軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第440話 塔と学院、一つ目の依頼

「……ついたな」

しばらくの空中遊覧を終え、俺たちは浮遊石の一つの上に着陸する。

俺たち、というか 水色飛竜(マイム・ワイヴァーン) がだが。

この中で着陸という行為をすることが出来るのは俺だけ……ということもないか。

「いやはや、貴重な経験だったな。野生の飛竜の背に乗るなど、まず出来ないことだ」

ロレーヌは満足げにそう言っている。

「この飛竜たちは……ここで待っててくれるのかな?」

オーグリーは感動よりも現実的な問題の方が気になるようで、フェリシーにそう尋ねる。

すると彼女は頷いて答える。

「ええ、待ってて、と言っておけば待っていてくれるんです」

「それは良かった。帰り道の心配をしないでいいね」

もし飛竜に飛んでいかれたらここから飛び降りるしか手がなくなる。

ロレーヌに頼めば魔術でどうにかできるかもしれないが……来たのと同じ手段で帰れると分かっていた方が気が楽だ。

「それでは、後顧の憂いもなくなったところで、早速、飛竜天麻を取りに行くか……どのあたりにあるか分かるだろうか?」

ロレーヌがフェリシーに尋ねると、

「もちろんです。何度も取りに来ていますから。こちらですよ」

と歩き出した。

彼女から離れればたとえ浮遊石の上でも間違いなく 水色飛竜(マイム・ワイヴァーン) に襲われるだろうことは分かっている。

急いで俺たちはその後を追った。

◇◆◇◆◇

「……飛竜の巣だな。こんなに近くで見れるとは……」

ロレーヌが興味深そうにそう言って目を向けているのは、まさに言葉通り飛竜の巣だ。

樹木の枝や魔物の骨で作られたそれは、人間一人くらいなら入れそうなほどに大きい。

水色飛竜(マイム・ワイヴァーン) のサイズを考えるとむしろ小さいくらいだが、浮遊石の数と、ここに集まっている 水色飛竜(マイム・ワイヴァーン) の数とを考えればあまり巨大なものを作ると繁殖も厳しくなってくる。

その辺りは自然の理がうまく調整しているのかもしれなかった。

そして、その巣の中にはさらに興味深いものがある。

「……卵と、それに雛だね。これこそ、まず見れないものだよ……」

巣の中には、まだ孵っていない飛竜の卵と、それにまだ孵ってから数日も経っていないだろう飛竜がいて、母親から餌をもらっていた。

人間とは異なって、その口から餌をもらっている。

鳥に近い生態なのだろう。

飛竜の雛もそれを推測させる見た目で、青く柔らかそうな羽毛に覆われたヒヨコ、という感じだ。

しかしサイズは鶏なんかとは明らかに異なる。

すでにして、大人の鶏ほどもあるのだ。

卵もかなり大きく、一抱え程もある。

「あれほど大きな卵を見ると、割って目玉焼きにしてみたくなるが……」

この台詞を言ったのはロレーヌだが、フェリシーがじとっとした目で見て、

「だめですよ、ロレーヌさん」

と言った。

彼女は飛竜をかなり大切にしているらしい。

まぁ、その感情がある程度理解でき、また言うことも聞いてくれるとなればそんな風にもなるだろう。

ロレーヌはそれを察して素直に謝る。

「悪かった。冗談だ……流石にいくら食い意地が張っている私でもここまで巨大な目玉焼きは食べれんしな」

その台詞でフェリシーの視線も軟化したのだった。

◇◆◇◆◇

「……この辺りです」

フェリシーの案内に従って進んでいき、 水色飛竜(マイム・ワイヴァーン) の巣がたくさんある場所を通り過ぎると、少し開けた場所にでる。

フェリシーが言うには、飛竜天麻は飛竜の巣から少し離れた場所に沢山ある、という話だからだ。

そして、それは事実だった。

「おぉ……」

「これは……」

「すごいね……!」

三人そろってつい、感嘆の声が出てしまったのは、そこに見たこともない数の大量の飛竜天麻が群生していたからだ。

しかも、数だけではなく大きさも凄い。

飛竜天麻は球根から生え、地上に出ている部分は太い茎とその側面、頭頂部に開く花で構成されている植物なのだが、まずその太さがかなりのものだった。

普通のものなら、人の親指ほどのものが大半で、しかもそれで十分に質は良好とされるのだが、ここにあるものはそれが数本まとめられたくらいある。

高さも大体、人の腰位のものが一般に流通しているが、俺たちの背丈を抜いた高さまで伸びていた。

「こんなもの初めて見たな……」

ロレーヌですらここまで大きな飛竜天麻は見たことがないらしく、本当に驚いている。

そして気になったようで、フェリシーに尋ねた。

「これを出荷していたのか? 流石に怪しまれると思うのだが……絶対に誰かに原産地を聞かれるし、薬師や錬金術師なら何が何でも調べようと思うぞ」

まさにその薬師や錬金術師であるロレーヌが言うのだからその通りなのだろう。

これにフェリシーは、

「いくら田舎者の私でも、それくらいは分かってますよ。ですから、出来るだけ端っこの……あのあたりの小さなものだけをいつもは採取して、出荷してたんです」

群生地の端の方を指さしてそう言った。

見れば確かにその辺りに生えている飛竜天麻は小ぶりで、これくらいなら普通に出回っているものと同じか、若干質が低いかな、というくらいのものである。

しっかり考えていたらしい。

「でも、どうしてこんなに大きく……?」

オーグリーが疑問を口にすると、フェリシーは言った。

「この浮遊石に巣を作っている飛竜たちは、ここでしか糞をしないからじゃないでしょうか。飛竜天麻は飛竜の糞を肥料に育つって聞いたことがありますけど、この浮遊石にいる飛竜たちは数が多いですから……他の浮遊石にも行ってみたことがありますが、ここのものほど大きくはなっていませんでした」

これにロレーヌは納得したように頷き、

「なるほど自然の妙というわけだ。他の地域でもこの浮遊石くらい大きな、飛竜が巣を作りたくなる場所があれば同じようになるということだろうが……そのうち探してみるかな」

と呟いていた。

おそらく本気だろう。

しかし、飛竜の繁殖する生息地なんてめったにないし、見れても数年に一度だ。

そう簡単なことではないだろう。

ともあれ。

「とりあえず、飛竜天麻を採取するか。もちろん、小さな、怪しまれないところのやつを。大きいのは……個人用に少し、採取させてもらってもいいかな?」

俺がフェリシーに尋ねると、彼女は、

「もちろんです。でも、色々と内緒にしてくれますか?」

と言って来た。

それについては当然のことで、俺たちは深く頷いたのだった。