軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第263話 王都ヴィステルヤと勘

事前に依頼料は全額俺たちに回してくれる、という話をしていたから別に驚きはしないが、本当にそうされるといいのかな、という気分にはなる。

だから俺は尋ねる。

「おい、いいのか? お前が出したお前のための依頼みたいなものだとは言え、依頼料を出してるのは服飾店の方なんだし、お前にももらう権利があると思うんだが」

「まぁ、それはそうかもしれないけど、最初に約束したしね……色も付けるって言っちゃったから、もう一枚追加しよう」

そう言って更に金貨一枚を重ね、全部で三枚になった金貨をずい、と俺たちの方に寄せた。

俺はロレーヌと顔を見合わせるが、ロレーヌは、「まぁ、こうまで言うのだからもらっておけばいいんじゃないか?」という顔をしている。

オーグリーの顔を見つめてみるが、その表情に乱れたところはなく、珍しく真面目な感じだ。

これは断ってもダメだろうな、と思い、俺は素直に金貨三枚をもらうことにする。

ちなみに、今回採取して来た《 火精茜(かせいあかね) 》の依頼料としてこれが適切かと言えば、結構高いということになるだろう。

マルトで依頼すれば銀貨一枚でお釣りがくるからな。

鉄級か銅級冒険者が持っていくような依頼だから当然だ。

マルトでたくさん依頼を出して、王都に持ってくれば差額で儲けられそうな気もするが、類似品と言うか、代替品があるためにそううまくもいかない。

オーグリーのように特殊な理由でどうしても欲しい、という場合以外にはあまり求められない品なので、高いは高いが持ってきても売れないだろう。

そういうことを考えると、まぁ、適切な値段かもな、と思わないでもない。

依頼をする方も、される方も、見つけにくい特殊な依頼な訳だから。

「じゃ、遠慮なく……。ただ正直高すぎる気がするから、ここの払いくらいは俺が持つことにしよう」

もちろん、今もらった金貨三枚から出す。

オーグリーもそれくらいは別にいいかなと思ったようで、嬉しそうに、

「お、ありがたいね。飲み物だけじゃなく食事も頼んでいいかい? 実はここは料理も美味しいんだ」

そう言って来た。

ちなみに俺たちが飲んでいる飲み物は、アローサルと呼ばれる嗜好品だ。

カヅキグサと呼ばれる植物の根をすり潰したものに、ロアという乾燥、焙煎した豆から抽出した液体を入れて混ぜたもの。

この抽出する器具がかなり特殊な形をしていて、扱いも難しく、店によってかなり味に違いが出る。

その意味で、この店は当たりと言う訳だ。

まぁ、拘らなければどこでもいいんだけどな。ヤーランでは比較的どこでも飲まれているもので、ヤーラン国民なら拘る事が多い。

他の国の人間からすると、苦くてすっぱくて飲めたもんじゃない、となるようだが、ロレーヌは割と普通に飲んでいると言うか、中毒に近いくらいよく飲んでいる。

家にも抽出器があったはずだ。

個人で持つのにはお高い品なのに、それだけ好きと言うことだろう。

苦手な人はミルクやハチミツを混ぜたりする。

俺?

俺はもちろん混ぜるさ。苦いんだもん。

オーグリーは全く混ぜないでがぶ飲みしているようだが……。

「好きにするといい。俺たちも何か頼もうかな……」

そう言うと、ロレーヌも頷いて、

「そうですわね。ちょっとお腹も減りましたし」

と言ったので、店主を呼んで適当に作ってもらうことにした。

◇◆◇◆◇

「……おっと、もうだいぶ時間が経ってしまったね。そろそろ僕は行かなければならない」

外を見ると、だいぶ太陽の位置が低くなっていた。

それに気づいてオーグリーがそう言ったのだ。

食事も粗方食べ終わって、なんとなく雑談をしていたが、やはり割と俺はこの男と気があうのか、話は尽きなかった。

同じソロ同士、酒を飲んだことも何度もあるから、気安く感じる。

まぁ、オーグリーからしてみればほぼ初対面の人間だろうからなれなれしい奴、と思ったかもしれないが。

「そうか。じゃ、出るか」

「そうだね、レント。約束通り、ここの払いは頼むよ」

「おぉ、分かった……ん?」

返事をしながら、何かおかしくなかったか、今。

と思い、じゃらじゃらと見ていた財布から顔を上げると、笑顔のオーグリーと、何してるんだ馬鹿、と言いたげなロレーヌの顔がそこにはあった。

「……やっぱりか。ということは、君はロレーヌ?」

オーグリーがロレーヌの顔を見ながらそう尋ねた。

ロレーヌは少し考えたようだが、もう意味がないと思ったのか、

「……あぁ。そうだな。全く……いつ気づいた?」

オーグリーにそう言った。

「強いて言うなら今だね。確信はまるでなかった。ただ、剣の振り方がレントだったから……戦っているところを見れなければ、気づかなかったと思うよ」

「剣の……こいつの剣術はそんなに特徴があるのか?」

「いや、むしろあんまり特徴がないよ。そうじゃなくて、なんていうかな、綺麗なんだよね。お手本のように。まっすぐ敵の体に入っていく感じ。あれはひたすらに練習したんだろうなって感じさせるもので……それが特徴と言ったら特徴かな。それで、君たちはまたなんで王都に、変装してやってきたんだい?」

なんと言っていいものか、迷った。

が、もう今更だろう。

ただ、転移魔法陣のことは言えないので、微妙な説明になってしまうが。

「……色々と事情があって、ここにいることを記録に残したりできないんだよ。王都に来た理由は……強いて言うなら観光かな?」

王都正門で、適当に門番に言った台詞だったが、間違いでもない。

ガルブ達に唐突に連れて来られて、何をしているかと言えば概ね観光である。

あとは、 冒険者組合(ギルド) 本部の下見もしたしな。

「その色々が知りたいんだけど……ま、冒険者に根掘り葉掘り聞くのはルール違反か。君たちがここにいることは黙っていればいいんだね?」

オーグリーは別に説明せずともその意図を理解してそう言ってくれる。

まぁ、あの騎士とお姫様に出会った時もその辺りは配慮してくれたのだからさもありなんという感じではある。

「そうしてもらえるとありがたい」

俺がそう言うと、

「わかったよ。心配なら魔術契約書でも使うかい?」

そこまで言ってくれるが、ばれたのは俺の不注意だ。

これからは剣の使い方ももっと注意しよう、と思いながら俺は首を振って、

「いや、お前を信用するよ。ただ、ばれると最終的にお前の身も危なくなるかもしれないから、本当に黙っておいた方が良いぞ」

俺たちがここにいる、ということから転移魔法陣を使ったという事実に辿り着くのは相当難しいと思うが、もしそれが事実だとわかったら何が何でも手に入れたい、と思う人間は少なくないだろう。

手段も選ばないに違いないし、そうなると危険なのは俺たちの身だけではない。

断片でも情報を抱えているオーグリーもということになる。

それを聞いて少し、オーグリーも恐ろしくなったらしい。

「……やっぱり魔術契約書を使おう。いいやつを使えばうっかりミスも防げるんだったよね、確か」

そう言ってきたので、とりあえず俺たちは魔術契約書を手に入れるために歩き出したのだった。