軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第438話 塔と学院、異能

「はい。いつもやっていることなので……あっ、私からは離れないようにお願いしますね」

フェリシーがそう言って、草むらから無造作に立ち上がり、歩き始めた。

水色飛竜(マイム・ワイヴァーン) はそこら中に浮かぶ浮遊石の上にだけでなく、ペトレーマ湖の畔、その地上にもたくさんいる。

周囲から外敵が来た場合に、即座に襲い掛かれるようにそこにもいるらしい。

当然、俺たちが近づけば襲い掛かってくるはずなのだが……。

「……信じられん。無反応だ……」

ロレーヌが唖然とした表情でそう言った。

彼女にしては珍しい反応である。

しかしその気持ちもよくわかる。

俺たちはフェリシーの後ろからつかず離れず着いていっているだけであるにも関わらず、周囲にいる 水色飛竜(マイム・ワイヴァーン) たちは全く俺たちに気を払うことなくそこにいるだけなのだ。

翼をばさばさとはためかせたり、隣の 水色飛竜(マイム・ワイヴァーン) に頭を擦りつけたりしている仕草を続けている。

「こうして見ると可愛いもんだね。普通の鳥みたいな気になってくるよ」

確かにそんな感じである。

手を伸ばして撫でたくなってくるくらいだが、それをやった場合どうなるのかは分からない。

やるわけにはいかないだろう。

「少しくらいなら触れても大丈夫ですが、体が大きいですから、一歩間違えると怪我しますよ……って言っても、皆さんなら大丈夫でしょうけど」

俺たちの会話を聞いていたフェリシーがそう言う。

彼女自身もやってみたことがあるのかもしれない。

それにしても、聞いていいものか悩んだが、一応、俺は尋ねてみることにする。

「フェリシー……答えたくないなら答えなくても構わないんだが……なんで 水色飛竜(マイム・ワイヴァーン) たちはここまで無反応なんだ? 特別なことをしている感じはしないんだが……」

これにフェリシーは微妙な表情で答えた。

「それが、よくわからなくて。私にもただ、襲ってこないなって分かるだけで。本当に気が立っているときは私も近づいたら襲われるなって感じますよ。でも今はみんな落ち着いているみたいなので、大丈夫そうだなって」

まさかただの勘なのか?

そんな恐ろしいものに俺たちは身をゆだねているのか?

そんな気分になりかけるが、これにロレーヌが考察を口にする。

「……おそらく、これも《異能》だろう」

つまりは、《セイレーン》とかと同じものだという。

「どうしてそう思うんだい?」

オーグリーが尋ねると、ロレーヌは続けた。

「私も《異能》や《特異能力》と呼ばれる力を持っている者たちとは会ったことがあるし、話を聞いたこともあるわけだが……彼らにその能力を聞くと多くが、なんとなく分かる、というようなことを言うからな。原理がどうとかそういうものの研究が進まない原因はそれだ。生まれつきできて、しかもほぼ感覚的な力なのだ、《異能》というのは。だからこそ、魔術に比べて活用しにくい。有用なものもあるが、大半はどうしようもない力だったりするしな……」

「たとえばどういうのがどうしようもない力なんだ?」

「そうだな、小石を少しだけ持ち上げられる、とかかな。魔術でも同じことは出来るし、しかもかなり簡単に出来る。その上、魔術は理論や技術に習熟すれば大岩をすら持ち上げることが可能になるが、《異能》の場合は頑張ってもそうなるとは限らんし、大抵の場合はずっと変わらんのだ。他には……水の色を変えるとか、少しだけ浮けるとか……」

なるほど、確かにどうしようもないか。

魔術で簡単に代用が可能な力だ。

強いて言うなら、料理には結構使えそうかも、というところかな。

何もいれずに水やものの色を変えられるなら、結構引っ張りだこになりそうだ。

小石を持ち上げる、という力だって、卵をそれで割れたりしたら便利そうである。

手が汚れないな……なんて使い方をしてる奴なんていないのかな。

いるかもしれないが、滅多に見ない力である。

調べようがない。

「《異能》ですか……これって、そういうものだったんですね。初めて知りました」

ロレーヌの話に聞き入っていたのは、俺たちだけではなかったようだ。

フェリシーは彼女の話に感動したような視線を向ける。

自分の力を客観的に明らかにしてもらったのだ。

その気持ちは理解できた。

俺も、自分が何なのか、どうしてこうなったのか、そういうことをロレーヌに考察してもらうと安心するからな。

人間、分からない、という状態が一番不安なものだ。

それが自分の力であるのなら、なおのことである。

「そうなのか? まぁ……王都ですらあまり聞かない力だ。仕方のないことだろう。昔は今よりもずっと沢山の人間が持っていた力だと言うが……」

「今は少なくなってしまったのですか?」

フェリシーが体を前に乗り出して尋ねると、ロレーヌは答える。

「あぁ。魔術が隆盛したからな。というか、《異能》を参考に作り上げられた技術体系が、魔術だ、という説もある。ただ、それほど有力な説というわけでもないが……魔術を自然に発現させる者もいるからな。それに《異能》は魔力を使っていない。《異能》使いの起こす現象を魔力を使って再現しようとした者は沢山いるだろうが……どちらかというと別の力なのではないか、という考え方の方が主流だ」

「へぇ……何だか私、すっきりしました。どうしてこんなことが出来るんだろうって何度も思ってましたから……」

後の方の台詞をあまり明るい表情ではなく言ったのは、まさにその力について思うところがあったからだろう。

しかし、ロレーヌによってその力自体にしっかりとラベリングがされていることが明らかになったわけだ。

「それは私も答えられない疑問だが、昔からあった力だ。人が、武器も魔術も持たなかった時代、生きながらえさせてくれたのは《異能》の力なのだろう。遥か昔の伝説に出てくるような、とてもではないが考えられない現象を起こす英雄や魔術師、神々のエピソードがあるが、それは《異能》のことなのではないか、と思うこともある。今に残る《異能》の力はそれほどのものはないと言われているが……ともかく、おかしな力ではないよ。私たちもこうして非常に助かっているしな」

ロレーヌなりの慰めというか、安心させようとして言った台詞なのだろう。

フェリシーもこれにうなずいて、

「はい。とても安心できました……胸を張ってこういう力があるんだよって誰かに言う訳にもいきませんけど」

「確かにな。秘密にしておいた方がいい」