軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第36話 屍鬼ともらい物の価値

「……お前はここ最近、何かに呪われているかのように、おかしなものに立て続けに遭遇するな?」

迷宮から帰還した後、そこであったことを色々と説明した俺に呆れたような顔でそう言ったのは家の主であるロレーヌである。

「べつに、おれだって、すきで、そうぐう、してるわけじゃ……」

一応、そう言い返してみるが、よく考えてみると《龍》の出現した迷宮の未踏破区域の先に嬉々として進んでいったのだ。

いくらその気配がもう感じられないとは言っても、好んで危険に飛び込んだようなものだろうと言われたらぐうの音もでない。

「まぁ、そうだろうな……そもそも、冒険者自体がおかしなものに会いに行くような仕事だ。今更言っても仕方がないか……っと、それで、この魔道具だったな。問題はないようだぞ」

そう言いながらロレーヌが見ているのはあの白髪の女性がくれた魔道具《アカシアの地図》である。

迷宮を自動マッピングしてくれるという優れものだと言うことだが、最近まさに迂闊に身に着けた道具が呪われていることが判明した俺だ。

人からのもらい物については十分な注意をしておきたかったため、ロレーヌに呪われていたりするなどおかしなところがないか、確認してもらっていたところだ。

俺もその判別はなんとなくは出来るが、俺が身に着けている仮面のように特殊な呪いがかかっているような場合もある。

詳細な調査は俺では難しいのだ。

その点、ロレーヌはその学者としての知識や経験により、多くのアイテムについて鑑定することが出来る。

聞くところによると 冒険者組合(ギルド) の鑑定技能士の資格も持っているという。

持っているだけで就職に困らない難関資格のはずだが、片手間で取ったというのだから頭の出来が違うと言うのは羨ましいなと思う。

「……ちなみに、くわしい、つかいかたは、わかるか?」

渡されたはいいが、使い方の説明はとりあえず魔力を通せ、くらいなものだったので、それ以上の使い方については怪しいのである。

これについて、ロレーヌは、

「調べてみたが、私一人では無理なようだな。魔力を通せば地図が出ると言うことだが、私の魔力ではダメなようだ……お前、やってみろ」

そう言って地図を手渡されたので、言われた通りにしてみると、あのとき表示された《水月の迷宮》の地図が何も記載されていなかった羊皮紙の上に描かれる。

「うーむ、素晴らしいな、これは……む、この点は……?」

よくよく見てみると、地図上にいくつもの黒点が動き回っているのが見えた。

なんだろうか、と思って触れてみると、点の下に名前が表示された。

「これは……」

「あぁ、おそらくは、今この迷宮に潜っている者の名前だろうな。そんなことまで分かるとは……恐ろしい技術だ。国宝クラスだぞ」

ロレーヌが感嘆してそう言っている。

実際、こんなものは見たことがなく、俺はどうやらとてつもなく良い取引をしてきたらしい。

まぁ、その代わり一歩間違えたら殺されていたので、最終的にはトントンというところかもしれないが。

それから色々といじくりまわしたり、試したりしてみたところ、魔力を通し、色々と念じたりすることで表示の切り替えが可能なことが分かった。

たとえば《水月の迷宮》の地図から、別の地図に変えたいときはそう念じれば変わる、という風にである。

また、迷宮内部を歩いている人間の表示機能だが、これはどうやらその迷宮のマッピングを完全にしていなければ機能しないらしいこともわかった。

俺は、《水月の迷宮》については完全にマッピングしているのだが、《新月の迷宮》についてはほとんどしていない。

それで、《新月の迷宮》の地図を表示させようとしてみると、歩いたことのある部分は表示されていたが、歩いている人間を示す点については存在しなかった。

しばらくの間見ていたが、それでも一人も歩いていない、ということは今の時間帯ではありえないため、表示されていないのだろうという結論になった。

それで、なぜなのか、ということを考えると、おそらくはマッピングが足りないからではないか、ということになった。

もしかしたら他の可能性もあるかもしれないが、それが一番ありそうだというのは、すでにマッピングが完了している階層については表示されることからの推測である。

便利なのは間違いないが、制限もある、ということがそれでよくわかった。

それから、もらったローブについても話をする。

「こっちも、のろいは?」

「ないようだな……安心して着て問題ないだろう。中々いいもののようだしな」

「そう、なのか?」

その割には随分簡単にぽん、とくれたが。

「あぁ。魔法耐性が非常に高いようだし、刃物も通らん。まぁ、腕のいい剣士や業物の武器ならどうなるかは分からないが、通常の鎧よりは余程防御力があると思っていいだろうな」

それはまた、いいものをもらったものだ、と思う。

最初は未踏破区域をせっかく見つけて奥まで探索したのに、結局 冒険者組合(ギルド) に報告できる成果を何一つ手に入れることが出来なかったとがっかりしていたが、これからのことを考えると、便利な地図と丈夫な防具を手に入れられた、ということでむしろプラスだったのかもしれない。

そもそも未踏破区域と言っても所詮は銅級冒険者くらいまでしか行かない《水月の迷宮》である。

そこそこの報酬になる可能性はあったとはいえ、功績という意味で考えるとそこまで惜しむほどのものでもなかっただろう。

よし、今回の探索は収支的にはプラスだ。

そう思うことにした。

道中魔物と戦うことで手に入れた魔石も、 骨巨人(ジャイアントスケルトン) のもの以外はしっかりと持ってきて、ロレーヌに売却してもらって懐も温かい。

クロープに武器代のもう半額を支払っても、赤貧になるということはなさそうであった。

「……さて、最後はお前が遭遇した女性の話だが……やはり何も分からんな。私個人としては迷宮に居住施設を作ることの出来る技術が気になるが……」

これに関しては、俺も同じだ。

唐突に現れて、ほぼ何の説明もなく追い出されてしまっただけである。

あれだけで彼女が何者かわかるほど俺の察しは良くない。

とてつもない使い手だったことだけは間違いないが、今の俺を凌駕する者などそれこそ星の数ほどいるだろう。

銀級下位くらいまでなら何とか戦えるかもしれないが、それ以上が出てくるとかなり厳しくなり、金級となれば瞬殺される可能性が高い。

俺の実力などそんなものだ。

もちろん、ずっとこのまま、というつもりはないけどな。

これからどんどん強くなるのだ、俺は。

そのために必要な、成長できる肉体を今の俺は持っているのだから。

……いくら頑張っても魔物、という可能性もあるけれど。

「これから、もういちど、あのめいきゅうのさき、にいってみるつもりだ」

「追い出されたのにか? 勇気があるな」

「べつに、くるな、といわれたわけじゃ、ない。ほうこくするな、といわれただけ、だ」

この俺の言葉にロレーヌは少し考えて、

「……まぁ、話を思い出すに、そうだな。しかし詭弁だろう。明らかに来てほしくなさそうなそぶりだ」

これはロレーヌの言う通りだろう。

しかし、気になるのだ。

もう一度くらい、話を聞いてはくれないものか、という薄い希望があった。

まぁ、無理なら無理でいい。

ためしに、というだけだ。

そういうと、ロレーヌは、

「……気を付けることだな。お前の話を聞くに、その女性は普通ではない。何が気に障るか、分からん」

「あぁ」

俺はロレーヌに頷く。

それは実際に相対した俺が、最もよくわかっていることだ。

今度はいきなり殺されることはないだろうが、よくよく注意しなければならないのは間違いなかった。

◇◆◇◆◇

しかし、次の日、迷宮に向かってみると、結局それは無駄足となった。

なぜなら、つい昨日までそこにあった、未踏破区域への入り口となる通路。

それが、今日は完全に消滅していたからだ。

どこからどう見ても壁。

それだけである。

ぺたぺた触ってみても、冷たい壁の手触りしかしない。

これで、あの女性の手がかりは完全に途切れた。

一体何者だったのだろう。

心の底からそう思うも、その答えは誰もくれない。

いつの日にか、また会える日が来るのだろうか。

そんな気持ちを胸に、俺は仕方なく迷宮を後にしたのだった。