

「リア。数日ぶりだが……俺が分かるか?」

「もちろん分かるよ。ついこの間会ったばっかり……あれ、でもお兄ちゃん、ここに来たことないよね? いつ、どこで会ったんだっけ……?」

そう言って首を傾げる。

確かにここに来たことはないな。

街であったわけだが……そのあたりが曖昧なのか?

「まぁ、いいさ。レント。とりあえず中に入るといい。リア、お茶を」

そう言われて、リアはどたどたと中に走っていく。

ザールはそれをほほえみながら見て、

「……いつまでも落ち着きがないな」

と言っていた。

◇◆◇◆◇

その日、俺はザールとリアと食事をし、その小屋に泊まることになった。

いや、いつの間にかそんな話になっていたのだ。

リアに何度かもう現世に戻ろう、という話をしようとしたのだが、ザールにそのたびに邪魔された。

最初は、この男こそが、夢魔なのかもしれない、と思ったが、ザールのリアを見る視線はしっかりと父親のものだった。

それすらも演技なのかもしれないが……とりあえず、様子を見ようと思った。

夢の世界の時間はあってないようなものだ、とロレーヌが言っていた。

あまりそれは気にしないようにという話だったので、慎重に行くことにする。

そしてその夜。

リアが寝静まったあと、ザールは俺を呼びつけた。

夢の世界で眠っているというのはどういうきもちなんだろうな、とどうでもいいことを考えたが、それはあとでリアに聞けばいいだろう。

ザールが座るイスの横に腰掛けると、テーブルの上にお茶が出現する。

配膳したわけでもポットから入れたわけでもない。

突然に出てきた。

「……君は、リアを助けに来たのかい?」

そう尋ねられたことに、あまり不思議はなかった。

ザールはなにか、分かっている節があったからだ。

俺は頷く。

「ああ。今、外でヒュミと施療師、それにロレーヌが見守ってるはずだ。いつリアが起きるのかとやきもきしながら」

「……そうか。ヒュミは元気かい?」

「元気……なのかな。きっとあんたが死んで落ち込んでいるとは思うが、リアがいるからな。気丈に振る舞ってはいるよ」

「ヒュミには……本当に悪いことをした。もっと長生きするつもりだったんだけどね。人生はうまくいかないよ」

「あんたは……何なんだ?」

「それは私にも分からない。ただ……気づいたらここにいて、リアと生活していた。それだけさ」

「……不思議な話だな。それで、あんたはリアがずっとここにいていいと思っているのか?」

俺は核心をついた質問をする。

俺がリアにここが夢の世界で、現世に帰らなければならないのだ、ということをひたすらに抑えていたのがこの男だ。

そうさせたくない理由があるのだと思った。

これにザールは、

「まさか。たまに来る分にはいいだろうけどね。リアは起きなければならないだろう?」

「じゃあなんで……」

「君の話を遮っていたかって? それはね……」

答えを口にしようとしたザール。

しかし、それと同時に、ガタガタッ、と家が揺れる。

そのあと、ギシギシときしむ音が響いた。

「……なんだっ!?」

「レント、外を見るんだ……窓から!」

「なに……っ!? これは……!!」

言われて、窓の外を覗くと、そこから見えたのは、鱗の生えた巨大な何かが窓全体を塞いでいる姿だった。

じっと見ていると、たまに隙間が開くが、すぐにその体がぎゅっと窓に押しつけられる。

おそらくだが、この小屋を締め付けているのだろう。

なんなんだこいつは……。

ドアを開き、外に出ようとするが、

「待った! 今は開けちゃだめだ! しばらく待っていれば収まる」

ザールにそう言われたので、とりあえずは諦めてじっとすることにした。

もちろん、剣は抜いて臨戦態勢だったが、その準備は幸い、無駄になる。

ギリギリとした音は静まり、小屋の揺れも収まって、窓の外も静かな森の風景に変わった。

ザールはため息をついて、

「……行ったか」

そう言ったので、俺は、

「あいつはなんなんだ」

と尋ねる。

ザールはそれに答えた。

「……リアを縛るものさ。この小屋から出られないように」