軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第370話 塔と学院、海の国

少年を糾弾する少女の方は、尊大そうな少年と比べてかなりお堅そうと言うか、真面目な雰囲気が全体から感じられた。

それでもローブ以外に身に付けているもの……耳に揺れるイヤリングとか、ちらりと覗く手首に嵌った細身の腕輪とかを見ると結構なお嬢だな、という感じもする。

「いやはや、金銭的に豊かだといいものが身につけられていいな。魔力増幅のイヤリングに、魔法防御力を上昇させる腕輪……しかも効果だけではない見事な細工だ。貴族かな?」

ロレーヌがちらりと見ただけでそう言い切った。

冒険者ならばコツコツお金をためて少しずついいものに変えていく装備品であるが、貴族にそんなみみっちいことする理由なんてないからな。

最初からいいものを身に付けているのが普通だ。

とはいっても、身に付けるだけでもある程度の実力が必要なものが多いから、装飾の方で頑張っている方が多いけどな。

力の無い剣士に重く威力のある大剣を持たせても仕方がないし、魔術の拙い魔術師見習いに強力な魔力増幅効果を持つ品を持たせても暴走させて死ぬだけだ。

そこからすると、少女の方はそこそこの実力はあるのだろうな。

あんまり魔力に影響するようなものをたくさん身に付けると、装備品同士が干渉しあって酷いことになったりすることも少なくない。

ローブ、イヤリング、腕輪、の三つくらいなら、それを起こさないで済ませられる程度の力はある、ということだろう。

ロレーヌ?

ロレーヌは以前、両手両足のすべての指に魔道具の指輪を身に付け、イヤリングを片耳に五つずつぐらいして、十枚くらいローブを重ね着し、頭に帽子を五段くらい重ねてたことがあった。

そのまま魔術を使って大爆発を起こしていたな……。

要は大失敗ということだが、しかし、数十秒だが制御していたのも事実だ。

ちょっと常識では考えられない制御力ではあるが、実戦で使えるかというとちょっとな。

非常に限定されたタイミングで、というのなら考えられなくはないが。

まぁ、そんなアホと少女を比べるのはいろんな意味で可哀想である。

「《学院》に通えるような奴は多くが貴族なんだし、まぁ、あれくらいのものは持ってておかしくはないな……しかし……ん? リナ。どうかしたのか?」

観客よろしくロレーヌと話している中、さっきまで一緒に話していたリナが一言も発しないことに違和感を感じて俺は横を見る。

するとそこには、あっけにとられたような表情で少年と少女の方を凝視するリナの姿があった。

かなり珍しい様子だ。

なにせ、リナと言えば骨ってた俺を見てもすぐに慣れて一緒に街に侵入する計画を練るような度胸の持ち主だからな。

そう簡単に驚いたりはしない。

まぁ、もともとリアクションは俺やロレーヌと比べて激しい方だから、いつも驚いているような印象もないではないが、心の底からびっくりしている、ということはあまり見たことがない。

今は違う。

今、リナは確かに心底驚いている……。

何があったのだろう。

リナは俺の言葉にはっとしたような表情で、しかし視線を少年と少女からずらさないまま、口を開いた。

「あの子……女の子の方! さっきお話しした、私の友人です!」

◇◆◇◆◇

「……エリーゼ・ジョルジュか。余計な口を挟むな。今、僕はこの商人と話をしているところだ。お前にかかずらわっている時間などない」

少年の方……少女から呼ばれた名前からして、ノエルというのが彼の名だろう。

少女の方はエリーゼか。

ノエルはエリーゼの方を面倒くさそうに見て、さっさとこの場からどくように、とでも言うように手を振る。

かなり挑発的な仕草に見え、エリーゼもそう捉えたようで、釣り上がった目じりを更に厳しくした。

「あなた……!!」

エリーゼの体から、魔力の高まりを感じる。

と言っても、魔術を放つ前段階、というわけではなく、感情の高ぶりに伴って起こる自然な現象である。

自分の居場所や、魔力の強さ、魔術を放つタイミングなどが察知されてしまう可能性があるため、魔術師としてこなれればこなれるほど、そう言ったことはなくなるように訓練しているものだが、彼女はおそらくは優秀だろうとはいえ、まだ魔術師見習いに過ぎない。

そうなってしまうのも仕方がないだろう。

しかし……。

「……リナの友人か。となると、中々にまずい状況だな?」

ロレーヌがリナの言葉に顎を摩る。

「そうか? いくら何でもいきなりこんなところで魔術合戦したりはしないだろうし、仮に戦い始めたとしても何とかなるだろ?」

基本的に、街中で強力な魔術を飛ばし合うのはご法度だ。

それがヤーランでの法である。

他国ではそうではない、というわけではなく、大概の国でも同様の基本的な決まりだ。そうではない地域もないわけではないけど。

だから彼らもわざわざ法に反することをしようとはしないのではないか、という期待がまず、あった。

《学院》というのは確か、賢明さや高潔さを謳っていたような気がするからな……。

しかし、そうは言っても、実際に冒険者同士の小競り合いとかは普通にあるわけで、ザルというか、衛兵が来るなどの大騒ぎになるまでは放置されるのが大半だという事実もある。

実際の扱いは、街の建物を倒壊させたり、全く無関係の人間を大量に傷つけたりしない限りは問題にはならないわけだ。

だから冒険者は平気な顔で小競り合いをしてしまうわけだ。全く法を守る気がない、というわけではないにしても、人としての最低限以外はあまり気にしないのだ。

だからこそ荒くれ者扱いされる。

なので、仮にここでノエルとエリーゼが魔術を飛ばし合っても、まぁ、彼ら自身がどうにかなる、ということはない。

また、周囲の一般人の観客たちについても、魔術を浴びれば危険、というのはあるが、そこら辺はロレーヌが防壁を張るなどしてどうにかするだろう。

ロレーヌ以外にもちらほらと冒険者の魔術師がいるのは確認できているし、彼らもいざというときには何とかするはずだ。

そういうわけで、俺はそこまでまずい状況だとは思っていないからこその発言だったわけだが、ロレーヌは首を振った。

「そっちの方はな。ただ、あの商人の腰のものを見ろ」

「ん? ……あぁ、アリアナ自由海洋国のものだな。そっちから来たのか」

商人の腰には短剣が差してあった。

それは戦闘用のものではないのは造りや大きさから明らかだったが、鞘の部分に特徴的な紋章が刻まれているのが見えた。

紋章は二つ並んでいたが、片方には見覚えがある。

それは、アリアナ自由海洋国、という国の紋章だ。

海を泳ぐ大蛸が、巨大な海竜に締め上げられている様子を描いたものである。

ちなみに、アリアナ自由海洋国、とはこの大陸の沿岸部に長い海岸線を持つ国で、主に海洋貿易で発展している国家だ。

その性質上、商人が非常に多い国だが、そのためどの国にもかの国の商人は顔を出す。

だから別にそのこと自体は構わない気がするが……そう思った俺に、ロレーヌは続けた。

「もう片方の紋章はアリアナの商会組合に所属していることを示すものだ。それだけなら別に構わんのだが、あの短剣を与えられるのは商会においてそれなりの地位を占めるものだけだ。もめると厄介だぞ。まぁ、それでも別に知り合いでもないなら放っておいてもいいのだが……」

アリアナの商会組合は金儲けのためなら何でもする、と言われるところだ。

多くの腕利きの傭兵や冒険者を雇っているが、それに加えて暗殺者すら使うことすらあるとも言われる。

どこまで本当なのか分からない噂が大量にこびりついた、危険な集団なのだ。

普通に表側のルールを守って付き合う分には問題ないのだが、事を構えるのには覚悟がいるのだ。

そんな相手と、おそらくは気づいていないとはいえ、揉め事をすでに起こしてしまっているこの状況が危険だと、ロレーヌは言っているのだろう。

そして、リナの友人も巻き込まれかけているので、放置はできないだろうとも言外に言っている。

「……だけどな、ここまで揉めた後に介入するのは……厳しくないか?」

仲裁に入ってもいいのだが、ノエルと商人はそう簡単に仲直りしそうもない。

藪蛇になって、俺たちまで大変な目に、何て可能性もありうる。

しかしロレーヌは、

「いや……おそらくは、何とかできる。さっき少年のローブを見たときに、気づいたことがあるからな。で、これが肝心だが……リナ、助けた方がいいのだろう?」

リナにそう尋ねた。

リナはその言葉に深く頷いて、

「出来ることなら、お願いできますか……」

そう言ったのだった。