軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第450話 塔と学院、足音

巨人。

それは遥か昔に栄え、しかし現在においてはほとんど見ることもなくなってしまった種族の一つだ

古い時代には今と比べ、非常に多様な種族が存在し、暮らしていたと言われている。

そのことは、いくつもの歴史的な遺物や伝承からも明らかな事実だ。

けれど、それらのうち、多くの種族の姿が現代においては見られない。

残念ながらその理由については、はっきりと分かっていない。

ただ、それは非常に奇妙なことだとは言われることが多い。

今、姿を見られなくなった種族の中には、巨人のように存在そのものが強力無比であり、容易に滅びるようなものではないものも多いからだ。

それでも巨人はまだましな方だろう。

なぜなら、いるところにはまだ、いると言われているからだ。

人のように街を作っている、ということはないが、たとえば深い森の奥地に、たとえば高熱の火口に、など、人が簡単には入り込むことの出来ない秘境にその姿が目撃されることがある。

また、エルフなど、長命な種族の中には、巨人と交流を持つものもいるらしく、そういった話から巨人はまだ、この世界のどこかで命脈を保っている、と言われている。

だが、実際にこうして遭遇することなどほぼ、ありえない。

そもそも……。

「こいつは本当に巨人なのか……?」

俺がそう口にすると、ロレーヌが難しい口調で言った。

「分からんな。巨人に見える、というだけだ。異能としての人が巨人になっているのか、巨人が人に擬態していたのか……。いや、そもそも巨人に異能があるのかどうかも分からん。確定など出来ん。本人に聞かねばな」

確かにどちらの可能性もある。

異能については分かっていることは少ない。

どんな人間に発動するのかも、人だけのものなのかも分からないのだ。

巨人がそれを持ちうるか、などさらに分かることではない。

サンプルに値する数の巨人を集めることなどまず、不可能だからだ。

昔なら出来たのかもしれないが……過去になど戻れない。

「答えてくれそうには見えないけどね」

ロレーヌの言葉に、オーグリーがそう軽口を言う。

目の前に立つ、巨人。

見かけとしてはそのまま、人が巨大化した格好だが、やせぎすの老人、というよりは、筋肉質な壮年と言った感じだ。

あれが元の姿か、異能を発揮した結果、体も若返るのか……。

身に付けているものは、腰布一つだ。

裸という訳ではないのが救いだな。

流石にそれだとなんだか色々気が散ってしまうではないか。

ちなみにその腰布、よく見てみると老人が身に付けていたローブと素材が同じだ。

もしかしたらあれは、特殊な魔道具だったのかもしれない。

あのローブと同じものだとしても、少し大きすぎる。

巨人化したときのために、ある程度、大きさが変わる布を持っていた、ということだろう。

また、先ほど俺が傷つけた腕の方はどうか、と思って見てみるに、そこもしっかりと縛られたままだ。

小さい時に結んだのにちょうどいい大きさに変わっていることから、やはり先ほど推測した通り、布自体が特殊なものなのだと思われた。

まぁ、やろうと思えば腕だけ小さいまま、他の部分を巨大化、ということも出来るのだろうが、それだと格好がつかないだろうし……。

なんてこともないか。

ただ、体のバランスが保ちにくくなるだろうからな。

小さいままにしておく、ということはよろしくないという判断なのだろう。

それにしても、どう戦ったものか。

巨大な敵と戦うのには慣れている……とまで言うのは言い過ぎかもしれないが、 骨巨人(ジャイアント・スケルトン) やらタラスクやらと、自分の身の丈よりも遥かに大きな魔物と相対してきた経験はある。

だから、大きさだけで怯む、ということはない。

しかし、その辺りの魔物には明確な弱点が存在したし、かなりのアドバンテージもあった上でのことだ。

今目の前にいるこいつは、そいつらとは比較するのもおこがましい、明らかに格上の存在である。

勝とうと思っても簡単なことではない。

そもそも、小さい時からその体は通常の剣の攻撃は通さなかった。

気を限界まで込めれば、なんとかなったかもしれないが、それをする前に魔気融合術を使った。

今回も、最初から魔気融合術で行くべきだろう。

出し惜しみしているとすぐに終わってしまいそうである。

さてこれから……。

と言うところまで考えたところで、

『……行くぞ!』

と、辺り一帯に響く大音声で、元老人、現巨人が俺たちに向かって叫ぶ。

体にビリビリと響くそれだけでも物凄い迫力だったが、それ以上にその巨体がどしどしとこちらに向かって突っ込んでくる様子はまさに質量の暴力としか言えない。

「とりあえず、バラバラに動くぞ!」

俺がそう言うが早いか、ロレーヌとオーグリーはすでに動き出していた。

あの巨体である。

一塊になってしまうと、狙いやすい的を作り出すだけで意味がない、とすぐに理解したのだろう。

小さな……と言っても、せいぜい人間大の魔物が何匹もこっちにやってきている、という状況であれば固まって、それぞれが役割分担をしつつ、少しずつ敵を減らしていく、という戦法もとれるが、この巨人相手にそれをやったら上からはたかれれば潰されておしまいだ。

もしかしたらロレーヌが盾を張って少し持ちこたえてくれるかもしれないが、せいぜい出来てもその程度だろう。

あと、俺は“分化”して逃げて……。

俺だけ生き残れてしまうな。

酷い話だ。

ともあれ、俺にはそういう特殊な力があるわけだから、やはり盾か囮になるべきだろう。

ロレーヌとオーグリーが逃げた方向に巨人の関心が向かないように、俺は剣に魔力と気を込めて、馬鹿正直に真正面から向かってみることにする。

我ながらちょっと猪すぎるな、と思わないでもないが、こればっかりは仕方がない。

気は体の端々にも込め、身体能力を底上げし、走り出す。

狙うは……とりあえずは足かな。

その機動力をつぶしておきたい。

この巨体で速度は恐るべきことに大して変わっていない。

もちろん、空気抵抗などもあるだろうし、多少は遅くなってはいる気はするが、気休め程度だ。

油断することは出来ない。

実際、俺がその足元に向かって走り、剣を振り上げると、その足が挙げられ、そして上から振って来た。

そして、

――ドォォォォン!

地面を踏みしめる、巨人の足音が響いた。