軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第348話 数々の秘密と街の状況

他にも 吸血鬼(ヴァンパイア) の技術の伝授もしてくれる、という話だったが、それについては 冒険者組合(ギルド) への報告のあとに、ということになった。

はやく行っておかないと、ウルフもやきもきしているかもしれないしな。

マルトの街自体はもう落ち着いているという話だったからそこまで時間を気にするようなこともないかもしれないが、それでも一応早めに、というのはあった。

突っ込まれてまずそうな、問題ありそうな点については概ね話も済んだし、大丈夫だろう。

ちなみにイザークであるが、彼は 冒険者組合(ギルド) にはいかないことになった。

なぜと言って、そこには今、おそらくニヴがいるからだ。

あの嗅覚である。

イザークと出くわしたら速攻、《聖炎》をぶつけてくるのではなかろうか?

リナもその危険はあるが、彼女は俺と同じで聖気に忌避感を感じない。

通常の 吸血鬼(ヴァンパイア) であれば、触れただけで消滅、とまではいかないし、通常の傷より若干遅いが、それでもすぐに回復するとのことだが、それでも軽い火傷のような状態になるらしい。

つまり、リナにも《聖炎》による判別は効かない可能性が高い。

それでもやられない方が良いに決まってはいるが……言って聞く様な奴ではないからな。

こればっかりはどうしようもない。

街にいる限り、徘徊するニヴと遭う危険というのは拭えないし、それなら一緒にいるときに会った方がまだいいだろう。

その結果どうにかなったとしてもそれはもう一蓮托生である。

「……それにしても、意外と混乱が少ないな?」

俺は 冒険者組合(ギルド) に向かう道すがらそう言った。

なにせ、あれだけのことがあったのだ。

街の人々はもっと混乱しているか、もしくは大きな悲嘆にくれているとか、そういう感じを想像していたのだ。

しかし、そんなことは見る限りない。

表情はそこまで暗くはなく、せいぜい、地震や台風が襲って来た後のような雰囲気で、魔物や 屍鬼(しき) と、冒険者たちとの戦いで崩れた建物を修復したり、がれきを撤去したりしている。

少し不思議だった。

そんな俺の言葉にロレーヌが答える。

「それについてはな……街の人たちに話を聞いてみれば分かる」

意味ありげな台詞に、俺は首を傾げつつ、その辺を歩いている人々に話しかけてみた。

「あぁ……迷宮が地下に出来たんだってな? だけど、滅多に魔物が出てきたりはしねぇんだろ? ま、今回のことは運が悪かったと思うだけさ」

「領主の方から補助金も出るからな。店の修復は出来るし、まぁいいとするぜ……魔物? 迷宮からあふれたらしいな。ま、犠牲になった奴らもいるが仕方ねぇ」

「私の夫も魔物にやられちまったよ。でも、きっとわたしらを守ってくれたんだ……そう思って頑張るしかないさ。マルトの女は強いのさ」

そんな言葉が返ってくる。

どれも今回の出来事の被害の大きさをひしひしと感じさせる台詞ばかりだが、非常に不思議だったのは……。

「……誰も、住民が魔物に変じたことを話さない……?」

そう。

迷宮が出来た後、マルトの住人の一部は魔物へと変じていた。

それを冒険者たちが悲痛な表情で倒していた。

それが事実だ。

けれど、それについて口にする住民は一人もいなかった。

悲しすぎて話したくないのか?

とも思ったが、それにしてもここまで一切出てこないのはおかしい。

そこまで考えた俺に、ロレーヌは言う。

「ま、そういうことさ。マルトの住人は、誰一人、住人が魔物に変じたことを覚えていないようだ。魔物に変じて結果的に殺された人々については、魔物に殺された、という認識になっているようだ。魔物については迷宮から溢れだしたからだとも」

「ロレーヌさんとレントさんは覚えているんですよね? それなのに不思議ですね。イザークさんも覚えていましたよ」

リナがロレーヌの言葉に付け加えてそう言う。

そうだよな。

俺もロレーヌも普通に覚えている話だ。

それなのに……。

しかしこれについて、ロレーヌは答えを持っているようだ。

ロレーヌは言う。

「イザーク殿が言うには、迷宮主となったラウラ殿の計らいだということだ。魔物の襲撃があった、迷宮が出来た、そこまでは住民も耐えられるだろうが、自分の家族や友人が魔物に変じ、襲い掛かって来た、という出来事については受け入れがたいだろう、と記憶をいじったのではないかと。力ある迷宮主にはそういうことが出来るらしいな。恐ろしい話だが……まぁ、今回のことについてはそれでよかったのかもしれん」

ラウラの……。

もちろん、彼女は意識を失っているから、それが絶対というわけではないだろうが、その可能性が高いということだろう。

他にこんなことを出来そうな存在に心当りはないしな。

街のことを想っていた彼女らしい行為でもある。

そういうことなら、いいんじゃないかと思う。

……まぁ、本当は全然良くはないだろうが。

人の記憶を街一つ分操ることが出来る。

これがどれだけ凄くて恐ろしいことなのかは少し考えればわかることだ。

でもなぁ……考えたってどうしようもない話でもある。

ラウラにその気があるなら出来てしまう訳だし、じゃあラウラを倒すのか?と言われてもそんなことする気にならない。

彼女がいるからこそ、マルトはこの程度の被害で済んだのであって、彼女がいなければマルトそのものがなくなり、ただの迷宮と化していた可能性が極めて高いのだから。

彼女にマルトを守るつもりがある限り、それでよしとするしかないことだ。

そうじゃなくなったとき、いつか俺はラウラと敵対するのか?

いや、そうせざるを得ない事態にならないことを、神に祈るしかないな。

大体そもそも勝てる気がしない。

束になって襲い掛かればどうにかなるというレベルですらないんだよな……。

「迷宮主が一体どれくらいのことが出来るのか、ラウラが目覚めたら色々尋ねてみたいところだな。聞いたからってどうにかできるわけでもなさそうだが」

俺がロレーヌにそう言うと、彼女は頷く。

「迷宮主には、思った以上に強大な力があるようだ。それとも、ラウラ殿限定なのか……何らかの制限があるのか。その辺りも詳しく聞いておきたい。でなければ何かあったときに困るからな」

制限についてはラウラも口にしていたが、どんなものなのかは分かっていない。

それと引き換えの強大な力なのか……まぁ、その辺りはすべて、ラウラが目覚めたときのことだな。

そのまま色々話しながら歩いて、俺たちは 冒険者組合(ギルド) に辿り着く。