軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第47話 新人冒険者レントと目的地手前

「……さいごは、いがいと、まっすぐで、きたな」

あの襲撃のあと、迷宮をひた進んだ俺たちは、何度かの魔物の襲撃を退け、とうとう目的ポイントの直前に辿り着いた。

迷宮の一階層とはいえ、横移動すればかなりの広さを誇る《新月の迷宮》である。

ここまでたどり着けたものに感慨深いものを感じないではなかった。

しかし、そんな俺たちの前に、今、立ちふさがっているのは、ゴールおめでとう、の花輪ではなく、冷たい石の重厚な扉である。

「この扉ってやっぱり、そういうことですよね……」

ローラが少し怯えつつ、俺に尋ねる。

「あぁ……けいけんは、ないのか?」

俺がそう聞くと、ライズの方が答えた。

「まだだ。流石に二人で挑めるほどの実力はまだないって分かってるからな……」

それは慎重で、賢い選択だろう。

彼らが持たない経験、それは、迷宮と言う存在を攻略するに置いて、避けては通れない最大の関門の事である。

つまりは――

「ぼす、べや。いっかいそう、には、たしか、ふくすう、あるときく。そのうちの、ひとつか」

ボス部屋である。

迷宮のボス部屋の存在形式は迷宮によって様々で、一階層に一つしかない場合や、複数ある場合、また下層に降りるためには必ず通らなければならない場合や、避けようと思えば避けられる場合もある。

今回俺たちが直面しているボス部屋は、下層に降りるために必須のボス部屋ではなく、またこの《新月の迷宮》一階層に複数あるらしいボス部屋の一つだった。

そして、この部屋の向こうこそが、俺たちの目的地であり、地図を見る限り、ここを越えない限りは辿り着けないらしい。

なので、試験を合格したいなら、ボスを倒して実力を示せ、という至極全うな意図が感じられる。

今までの非常にネチネチとした試しとは色彩の異なる関門だ。

まぁ、なんだかんだ言っても、結局は力がなければ冒険者なんてやってられませんよ、という嫌味にも感じられなくもないが、それは端的な事実である以上、たとえそうであるとしても嫌とは言えない。

「あんたはどうなんだ、レント。ボス部屋の経験は……?」

自分と同じ昇格試験の受験者がどれだけの経験を積んでいるのか、急に気になったのかもしれない。

ライズがそう尋ねてきたので、俺は答える。

「なんどか、ある」

この間の 骨巨人(ジャイアントスケルトン) の部屋がまさにそれだった。

しかも脱出不可能型の、出来ればあまり遭遇したくないタイプの部屋だ。

それに、その他にも十年、冒険者をやってきたのだ。

普通のボス部屋くらいなら、何度も経験がある。

だから、そもそも俺に聞くのが間違いなのだが、ライズにはそんなことは分からない。

ライズは俺の答えに、自分の経験不足を感じたようで、少し顔色が悪くなる。

それを見た俺は、ライズに言う。

「……ふあん、か? それなら、やめるか?」

そう言う選択肢も、ないではない。

俺はさっさと昇格したいので、出来ればとりたくない選択肢だが、前途ある若者の将来を危険に晒してまで時間短縮を図ろうとは思わない。

俺はまだ二十五だし、時間はまだまだ、あるのだから……。

……そういえば、俺の寿命ってどうなってるんだろうな、とふと思うが、とりあえずそれは置いておこう。

ライズは俺の言葉に顔を上げて、

「そういうわけには、いかねぇ。ここで逃げたら、もう戻ってこられない気がする……」

と力のこもった声で言う。

確かにそういうこともないとは言えない。

一度心の折れた冒険者と言うのは弱い。

立ち直ればずっと強くなる場合もあるが、二度と立ち直れなくなることもよくあるからだ。

ライズが言うのは、本能的にそういうことが分かっているからなのだろう。

まぁ、ここまで見てきたこの少年の性格なら、たとえここで一旦退却しても、いずれ戻ってこられると思うが、そう言う話でもないだろう。

ともかく、逃げたくはないと、そういう気合があると、そういうことなのだろう。

俺はライズに頷いて、

「そうか……それなら、それで、いい。ただ、しんぱいなら、すこし、かんがえが、ある」

「え?」

首を傾げるライズに、俺はここまで歩いてきた通路の方を振り返って顎をしゃくった。

すると、そこから四人の冒険者たちが歩いてきた。

「あいつらは……」

「おそらく、ほかの、じゅけんしゃだ。あいつらに、さきに、うけさせれば、いい」

そう言った俺に、ライズは目を見開いた。

◇◆◇◆◇

「……なんだ? ガキとおかしな仮面野郎のパーティとは、面白いな」

四人組のリーダーと思しき男がそう話しかけてくる。

ライズは彼の言葉にかっと来たのか前に出て言い返そうとするが、俺が止めて、返答する。

「おなじ、じゅけんしゃなんだ。そのものいいは、かんしん、しない」

「……けっ。変な喋り方しやがって……。同じ受験者だ? 俺たちは受かるが、どうせお前らは落ちる。同じ扱いされたくないね……お、そっちの子はよく見るとかわいいじゃねぇか。どうだ、今からでも俺たちと行かねぇか? 絶対受かるぜ。なぁ?」

男はそう言って、ローラに近づこうとするが、ローラは俺の後ろに隠れて返答をしなかった。

それが男の気に障ったようで、剣を抜こうとするが、それよりも早く、俺の剣の切っ先が男の顎先を撫でていた。

「……っ!? お、おい……やめろよ、ちょっとした冗談だろ……?」

「もうしわけ、ないが、じょうだんは、あまり、つうじない、たちでな……」

「い、いや、悪かったって……もう何もしねぇからよ。頼むよ、引いてくれって……」

「……ふん」

俺が渋々ながら剣を引くと、男はほっとしたように体の力を抜いた。

どうも見かけよりも臆病なのかもしれない。

それから、

「……それで? あんたらは先に行くつもりなのか? そこはボス部屋だろ。試験なんだから一組ずつだと思うが……」

と冷静に尋ねてきたので、俺は男に言う。

「いや、さきに、いって、いいぞ。おれたちは、すこし、やすんでから、いく、つもりだからな」

「へぇ? 先に着いた方が勝ちだってことじゃねぇか。譲ってくれんのか?」

「……あぁ」

「そうかよ。じゃ、お先に失礼するぜ……おい、てめぇら、行くぞ」

男の声に、おう、と言ってぞろぞろと四人はボス部屋へと向かっていった。

扉が開き、その中へと男たちが入ったのを確認してから、ライズが言う。

「……良かったのか?」

「なにが、だ」

「先に行かせたことだよ……早くついた方がって……」

確かに 冒険者組合(ギルド) はそんな話をしていたが、それもまた、引っかかることの一つだ。

とは言え、これについては自分で気づいた方がいいだろう。

そのための試験だろうしな。

だから俺は言う。

「……すこし、かんがえて、みろ。しょくいんの、ことばを、よく、おもいだして、な」

すると、ずっと聞いていたローラがはっとした顔をした。

どうやらわかったらしい。

そしてライズに言おうとするが、俺は彼女に首を振って、黙っておくように目配せした。

ライズは少し素直すぎる。

考える力を身に着けるために、もう少し悩んでもらおう。

そう思ってのことだ。

ローラは俺のそんな意図を理解してくれたらしく、頷いて微笑み、口を閉じたのだった。

それから、俺たちはボス部屋の前に近づき、ライズとローラにボス部屋の内部を指さして示した。

そう、扉は先ほどの四人組が入った後から開いているのだ。

ここのボス部屋は脱出不可能型ではないため、扉が閉じることはない。

だから外から中の様子が観戦できる、というわけだ。

ライズはそれを見て、納得したような表情で、

「……これを見てから挑めば、不安もなくなるかもってことか?」

そんなライズの質問に、俺は頷いて肯定を示した。

中に入った四人組の前に、ふっと大きな魔物が出現した。

さぁ、先ほどの四人組と、魔物との戦いが始まる。