軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第410話 塔と学院、数日の予定

「……組合職員は五日後に戻ってくるって言ってたが、本当に戻ってくるのか……?」

俺は思わずそう口にしていた。

総冒険者組合長(グランドギルドマスター) なのだ。

忙しいからそんなすぐには会えませんよ、というのなら理解はできる。

しかし、ちゃらんぽらんな性格なのでいつ戻ってくるのか謎ですとなれば話が変わってくる。

冷静な表情で俺に 総冒険者組合長(グランドギルドマスター) の不在と戻ってくる日時を告げたあの職員だったが、内心は冷汗だったのかもしれない。

「五日後には戻ってくると思いますよ!(本当かよ……)」

みたいな自己突っ込みをしていた可能性もある。

下っ端は辛いね。

王都の組合職員はヤーランにおいてはかなりエリートな方なので下っ端とも言いにくいかもしれないが。

「さぁ……? ま、五日後に来いって言われたならそのときに冒険者組合に行かなければならないのはもちろんだけど、あんまり期待しない方がいいかもね」

「……ウルフが俺に丸投げした理由が分かって来た気がするよ……」

「面倒くさかったんだろうね」

そういうことだろう。

道理で妙に奥歯にものが詰まったような言い方というか、雰囲気をしていたはずである。

マルトに帰ったら存分に文句を言おうと決めた。

今決めた。

「けど、僕からしてみるとウルフには感謝したいね。お陰で僕は君たちに久々に会えたし、胃がきりきり痛むようなストレスからも解放されたし、一人じゃ受けられない依頼も片付きそうだしね」

オーグリーはそう言って微笑む。

現実問題として、いずれ王都には来る必要があった。

それにオーグリーともバタバタした状態ではなく、普通に会話できる時間も欲しかったし、そういう意味ではウルフ様様と言えなくもない。

……文句はやめてやろうかな。

……いや、文句は言って、お礼も言えばそれでいいか。

「しかし依頼か。オーグリーは銀級になったのだし、私たちに頼らずとも、大半の依頼は一人でも片づけられるのではないか? 無理でも、その依頼のみの臨時パーティーを募集すれば十分だろう」

これを言ったのはロレーヌである。

確かにそれはその通りで、何か複数人でなければ受けられない依頼があったとしても、パーティーを組む相手は別にわざわざ俺やロレーヌである必要はない。

俺など銅級だし、ロレーヌとて博識で実力はあるにしても、王都周辺について現地の人間より知り尽くしているというわけではないからな。

慣れている現地の冒険者と組んだ方が効率が良さそうだ、というのは俺も思う。

けれどオーグリーは首を横に振って、

「確かに普通の依頼ならそうなんだけど、僕が受けたいのはあんまり王都の冒険者が受けない依頼なんだよ。前に来た時の火精茜の採取みたいなやつって言えば分かるかな?」

以前、身分を偽って王都にやってきたとき、俺たちは一緒に依頼を受けた。

といっても、オーグリーの服の染色のために出されたオーグリーのための依頼だったわけだが……。

しかし、それだけでもなかった。

「あれか。あの少女の母親は助かったのか?」

ロレーヌが思い出してそう尋ねると、オーグリーは面食らった顔をして、

「えっ。なんでそれを……」

と尋ねる。

これにロレーヌは、

「帰りに大通りを歩いているときに見かけてな。立派なものだと思ったぞ」

と茶化すことなく褒め称える。

オーグリーは少し、照れたように顔を背け、

「いや、あれは……僕の服の染めに使っても余ると思ったからさ。それだけだ……あぁ、もちろん、あの子のお母さんは助かったよ。血の巡りが滞ることによって体中に不調が出ていたみたいでね。医者に火精茜が必要だと言われて……」

確かに火精茜には染料としての使用法だけでなく、そう言った薬としての効力もある。

というか、むしろそちらの方が重要なものだ。

しかし、オーグリーが服を染めるためにどうしても欲しいと言うからその辺りの効能についてはあのとき考えなかったが、やっぱりそっちの方が重要だったというわけだ。

「俺たちを人がいい扱いするが、お前も相当だと思うぞ」

「……ま、それがマルトの冒険者って奴なんじゃないかな? 僕じゃなくても、マルト出身の冒険者ならきっと同じことをしたよ」

そうだといいがな。

実際はどうなのか分からない。

「じゃあ、一緒に受けてほしい依頼ってのは、あまり報酬の高くない、ボランティアに近いものってことか?」

俺がそう尋ねるが、意外なことにオーグリーは首を横に振った。

「いや、そういうわけじゃない。この間のは例外だよ。そうじゃなくて、王都の冒険者には簡単に見分けがつかなかったり、生息場所が特定できなかったりする素材採取系の依頼っていう意味さ。もちろん、たまにはボランティアもいいけどね。そういうのを受ける物好きは幸いなことに王都にも少しはいるのさ。だからそんなに心配はいらない。火精茜の一件は火精茜を見分けるのが難しいから誰も挑戦しようがなかったってだけだ」

「そうだったか……ちなみに、例を挙げるとどんなものがある?」

ロレーヌが尋ねると、オーグリーは答えた。

「そうだな……最近見た中で一人じゃ難しそうなのは、 水猫(アクア・ハトゥール) の生け捕りとか、 泥魔導人形(ルトゥム・ゴーレム) の泥か粘土の収集とかかな? どっちもうまいこと追い込みかけないと逃げちゃうからね。 飛竜天麻(ひりゅうてんま) の採取なんてのもあったな……あれはどう採ればいいのか悩んでたけど、ロレーヌがいるなら魔術を使えばどうにかなるだろうし」

次々に出てくる依頼にげんなりしつつ、俺はオーグリーに尋ねる。

「……おい、それ全部、俺たちと一緒に受けるつもりか?」

「そりゃもちろん。だってこれから数日暇なんだよね? ちょうどいいじゃないか。まさか宿で眠りながら数日過ごすつもりじゃないでしょ? 人生、そうやって寝転がってるといつの間にかおじいさんおばあさんになってるよ。特に冒険者は動けるときは動かないと!」

話の内容は一般論としては正しいだろう。

しかし、依頼の数が多すぎるような……。

ただ、 総冒険者組合長(グランドギルドマスター) が王都に戻るまであと四日。

時間が余っているのも事実ではある。

確かにいい暇つぶしにはなるかもしれないし、俺とロレーヌは顔を見合わせ、苦笑しつつもオーグリーの提案に乗ることにしたのだった。