軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第319話 数々の秘密と強化

「あとから教えるつもりだったと?」

ニヴの言葉に少年吸血鬼は頷いて、

「そりゃあそうさ……まぁ、戦うのに少し慣れてもらってから、とは思っていたけどね。流石にここまでの手練れがやってきたのは……予想外だったのさ。マルト程度の辺境都市じゃ、どれだけ強くても銀級程度。《分化》さえ使えれば、死ぬこともないし、逃げることもたやすい……はず、だったんだけどね」

そう言った。

少年の予測は間違ってはいなかっただろう。

ただ、ニヴの執着心や嗅覚がちょっと尋常ではなかっただけだ。

彼女がでなければもう少し時間を稼げただろうし、その間に今回の騒動を引き起こして逃げ去ることも容易だったかもしれない。

けれど、ニヴは来た。

執念深く追いかけ、そして的確に 吸血鬼(ヴァンパイア) を処理していく。

「……しかし、その割には、随分と余裕がありますね? ……!? そうですか、なるほど……」

客観的に見て、少年吸血鬼は今、かなり追い詰めらている。

なんだかんだ言ってはいても、もうその消耗は限界に近く、逃げようとしてもここは行き止まりだ。

それすらも厳しいはず。

それなのに、その口の端に張り付いた笑みが崩れることはない。

まるで、まるでこれが計画通りだとでも言うように……。

そのことに、ニヴは気づいたのだろう。

少年吸血鬼は言う。

「おや、分かってしまったのかい?」

その言葉に、ニヴは、

「……時間稼ぎ、といったところですか? 本来の目的は街にあったとでも言いたいのでしょう。しかし、冒険者の大半は街にいます。こんなことに何の意味が……」

「ニヴ・マリス。それは自分自身を過小評価しすぎだ。貴女さえいなければ、マルトなど僕らにとっては羊の狩場に過ぎない……というのは少し言い過ぎかな。僕も最近知ったけど、あの街はど田舎にありながら、意外なほど妙にこなれた冒険者が揃ってる。ただ、それでも僕らを捕らえて殺すことの出来る 冒険者(・・・) はいないのさ。まぁ、それでも僕だったら分からないけど、シュミニ様をどうにかできる者はいないだろうね」

微妙なところだな。

腕の立つ奴らはそれなりにいるし、 吸血鬼(ヴァンパイア) の再生能力は決して無限ではないことはさっきので分かった。

だから、ずっと戦い続ければいずれは滅ぼすことも可能だろう。

しかし、狭い迷宮の石壁の間ならともかく、外で戦うとなると……《分化》によって逃げられるんじゃないか?

ニヴなら何かしらの対抗手段を持っているかもしれないが、マルトに今いる冒険者に 吸血鬼(ヴァンパイア) の専門家なんていない。

基本的な対策なら 冒険者組合長(ギルドマスター) のウルフがやっているだろうが、的確に 吸血鬼(ヴァンパイア) の弱点を突きながら倒す、なんていうのは 吸血鬼狩り(ヴァンパイア・ハンター) でなければ厳しいからな。

冒険者は 吸血鬼(ヴァンパイア) だけを相手にしているわけではないのだ。

それだけに特化している方が珍しい。

それにしても、シュミニ、というのは先ほどの少年少女吸血鬼も口にした名で、彼らの主のものだが、この少年という訳ではなかったようだ。

親玉は、街、というわけか。

それを理解して、ニヴは言う。

「……そうですか。ま、いいでしょう。貴方を殺して、即座に街に戻れば済むことです」

「それを、僕がさせると思ってる? ……ふふふ」

そう言った瞬間、少年吸血鬼はどこかから赤い細剣を取り出し、そしてそれに魔力を込めた。

すると、細剣から不穏な力が発生し、少年に流れ込み、少年吸血鬼の体の形を変えていく。

細く華奢だったその体から、ブチブチとした音が鳴り響き、腕や胸、それに太ももが盛り上がって、その仕立ての良さそうな服を破裂させた。

「……なんだ、あれは」

思わず俺がそう呟くと、ニヴが答えてくれる。

「《 血武器(サン・アルム) 》の力です。原理としては、聖剣を持った人間が強化されるのと同じです。そして、 中級(ミドル) 以上の 吸血鬼(ヴァンパイア) が切り札としていることがあるもの……ただ、《 血武器(サン・アルム) 》自体が珍しいものですから、滅多に見られませんけどね。しかし、あれはまずい。ああなった 中級吸血鬼(ミドル・ヴァンパイア) は上級クラスです」

少年吸血鬼の姿は、今や 吸血鬼(ヴァンパイア) ではなく、半ば 鬼人(オーガ) のようになっていた。

しかし、その瞳には理性の輝きが宿っているし、動きもどことなくスマートだ。

鬼人(オーガ) とは、違うものだということが分かる。

それに、受ける圧力も大きく異なる。

あれは、危険なものだと何かが告げている。

「……勝てるのか?」

「勝ちます。が、時間が少しかかるかもしれません。今でなければ別に問題なかったのですが……レントさん。貴方はロレーヌさんと一緒に、先に街に戻ってくれませんか? 街にいるらしい 吸血鬼(ヴァンパイア) の親玉を、見つけて滅ぼしてください」

「いいのか?」

それこそ、自分の手でどうにかしたいのではないかと思ったのだが、ニヴは、

「まぁ、ここは役割分担ということで妥協しましょう。が、私はこいつを滅ぼしたらすぐに街に向かいます。それまでにまだ親玉吸血鬼が生きていたら……横からかっさらいますのでよろしく」

そう言ってにやりと笑った。

……なんだか、こいつかっこいいぞ、と思ったが言わないでおく。

それから俺はすぐに踵を返して言う

「ロレーヌ! 街に戻るぞ!」

「ああ!」

二人で広間から続く通路に向かって走ると、

「……おっと、行かせないよ?」

という声が横から聞こえた。

一瞬で距離を詰めて来た、少年吸血鬼……いや、鬼人型吸血鬼とでも言うべきものだ。

相当に力が強化されているようで、俺たちをここから出て行かせないためにその力を存分に振るうつもりらしかった。

しかし、

「そういうわけにはいかないんですよ!」

鬼人型吸血鬼に続いて、ニヴが現れ、俺たちに向かって腕を振るおうとしていた吸血鬼に対し、鉤爪を振るって広間の奥へと弾き飛ばした。

「さぁ、お二人とも! 今です!」

凄い普通に先輩冒険者やってくれてる、かっこいい、と思ったがやはり言わずに、

「また後でな!」

とだけ叫んで俺とロレーヌはその場を脱出した。

ミュリアスは廊下から広間のニヴと吸血鬼の戦いを覗いているだけなので、一緒に、と思ったが、彼女にはあとで吸血鬼の浄化をするという役割もある。

そういうわけにはいかないだろう。

彼女もそれは分かっているようで、

「お気を付けて!」

と俺とロレーヌに言ったので、手を振って俺たちはその場を後にした。