軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第376話 学院首席ノエル・クルージュ3

「お、来たな。我らが同胞よ!」

がちゃり、と宿の扉を開くと同時に、舞台役者のように大げさな身振りでノエルを出迎えたのは、《学院》の同級生であり、かつ、今回宿で割り当てられた部屋が同室のピエルパオロ・ブランカだった。

全体的に細長く、人を食ったような雰囲気の妙な男、という印象を、彼を初めて見た人物は受ける。

実際、ノエルも彼と初めて出会ったとき、そんな風に感じたものだ。

今となってはもう、慣れてしまったが。

ちなみに、これで父親はしっかりと爵位を持った貴族である。

子爵位であり、かつ商売もやっているようで経済的に裕福な貴族だ。

ピエルパオロは長男であり、《学院》でもノエルやエリーゼほどとは言わないまでも、優秀な成績を修めている男である。

したがって、将来その地位を継ぐことになるのは自然な流れである。

いつか、この男と貴族として肩を並べる日が来る、と言われると妙な気分に陥るが……まぁ、貴族というのは大半が変わっているもので、特にヤーラン貴族は他国と比べてその傾向が顕著である。

今更な話かもしれなかった。

「……それで? 首尾の方はどうなんだ。なんとかなりそうなのか?」

ノエルがあきれたようにため息を吐きながらピエルパオロに尋ねると、彼は大きく頷いて、

「まぁ、概ねなんとかなりそうだぜ。俺たちみたいなのがすんなり迷宮に入るのにはまず、冒険者の確保だからな……。もちろん、俺たちも魔術は使える訳だが、迷宮に日常的に潜ってる奴らと比べれば威力も精度も比ぶべくもねぇ。それに、戦いのために行くわけでもねぇしな。余計なことに体力を使いすぎることは避けないとならねぇ。そうだろ、兄弟」

「ああ……《学院》での成績がかかっているからな。エリーゼに負けるわけにはいかん」

「……ん? なんかあったのか」

いつもとは少し異なる、多少気合いの入った声色を、ピエルパオロは不思議に思ったのだろう。

首を傾げつつ尋ねてきたので、ノエルは馬車乗り場でのことを説明した。

全て聞き終えたピエルパオロは腹を抱えて、

「おまっ! お前、ついて早々何してんだよ……! あんだけ揉め事は起こすなって言われてたのに。まぁ、事情が事情みたいだから仕方ねぇかもしれないが……しかし、ローブを触れただけで、ねぇ……」

そんな風に盛大に笑われる。

これにノエルは文句も言わず、ただ腕を組んでむっつりとしていた。

ピエルパオロは、《学院》においてノエルに心の底から砕けてモノを言える珍しい生徒で、それをノエルも咎めないという関係にある。

つまりは、ノエルの唯一の友達ということになるだろう。

ノエルは基本的に優れた人間以外を見下すような態度を取りがちなタイプに見える人間である。

実際はそんなつもりはないのだが、どうにも見え方、というのは難しい。

しかし、そんなノエルが対等に接しているように見えるのが、このピエルパオロなのであった。

それは別に、ノエルが遜っているとか対応を変えている、というわけではなく、むしろピエルパオロの方の態度が他の生徒の数倍巨大なのだった。

結果的に対等に見えているわけだ。

実際はといえば、ノエルの方もピエルパオロのことを認めているところがあった。

確かに成績という面ではノエルの方が上であるが、ピエルパオロは妙なことを知っていたり、鼻が利くのである。

勘がいいというか……。

それはノエルにはない部分なので、尊敬に値すると考えていた。

そんなピエルパオロが、先ほどノエルの出会った魔術師について疑問を言ってくる。

「いくら優れた錬金術師だからって、触れただけでそんなことわかるもんか?」

この質問にノエルは少し考えてみたが、結局首を横に振って、

「……実際、彼女の言葉は全て正しかったぞ。商人からの謝罪を受けたくらいだ。損害の賠償までしてくれるらしいが……」

「商人の方はな、なんか 脛(すね) に傷でもあるんだろ。そっちはいいさ。しかし魔術師の方がなぁ……」

「そんなに気になるのか?」

「まぁな。お前がビビるくらいの実力者なんだろ?」

「ばっ……ビビってなどいない!」

「はいはい。ビビってるのな。それに加えて《学院》謹製のローブの構成を一瞬で見抜ける錬金術師なんだろ? いくらなんでも能力が高すぎるんじゃないかと思ってな……」

「何か手妻があるとでもいうのか?」

そんなことはありえない。

あの状況は完全なアクシデントであり、どこかで仕込めるようなものでもなかったからだ。

それはピエルパオロも分かっているようで、すぐに首を横に振って否定する。

「そういうことじゃねぇさ。そうじゃなくて……そんな奴がこんなド田舎にいるんだ。理由なんてあんまり浮ばねぇじゃねぇか」

その言い方に、さすがにノエルも察するものがあって、

「……迷宮を調べに来たということか? 《塔》や《学院》以外の機関から」

そう尋ねる。

ピエルパオロは頷き、

「まぁ、そういうことだ。他の国からってこともありうるぞ。それにそいつに限ったことじゃねぇ。誕生したばかりの迷宮なんてそれこそ十年、百年に一度見れるか見れないかだって言われているからな。どんな奴らがこの街に来てるか分かったもんじゃねぇ。注意するこった」

つまり、本気であの魔術師がどこかの機関や国からやってきた者だ、と思っていると言うよりは、迷宮を調べるにあたってそういう奴らに成果などをかっさらわれないように気をつけよう、ということが言いたかったらしい。

まぁ、分からないでもない話である。

しかし、あの魔術師については恩があるわけで、ノエルは一応、彼女にかけられた不当な疑いについては否定しておくことにした。

「話は理解したが、あの魔術師はマルトの人間だと言っていたからな。たまたまだろう」

「そうなのか? ま、俺も心配し過ぎなのかもしれねぇな……何せ、誕生したての迷宮だ。世紀の大発見もあるかもしれないぜ」

そう言いつつも、冗談であることはノエルも分かっていた。

そういう発見というのは、あったとしても《学院》の教授たちや《塔》の研究者がするだろうからだ。

ノエルやピエルパオロのような生徒に期待されているのは、その使い走りに当たる、細かで雑多な情報の収集である。

とはいえ、それでも何かの偶然で、という可能性はゼロではない。

「そこはお前の幸運にでも期待しておく。俺はどうも、この街ではそれほどついてなさそうだからな」

馬車乗り場でのことを思い出しつつそうぼやくと、ピエルパオロは再度、腹を抱えて笑ったのだった。