軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第31話 屍鬼への説明

「しき、か……」

屍鬼(しき) と言えば、そこそこ強い魔物であるが、あまり目にすることは無い。

ロレーヌの説明した通り、 屍鬼(しき) というのは 吸血鬼(ヴァンパイア) の眷属であるため、 吸血鬼(ヴァンパイア) が作らなければ発生しないと言われているからだ。

それを証明するように、迷宮に於いて 屍鬼(しき) が 湧出(ポップ) することはまずなく、 吸血鬼(ヴァンパイア) 関係で 湧出(ポップ) するのは 下位吸血鬼(レッサーヴァンパイア) からである。

かなり珍しい魔物なのだ。

とは言っても、誰も見たことがないとかそういう極端なことはなく、 吸血鬼(ヴァンパイア) が生息する地域では間間、確認される。

ただそれは、人が 吸血鬼(ヴァンパイア) に噛まれることによってそうなった、というだけで、もともと 屍鬼(しき) として生まれるわけではない、とされている。

「あぁ。私は 屍鬼(しき) の討伐依頼については何度か受けたことがあるからな。そのときに見たものとお前は、よく、似ている。もちろん、その肉の抉れ具合とかは少し異なるが……まぁ、個体差だろう」

ロレーヌは魔物についても詳しい学者だ。

彼女がそうである、と同定している以上かなり信ぴょう性が高い話だと思わざるを得ない。

しかし、俺は別に 吸血鬼(ヴァンパイア) に噛まれたわけではない。

それなのに、どうして 屍鬼(しき) に存在進化しているのか。

そもそも、 屍食鬼(グール) から 屍鬼(しき) への存在進化というのは、普通に行われているものなのか。

その辺りについては疑問を感じるので、俺は尋ねる。

「……そんざいしんか、で、なれるものなのか?」

しかし、これについては、ロレーヌをしてもよくわからないようだった。

ゆるゆると首を振って、

「言っただろう。存在進化については未だ研究は道の途上だと。通常のそれすらよくわかっていないのだ。かなり特殊な……おそらくは特殊だと思われるお前のような存在の進化について、そう易々と答えを出せるはずもない」

そう言った。

確かに、それはそうだろう。

本人ですらよくわかっていないのだ。

それが簡単に分かるはずもない。

が、それでは困るのである。

俺はそう思って頭を抱える。

それを確認したロレーヌはそれを見て、俺を不憫に思ったのか、続けた。

「まぁ……しかし、私もお前が迷宮に行っている間、ずっと遊んでいたわけではない。色々と考えたことはある。それくらいなら話せるが、それでもいいか?」

そんな風に。

もちろん、断るはずがない。

ロレーヌのそう言った仮説の有用さは、この十年の付き合いで十分に分かっている。

ぜひ話してくれ、と俺は彼女に頼んだ。

「よし、ならば語ろう……まぁ、お前が断っても勝手に話すのだけどな」

そう言って笑うロレーヌ。

「どこから話したものか、という気がするが……とりあえずは、お前の進化についての話から話した方が分かりやすそうだな。私は見ていないが、レント、お前、はじめは 骨人(スケルトン) だったんだったな?」

「あぁ……みせてやりたかったくらいだが、もどれるわけじゃないからな。ただ、どうみても、すけるとん、だったぞ。じぶんのほねをじぶんでみながらするせいかつは、しゅーる、だったな……」

思い出しながらしみじみと語る俺に、若干呆れた顔をするロレーヌだが、すぐに気を取り直して続ける。

「それで、そこから 屍食鬼(グール) になった、と」

「ああ。ぐーるのすがたは、ろれーぬ、も、みてるからわかるよな」

「あぁ……最初に見た時は妙な気分になったが、興味深くも思った……。と、私の感想はいいか。それよりも、進化についての考察だ。お前、 骨人(スケルトン) から 屍食鬼(グール) になるのがそもそもおかしい、とは思わなかったのか?」

「ん……?」

ふっと投げかけられた質問に、俺は首を傾げる。

ロレーヌはそんな俺の様子に、質問の意味が理解できていないな、という目を向けて、説明する。

「つまりだ。存在進化、というのは、簡単にいうなら、ある魔物が、より上位の存在に変化する、という現象のことを言うだろう。本当は違うかもしれないが、一応そのように定義されている。ここまではいいな?」

「あぁ」

「それで、よく考えてみろ。 骨人(スケルトン) の上位存在とは、 屍食鬼(グール) だけなのか?」

「ええと……」

言われてみると、少し奇妙な感じがした。

俺はこの部屋にある研究書や魔物図鑑などを読んで、 骨人(スケルトン) は 屍食鬼(グール) になる、という記述があったから、別に大した疑問を持っていなかったが、改めて考えると……。

なにせ、 骨人(スケルトン) には、そもそも色々な上位存在がいる。

ついこの間戦うことになった 骨巨人(ジャイアントスケルトン) もそうだし、もっと弱いものを考えると 骨騎士(スケルトンナイト) や 骨兵士(スケルトンソルジャー) などもいる。

骨人(スケルトン) から進化するのなら、それらになるのが常道、というか、自然な気がする。

いや、そもそも魔物の存在進化って自然なのかという新たな疑問も生まれてくるが……まぁ、それは今は置いておこう。

とりあえず、思ったことをロレーヌに言うと、彼女はしたり、と頷いた。

「その通りだ。確かにいくつかの研究書には 骨人(スケルトン) から 屍食鬼(グール) へと存在進化する こともある(・・・・・) と書いてあるのは事実だが、それが絶対という訳でもないのだ。というか、そういう現象を見たことがある者がいるというだけで、それが本来的な存在進化なのか、それとも例外なのかすら分からんというのが正直なところだな……」

「つまり?」

「……ありていに言えば、何も分からん、ということだな」

ありていに言いすぎだろ、と思ったのが伝わったのか、ロレーヌは、続けた。

「……しかしだ。今回お前が 屍鬼(しき) になったということも含めて考えると、こうかもしれない、という推測はなりたつ」

「それは?」

「魔物の存在進化は、その魔物がなりたい、と考える方向に進むものではないか、ということだ」

それは……わからないでもない話だった。

そもそも、俺が 骨人(スケルトン) から 屍食鬼(グール) になったとき、俺はそうなりたいとずっと考えていた。

屍鬼(しき) になったときも……見た目上は人間に見える吸血鬼になりたいと思っていた。

そういうことだろう、というわけだ。

ただ、疑問があるとすれば……。

「……なぜ、ぐーる、から、しき、になったんだ? ばんぱいあ、になってもよかったのに」

そもそも俺はそうなりたいと思っていたのだから、なれるものになれるというのならそうなるべきではないか。

しかし、これについて、ロレーヌは明確な回答をくれる。

「それは 冒険者組合(ギルド) の 階級(ランク) などと同じなのではないか? どんなに実力があっても、いきなり鉄級から金級まで飛び級は出来んだろう。そもそも、実力がなければなれないしな」

そのたとえに、俺は、

「……だんかいを、へる、ひつようが、ある……?」

「今のお前の状態を見るに、そうなのではないか、と思う。サンプルが少なすぎて本当にただの仮説だがな。一応の裏付けとして、最近行われた 小鼠(プチ・スリ) の進化実験があるが」

小鼠(プチ・スリ) とは、どこにでもいる小さな鼠型の魔物で、捕まえるのも容易なものだ。

場所によって様々な属性を帯びた上位個体がいることでも有名な魔物である。

それで実験が行われたことがあるらしい。

ロレーヌは続ける。

「簡単な実験だ。数匹の 小鼠(プチ・スリ) をカゴに入れて、火山地帯や水辺、森林や、洞窟などで育てる、そんな実験だ。その結果だが、それぞれ面白いことになったようだ」

詳しく聞くと、 小鼠(プチ・スリ) たちはそれぞれ、 火鼠(フゥ・スリ) 、 水鼠(オー・スリ) 、 風鼠(ヴァン・スリ) 、 土鼠(ソル・スリ) に進化していたらしい。

どのカゴも、一匹ずつしかいなかったようだが、その理由は今の俺には分かる。

小鼠(プチ・スリ) 同士で戦い、お互いの力を吸収しあってしまったからだろう。

しかしその結果として、存在進化が確認できたわけだ。

ロレーヌは言う。

「もちろん、これだけで私が言ったような話にはならないだろう。ただ環境に適応した、ということかもしれないからな。しかしそれが受動的に進化した、というわけではなく、そうなりたいと魔物自身が考えたことによって起こったのなら? 論理の飛躍かも知れないが、お前のことを考えるに、その可能性はあると思った。なにせ、お前が水月の迷宮の環境に適応するために 屍食鬼(グール) になった、とは説明しがたいからな。それならば、意思に基づいて、の方がまだ理解できる。事実として、お前は 屍食鬼(グール) になろうと考えてた。説得力はなくはないだろう……もちろん、絶対ではないがな」