軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第4話 骨人の寂しさ

さて、 骨人(スケルトン) を倒したはいいが、これで俺は存在進化へと一歩でも道を進めたのだろうか?

落ちている 骨人(スケルトン) の骨の中をかき分けつつ、魔石を拾ってから体を確認してみるが……何か変わっただろうか?

実感がまるでないのだが……。

と思っていると、突然、倒した 骨人(スケルトン) の亡骸から、ふっとぼんやりとした光のようなものが噴き出てきて、俺の体に向かってきた。

まだ生きていたか!?

一瞬、焦って構えるが、何も攻撃的な雰囲気のしない光で、しかも避けようとする間もなく体に命中してしまったので、どうしようもなかった。

しかし、そんな懸念とは裏腹に、俺の体がその光によって傷つけられる、ということは全くなく、むしろ、何か力が湧いてくるような、そんな感じがした。

光が俺の体にどんどん吸収されるにしたがって、先ほど消費したはずの気の力も満ちていくし、魔力や聖気もなんだかほんの少しだけだが、増えたような気さえする。

もしや、これが《魔物の存在進化》という奴なのか。

そう察するのに、それほど時間はかからなかった。

とは言え、力は確かにあふれてくるが、 屍食鬼(グール) になれた、という訳ではなさそうだった。

むしろ、見た目はまるで変わっていないと思われる。

鏡がないため、顔面周辺についてはよくわからないが、手足や体の見える部分を見てみても、何も変わっていないのだから、おそらく顔もそうだろう。

しかし、

これじゃあ、何の意味もないじゃないか!

とは思わなかった。

なぜなら、存在進化というのはそんな、たった一匹、同族の魔物を倒したくらいで出来るようなものではないと予想していたからだ。

これも、魔物の研究書を読んで得た知識なのだが、その書物の中で推測としてそう書いてあったのだ。

これは納得できる話で、もし仮に、魔物が同族を一匹倒せばそれだけで存在進化が可能だと言うのなら、上位の魔物がどんどん生まれて、この世は人族にとって地獄もかくやという状態になってなければおかしいからだ。

もちろん、今でも魔物はたくさんいて、人族にとって脅威となる魔物も多く存在しているが、それでも基本的には討伐出来る魔物が大半であり、街や村を作って生活できる程度の平穏は維持できるのだ。

そんな大量の魔物が存在進化しているはずがない、というのが俺が読んだ研究書の推測だった。

つまり、存在進化、というのはそう簡単に出来るものではなく、相応の数、もしくはそれなりに強い存在を倒さなければ出来ないものであろう、ということだ。

その意味で、俺はまだ、弱い魔物を一匹倒したに過ぎない状態なのだから、進化出来ずとも当然の話だ、ということである。

それでいて、少し強くなったかも、と思えるくらいの能力の上昇を感じ取れるのだから、これはむしろ僥倖だと言えるだろう。

一匹魔物を倒すごとに、少しずつ強くなれる。

つまり、戦うごとに戦闘が楽になっていくということが確定したからだ。

もちろん、毎回必ずこうなるわけではなく、一匹目だったからたまたまそういうことが起こった、という可能性もあるが……。

まぁ、こればっかりは何回か魔物を倒していかなければ分からない。

まずは、やってみよう。

そう思って俺は迷宮の探索を続行することにした。

◆◇◆◇◆

結論として、やはり魔物を倒すごとに、少しずつ、強くなれることは事実のようだった。

というのも、あれから数体の魔物、 骨人(スケルトン) に出会い、倒したのだが、倒しきった後に、最初のときのような力の吸収が同じように起こったからだ。

そして、その力の吸収により、能力が上昇したということが気のせいではないことは、体の動きが初めよりもかなり良くなってきたことからも明らかだった。

気を使った一撃も、少し威力が上昇していて、最初の 骨人(スケルトン) のときは、ぎりぎり頭をかち割れるくらいの威力だったそれが、今では本気でやれば頭の骨をばらばらに砕けるくらいまでになっていた。

もしかしたら、もうそろそろ、スライムも行けるかもしれない。

そう思うくらいには強くなれたような気がする。

スライム、というのも、 通常骨人(ノーマルスケルトン) と並ぶ弱い魔物の代表格だが、それでも決して侮れないのは、彼らが不定形の液体の魔物だからだ。

その性質上、物理攻撃というのが効きにくく、倒すためには魔術を使うのがもっとも簡単だと言われている。

とは言え、それだけしか攻略方法がないわけではなく、物理攻撃で倒すことも可能だ。

主に二つの倒し方があって、スライムには核という、動物で言う臓器にあたる部分があるのだが、そこを的確に潰すと、全体が瓦解して魔石だけを残して死ぬ。

しかしこれはそう簡単でなく、常に動き回る核の部分を的確に射貫く剣術や槍術のスキルが必要で、そこまでの技術は銅級中位を越える程度の実力がなければ身に着けられない。

俺は銅級下位の冒険者であったのであり、当然のこと、そんなことは出来なかった。

したがって、もう一つの方法である、スライムを構成する液体状の体を、再生できないほどにバラバラに散らす、というのをとることでしか倒せなかった。

これは、非常に簡単で、俺にも可能なほどだったが、その代わりとして、少しばかり時間がかかる。

スライムは体が液体状で、たとえ散らされてもすぐにもぞもぞと動いてもっとも大きな塊にくっつき、再生してしまうからだ。

それをさせないためには、かなりの力で一気に散らすか、高速度で遠くに散らしていくかしかなく、それほど速度に自信があったわけではない俺としては、気の一撃で一気に散らす方を選択するしかなかった。

つまり、スライムを狩るのは一日一匹が限界だったわけだ。

弱い。

まぁ、銅級下位冒険者なんてそんなものだ。

しかも、俺はパーティなんて組まずにソロでやっていた。

スライムなんて、普通なら、パーティに一人、本職の魔術師ほどとは言わないまでも、 火弾(フォティア・ボリヴァス) や土の 矢(ギ・ヴェロス) と言った低位魔術を使えるくらいの魔力量を持つ者がいて、簡単に倒す魔物である。

俺のように非効率なことをしている冒険者は少数派というわけだ。

その代わり、 骨人(スケルトン) やゴブリンについては結構な数、倒せていたから、稼ぎは銅級下位としてはそれほど悪くなかったのだが。

さて、そんな俺の宿敵であるスライムであるが、今の俺の状態なら、結構簡単に倒せるかもしれない。

気の力を使わずともそれなりの腕力が出るようになってきているし、これならスライムの体を散らすのに気を使う必要がなさそうだ。

――行ってみるか?

そう思って俺は 骨人(スケルトン) になる前に、スライムがいた区画を目指すことにする。

すでに来るとき倒してしまっていたが、十分な時間が経っていると思われる今なら、おそらくは 再湧出(リポップ) している可能性が高い。

それを、誰かほかの冒険者が狩ってない限りはまだいるはずだった。

迷宮に潜り続けると、迷宮内の空気でなんとなく時間帯が分かるものだ。

人が多い迷宮では血と鉄の匂いが強くするし、振動が壁を伝わってくる感覚が多くしたりする。

特に俺はこの迷宮にばかり潜っていたから、かなり正確に時間帯が分かる。

そしてその感覚から導き出した時間からして、この迷宮で今この時間帯に狩りをしている物好きはそれほどいないと思われた。

都市マルトの周辺にある迷宮はここだけではなく、もう一つ、メジャーな迷宮《新月の迷宮》があるからだ。

向こうの迷宮はまだすべて探索されておらず、未踏破階層がある。

したがって、マルトの冒険者のほとんどは向こうに行き、こちらで狩りをするのはよほど偏屈か、パーティを組んで迷宮に挑めないソロ冒険者のどちらかだった。

俺は後者である。

本当なら《新月の迷宮》に挑戦したかったが、あっちはここの迷宮と違って魔物が多く、複数体で襲ってくることが少なくない。

ソロで、しかも銅級下位冒険者の俺にとって、それは即座に死を意味するため、どうしてもこちらで狩りをするしかなかったのだ。

改めて考えると寂しくて仕方がない話だ。

なぜ俺がソロだったかというと、それも寂しい話で、単純に俺と組んでくれる冒険者などいなかったからだ。

冒険者になって十年、それでも銅級下位でしかないというのは落ちこぼれの証拠だから。

どんなに才能がなくとも、十年もやれば銅級中位から上位くらいになれるものだ。

しかし俺は……。

まぁ、考えれば考えるほど悲しくなるそんな話はとりあえず置いておこう。

それよりも、今はスライムだ。

ちょうど、目的の場所についたようで、目の前にもぞもぞと動く水晶のように透き通った不定形の魔物がいた。

スライムである。

俺は剣を構えて、じりじりとスライムに近寄った。