軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第278話 数々の秘密と試合直前

「さて、と。この辺りでいいか?」

さくさくとハトハラーから北の森に入り、だいぶ歩いてきて足を止めたカピタンがそう言ったのは、もうそろそろ昨日やってきた砦に辿り着くかな、というくらいの場所だった。

とは言え、完全な森の中、というわけではない。

広場と言っていいくらいには開けていて、今日、森に来た目的を考えるとちょうどいい空間がそこにはあった。

つまりは、試合だ。

俺と、カピタンの。

もちろん、殺し合いをするわけではない。

真剣を使った危険のある試合だが、致命傷になる前にやめるのだ。

もしもの場合が絶対にない、とは言わないが、かなり可能性は低いだろう。

俺は普通の致命傷を負ったところで死なないし、カピタンはそれくらい避ける技術がある。

仮に重傷を負っても、俺の聖気によって傷の治癒は可能だ。

どこまで治せるか、限界は分からないが、即死しなければ全力で治癒すれば命を取り留めるくらいのことは今なら出来る、と思う。

……まぁ、カピタンと戦って、どれだけ余力が残るのかと言う気もするが……。

「ああ、そうだな。しかし、森の中か……俺より随分とカピタンに有利な気がするぞ」

俺がそう言うと、カピタンは笑って、

「そりゃ、どうしようもないだろ。そもそも、お前だって狩人の修行はしたんだ。冒険者としても森には何度となく潜ってるだろう? 有利不利はないと思うぞ」

と返してくる。

まぁ、確かに正論だ。

正論なのだが……やっぱり俺の方が不利だ。

あの人はこのハトハラーの北の森を知り尽くしている。

地の利は完全に向こうにある。

とは言え、俺は俺で色々と隠し玉があるわけで、それを考えると事前の手持ちの札はお互い同じくらい、というところだろう。

いかにカピタンが達人だとは言っても、俺が関節ぐにゃぐにゃの軟体動物的な存在だとは想像していまい。

そこに勝機が……あるかな?

あったらいいなぁ……いやいや、弱気になってはいけないぞ、レントよ。

と、自分で自分を励ましつつ、とりあえず何気ない風を装って周りを観察する。

何の変哲もない森だ。

ハトハラー周辺の浅い森と比べると、木々の大きさや生え方が異なるが、誤差の範囲だろう。

「修行したと言ってもな……数十年となく森で生きて来たあんたが相手となると……昔だって一度も勝てたことないじゃないか」

俺はカピタンが適度に油断をしてくれないかな、と考えてそう言ってみるが、

「それは油断でも誘ってるのか? お前だって何か ある(・・) んだろ? 以前のお前と同じとは思わないぜ」

すぐにそう言われてしまった。

舐めてくれればな。

色々と隙が生まれるかと思ったのだが、その期待はしない方がよさそうだ。

卑怯だって?

勝てばいいんだ。

というのは言い過ぎかもしれないが、負けるよりかはずっといいからな。

油断を誘えるなら誘っておく、隙が見えたならそこを叩く。

そう教わって来た。

誰にって、そりゃ、カピタンにだ。

つまり、俺のやり方なんて御見通し、というわけだな。くそ。

仕方がない。

今日は正々堂々頑張るしかない……。

「じゃ、そろそろいいかい? 審判は私が……と言いたいところだが、このところ老眼が辛くてね。はっきり見えるかどうかわからないから、ロレーヌに任せることにする。いいかい?」

目をしょぼしょぼ擦りながらガルブがそう言った。

俺とカピタンは、あんたのどこが老眼なんだろうか、という顔でガルブを見たが、睨み返されたので二人そろって目を逸らす。

ここに来る途中だって、相当遠くに見える鳥を指しながらその種類と色合いと素材の用途をロレーヌに説明してたくらいなのに。

あれで老眼などと言ったら本物の老眼の方に失礼である。

しかし面と向かってそういう度胸は俺にもカピタンにもなかった。

「俺の方は構わん。レント、お前もいいよな? お前に有利になるかもしれないし」

カピタンがそう言ったので、俺は頷く。

「ロレーヌは別に俺に肩入れして不公平な審判をしたりなんてしないぞ。《結果》に対してシビアなんだよな……」

それはおそらく職業柄だろう。

学者であるから、そこを緩く見ることはない。

それがどんなものだってだ。

ロレーヌが俺に肩入れするとしたら、結果は結果として受け入れたうえで、ただその心情だけで、ということになるだろう。

俺が魔物であることも別に否定せずに、その上で受け入れたのだから。

そう言う人間である。ロレーヌは。

「それを聞いて安心したな。じゃあ、遠慮なくやらせてもらうが……いいよな?」

カピタンはなぜかその質問を俺ではなくロレーヌにする。

「全く構いません」

ロレーヌは一言、そう答える。

これにカピタンは不思議そうな顔で、

「レントが必ず勝つと信じているのか?」

と尋ねた。

しかしロレーヌは首を振って、

「いえ、そうではなく……勝っても負けても、私にとってレントの価値は変わらないので……」

と少し控えめに言った。

カピタンはそれを聞いて笑い、

「なるほど、熱いな。カミさんと出会った頃を思い出すぜ……」

などと言い始めたので、俺は、

「おい、何の話を始めてるんだ。やるぞ」

「お前、せっかく人が良い思い出に浸ってるときにそりゃねぇだろ……」

「あんたと奥さんの出会いの話は昔から百回は聞いてるよ……まったく」

「お? そうだったか?」

普段は割と冷静だし、狩りのときは頼れる上司感を出してくれるカピタンだが、酒が入ると徹底的にダメだ。

延々とその話をする。

最近だと奥さんのことよりも子供の話にシフトしてきているらしいが……。

確かにこないだの宴のときはまさにそうだったな。

俺はたまに帰ってきたときに聞くだけで済んでいるが、カピタンの部下たちは大変だろうなと同情してしまう。

そんなことはどうでもいいか。

カピタンもそう思ったのか、

「……ま、じゃあ始めるか。構えろ、レント。すぐにやられたりするなよ?」

そう言って、腰から剣鉈を引き抜き、構える。

逆手に持っているな……。

順手で持つこともあるし、どちらでも自由に使える人だ。

戦い方を学び、その基礎については俺も叩き込まれたとはいえ、それも昔の話である。

あれから全くカピタンの戦い方が変わっていない、とは思えない。

動きをよく注視して戦わなければ。

そう思いながら俺は、カピタンにいう。

「それはこっちの台詞だ。行くぞ!」