軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第365話 塔と学院、停留所

次の日。

俺とロレーヌ、それからリナは馬車乗り場に来ていた。

以前来た時と同様に様々な《馬》がいて、見ていて面白い。

ただ、以前と異なる部分もある。

それは……。

「……やはり、今、マルトは物入りだからでしょうか。馬車の数がすごく多いですね……」

リナがそう言った。

そう。

以前来た時はまばら、とまではいわないまでも、結構な余裕のあった馬車乗り場であるが、今はかなり混み合っている。

ありとあらゆるところから積み荷を運んできているのだろう。

その理由は、リナの言う通り、マルトはかなり物入りな状況にあるからだ。

迷宮が出現した際に起こった、建物や道の破壊を修理しなければならないため、その建材なんかがまず必要になるし、マルトの人間だけで修復するには人手が足りないのでその人手自体も必要になる。

さらに、新たに増えた人々のための食料や衣服など、衣食住に必要なものの需要も増えているのだ。

もともと辺境都市であるから、特殊なものや嗜好品はともかくとして、生活必需品の類はほとんど自給自足に近い形でやってこれたマルトだが、今回ばかりは各地からの輸入に頼るしかないわけで、そのため人、もの問わず流通が激しくなっている。

続けてロレーヌが、

「それに加えて、迷宮に用のある冒険者たちも増えてきているな。研究者にもよく行き会うようになった。流石に帝国から来るようなのはいないが、王都の知人には何人か会ったよ。やはり出来立ての迷宮というのは珍しいからな。ほとんど《塔》や《学院》の人間が優先して調査するだろうとはいえ、観光がてら見に来ているようだ」

ロレーヌは帝国を捨ててマルトなんかに十年も籠もり続ける偏屈な学者だとは言え、知り合いがどこにも全然いない、というわけではない。

むしろ、大体においてズボラな割に、手紙なんかはせっせと書くようなところがある。

さらにメモ書きは暗号か?と聞きたくなるくらいに読めない字で書く癖に、手紙の字は女性的な美しい文字を書く。

そんな彼女には、ヤーランの学者にもそれなりに知人がいて、王都にたまに行くのはそう言った知り合いと情報交換やら議論やらをするためというのもあるようだ。

しかし、そうはいっても比較的変わり者に分類されるロレーヌの知り合いである。

その知り合い自身も変わっている、というか、中央学界から外れているようなタイプが多いらしい。

《塔》や《学院》と言ったら、ヤーランにおける研究の中心であり、どのような調査や研究でも彼らがまず最初に手を付けるものだ。

たとえば、今回の迷宮のような珍しいものがあれば、《塔》や《学院》の研究者が有力な冒険者たちを残らず雇い、入って十分に調査するため、立ち入り自体が難しかったりする。

ロレーヌのように学者も冒険者も兼任しているタイプなどほとんどいないのだ。

なぜといって、どちらも道の長い商売だからな。

どちらか一つに絞っても一流になれるかどうかなどわからないのに、両方やって十分な成果など、普通は出せない。

ロレーヌは特殊な例なのだ。

だからこそ、観光がてら見に来た、という話になるのだろう。

あわよくば中に入って調査したいが、認められる可能性は少ない、と。

まぁ、それでも来るあたり、研究馬鹿みたいな人間が多いのだろう。

ロレーヌと気が合うのも理解できる。

「《塔》は分かりませんけど、《学院》の生徒はやな感じの人が少なくないですから、苦手です……」

ロレーヌの言葉に、リナがげんなりした表情でそう言う。

俺が首を傾げて、

「なんだ、リナは《学院》の生徒に会ったことがあるのか?」

そう尋ねると、リナは言った。

「私、実家が実家なので、歳が近い知り合いの中に《学院》に行った子がいるんです。その子は友達で、優しい子なんですけど、同級生がかなりひどい感じの人が少なくなくて……」

なるほど、元々王都の人間だもんな、リナは。

それに実家は……兄がイドレス・ローグという将来有望な騎士だ。

爵位なんかはどのあたりかはさっぱりだが、間違いなく貴族の家だ。

《学院》に行くには金をもっているか才能があるかの二択しかないわけで、その構成員の大半は貴族や商人の子供などの金持ちになるため、リナの言うような歪んだタイプも少なからずいるだろう。

みんながみんなダメだってことはないけどな。

むしろヤーランの貴族は国自体が田舎であり、かつ主要な宗教が東天教である関係もあって寛容な人物が多い。

ただ、若い時というのは誰だってあるもので、《学院》に入る者たちの平均的な年齢からすると、ちょうど思春期反抗期が重なって、自尊心が肥大化していることも少なくないのではないか、とは思うが。

卒業するくらいには丸くなっているのではないか、と推測するが、行ったことはないからな。

実際はよくわからないところだ。

一度くらい見学してみたいものだが、低級冒険者の俺にそんな許可が下りるわけないな……残念だ。

「ひどい感じ、とは例えばどのような?」

ロレーヌがリナに尋ねると、リナは、

「私は以前、王都で冒険者として活動していたというお話はしたと思いますが、その際に、その友達と会っちゃったんですよね。出来るだけ知り合いに会わないように気を付けていたんですけど、絶対に、というのは難しくて……」

「まぁ、同じ街で生活していれば気を付けていても知り合いに出くわしてしまうのは仕方がないだろうな」

ロレーヌが相槌を打ち、リナは頷いた。

「そうですね。ただ、それだけなら良かったんですが、私、そのときかなりボロボロというか……まぁ、酷い格好で」

「俺と最初に会ったときみたいな感じか? まぁ、駆け出し冒険者は、仕方ない部分はあるよな……」

リナも女の子だから、服の汚れやら体を拭いたりやらはしていたようで、当時そこまでひどい、という感じではなかったが、身に付けているものの使い古し具合は中々のものがあった。

ただ、俺は底辺冒険者はもっとひどいことを知っている。

それこそ近くを通るとひどく酸っぱいにおいがする冒険者とか、たまにいるからな……服がぼろかろうが何だろうが、小奇麗にしているだけマシだ。

もしかしたらそういう奴はただズボラなだけかもしれないが。

とはいえ、王都で生活している貴族などで、かつ《学院》に通えるような身分の人間からすると、違うのだろう。

リナは続ける。