軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第38話 新人冒険者レントとギルド職員

俺が用紙に記入した名前を読み上げたシェイラの表情は、なぜか微妙に悲しそうだった。

不思議に思い、俺は尋ねる。

「……どうした、のだ?」

するとシェイラは、

「いえ……つい先日、レント、という名前の冒険者の方の行方が分からなくなりまして……」

それは俺のことだな、と思いながらも、俺はそしらぬふりをして返答する。

「……ぼうけんしゃ、は、そういった、ことも、かくごして、いるときいている……」

実際、ある日突然いなくなることは珍しくない。

そのまま死んでしまった、ということもあるし、単純に別の地域に移っただけ、という場合もある。

それに冒険者に嫌気がさしてやめてしまったとか、もしくは実は犯罪者で逃亡せざるを得なくなったとか、色々だ。

ただ、俺については死んだものとして考えているのだろう。

他の理由が特にないからだ。

シェイラは言う。

「その通りなんですけどね。やっぱり実際にそうなってみると悲しいですよ。私が初めて担当した冒険者の方でしたし。ですから……同じ名前に少しびっくりしただけで……」

「なるほど……ちなみに、それは、れんと・ふぁいな、という、ぼうけんしゃの、ことか?」

あえて尋ねたのは、あまり怪しまれないようにするためだ。

と言ってももちろんこれだけでは奇妙に思われるだろうが……実際、シェイラは不思議そうな顔で、

「ええ……そうですが、よくご存じですね?」

と尋ねた。

しかし、この質問をこそ、俺は引き出したかったのだ。

俺は言う。

「ろれーぬから、きいている」

そんな俺の言葉に、シェイラは俺が記載した名前についてピンと来たようで、

「あぁ……ヴィヴィエって、なるほど、ご親戚の方ですか?」

そう尋ねた。

親戚だから、ファミリーネームも同じという訳だ。

俺がロレーヌの家に入り浸っていることはおそらく、そのうち知れ渡るだろう。

そのときに、あまりおかしな勘繰りをされたくない。

別に俺は構わないのだが、ロレーヌは未婚の女性である。

迷惑をかけるのは申し訳なかったから、早いうちに言い訳を用意しておきたいというのがあった。

遠いところから来た親戚だから、少し世話になっている、というのは悪くないいいわけだろう。

ちなみにレント、という名前は昔いた聖人の名前で、今の世の中ではかなりありふれている。

どこの国であっても、一定数いるので別に怪しまれることもない、という訳だ。

「そうだ……まちにいるあいだは、やどをかしてもらっている」

「そうでしたか。ロレーヌさんのところに変わった方が出入りしていると聞くようになってましたが……ロレーヌさん自身も結構な変り者ですけど」

すでに噂になっていたらしい。

俺は頷いて答える。

「それは、おれの、ことだろう……なに、おかしなかんけいではない。くにに、いたときから、あのむすめは、かわっていた……」

実際はどうだかわからないが、それっぽいことを言って誤魔化す。

キャラ設定的には、フラッと尋ねてきたロレーヌのおじさんである。

シェイラも大体そのように受け取ったようで、

「なるほど、ご苦労を……。それこそ、レントさん……あなたではない方と、くっつくのかと思っていましたが、そうはなりませんでしたしね……。あっと、冒険者証、完成しましたよ。こちらになります」

なんとなく聞き捨てならないことを聞いたような気がするが、それと同時に手元で行われていた作業が完了したようだ。

手渡されたのは、鈍色の、鉄のカードだ。

駆け出し冒険者――つまりは、鉄級冒険者の証であり、冒険者になった者がまず最初にもらうもの。

これを持っていたのは、遥か昔だ。

懐かしい気がして、なんとなく翳してみてしまう。

そんな俺の様子を見慣れたもののように微笑みつつみながら、シェイラは、

「 冒険者組合(ギルド) の規則などについて、細かい説明などは必要ですか?」

と尋ねてきたが、俺はこれでベテランだ。

実力の程についてはあれであるが、とにかく務めた年数だけは長い。

よって、規則については非常に詳しい。

それを利用して変な奴を撃退したりということもしてきたくらいだ。

戦闘能力が低い俺は、そういうところで立ち回るしかなかったからだ。

だから俺は言う。

「いや、ひつよう、ない。こまかいきそくは、あれに、かいてある、だろう?」

受付の脇に置いてある革張りの冊子を指さすと、シェイラは少し驚いた様子で、

「よくご存じですね?」

と尋ねる。

まぁ、駆け出しがあれに注目することなど滅多にない。

職員に細かいことはあれに書いてありますので気になったらお読みくださいと言われるくらいだ。

しかし俺はあれを熟読していたので、もうほとんど中身は頭に入っている。

それでもあえて指摘したのは、わからなくなったらあれを読むから別にいいよ、と言いたかっただけだ。

「ろれーぬに、きいた。きほんてきなきそくも、な」

「なるほど、一緒に住んでおられるのですもんね。それならいいでしょう。では、レントさん。冒険者として、頑張ってください。くれぐれも、命だけは大切に」

そう言われたので、俺は頷き、受付を離れたのだった。

◇◆◇◆◇

冒険者組合(ギルド) の依頼は大体、 冒険者組合(ギルド) の壁に設けられている掲示板に張られている。

依頼の種類は色々で、誰でも出来るような雑用から、腕の必要な荒っぽい仕事まで様々だ。

基本的に便利屋という色彩が強いのだ。

だから、究極的には戦う技能が全くなくても生活できる程度に稼ぐことは出来る。

だからこそ、隠れた犯罪者とかがたまにいたりするわけだが……。

俺も、生前は弱い魔物の討伐や素材収集の他に、雑用関係の依頼を多く受けていた。

そのため、非常に慣れていて、今もそういったものを受けたいなと思わないでもないのだが、自分の格好を考えると……中々に難しいものがあるだろう。

人間だったころは格好良くはないが、人畜無害そうな童顔だと言われることが多かった俺である。

どんなところに行っても、そこまで嫌われることもなかったが、今のこの格好――怪しいローブに光り輝く骸骨仮面となると、流石に気持ちよく依頼を頼む、という風にはならないだろう。

それでも人の手が必要だから依頼を出しているわけで、断られはしないだろうが、そう言った依頼よりも、今は普通に魔物を倒す方が効率がいいだろうし、気持ちの面からも楽だ。

流石の俺も、あいつ変な奴、という目でチクチクと見られながら仕事をするのは耐えられないわけではないが、少し辛い。

それよりは暗くジメジメした迷宮で徘徊している方がいい。

そう頭の中で考えた俺は、掲示板に張ってあった依頼の中から、今の自分の実力から見て適切なものを取って、受付に持っていく。

「あぁ、レントさん。依頼はお決まりになりましたか?」

シェイラがそう言ったので、依頼書を手渡した。

彼女はそれを見て、

「……いきなり 豚鬼(オーク) の納品依頼ですか? 駆け出しですと、ゴブリンの魔石の収集がお勧めですが……」

豚鬼(オーク) はそこそこに強い魔物だ。

大体、銅級の中位から上位に相当すると言われている。

だからこそのシェイラの台詞だったが、今の俺には十分倒すことの出来る相手だ。

もちろん、囲まれたりすれば問題だろうが、そう言ったところについては注意できる。

「……くにで、たおしたことが、ある、からな。ぼうけんしゃとしては、かけだしだが、それなりの、ちからはある、のだ」

実際、そういう人間もたまに冒険者に登録するので、おかしな言い分というわけでもなかった。

しかし、シェイラは心配そうである。

けれど、だからと言って、止められるものでもない。

シェイラは諦めたように、言う。

「……無理だけはしないでくださいね。命は一つしかないんですから、危なくなったら、逃げることです。いいですか?」

それについてはよく、分かっている。

なにせ、一度死んでいるのだから。

そもそも、基本的に危なそうだなというときは即座に逃げの一手を張るタイプだった。

そう言う意味では、シェイラの心配は当てはまらない。

ただ、そんな説明をしても仕方がない。

だから俺は一言、

「あぁ」

そう言ったのだった。