軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第26話 水月の迷宮での相談

「……本気で言ってるのか? そいつはあんたが倒した魔物から出た魔石だろ。俺がもらうのは……」

本当は喉から手が出るほど欲しいだろうに、逡巡したように言う男。

俺は男に言う。

「……む、じょう、けん、というわけ、で、は、ない、ぞ」

その言葉に男はなるほど、という顔をした後、

「だが……俺の事情は話しただろう。あんたのような強い冒険者に、何が出来るとも思えねぇ」

確かに、それはその通りだ。

俺が強いかと言われると、まぁ、生前よりは強いだろうがそこまででもない。

ただ、男から見ればそう見えるのは理解できる。

そして、そんな俺に何も出来そうもない、と考えることも分かる。

男は、彼の申告を信じる限り、借金まみれであり、かつ、冒険者としての腕も酷い。

俺に何か出来るような財産が、経済的にも肉体的にもあるわけではない、ということだ。

ただ、それは男から見た場合の話だ。

俺から見れば、男はただ、人間であるというだけで十分な価値がある存在である。

俺は、 不死者(アンデッド) だ。

街中ではそれほど自由には動けない。

店に寄ることすら、中々に厳しく、それを代わりにやってくれたりするなど、何らかの協力をしてくれる人間というのはいくらいてもいすぎることはない。

つまり、俺はこの男に、都市マルトにおける協力者となってほしい、と考えているのだ。

ただ、俺の事情を細かに説明するには流石に信用が足りない。

俺が 不死者(アンデッド) であるとは言った場合どこかに報告しないとも限らないし、そうでないにしても、男自身にもいずれ迷惑がかかる可能性もある。

だからそういうことについては言わずに、ただ、色々と手伝ってもらえたら、と思っている。

俺は言う。

「べつ、に、むずか、しい、ことを、して、ほしいわけ、じゃ、ない……」

「じゃあ、何を……」

「おれは、この、みため、だ。ろくに、みせや、ぎる、ど、にはいれ、ない……おま、えに、かわりに、かい、ものやほう、こくを、たのみ、たい……」

そう言って、俺は手袋を外し、腕を見せた。

体全体や、顔を見せるというわけにはいかないが、これくらいならまだセーフだろう。

腕を失っているわけではなく、ただ、おそろしく枯れ切っているだけに過ぎない。

これくらいなら、冒険者にはたまにいる。

ただ、男はまだ冒険者としては駆け出しとも言えないくらいの初心者だ。

今の俺の腕のようなものを見るのに慣れていないようで、少し引け腰になる。

しかし、目をそらさない辺り、俺を魔物だと疑っているような感じはない。

純粋に、ただの古傷だと思っているようで、思惑通りにいっていることに安心し、続けた。

「いぜん、まものに、やら、れた。こえ、も、そのとき、のこうい、しょう、だ……」

「……そうか。やっぱり、強い冒険者ってのは、危険が段違いなんだな……」

軽い気持ちで冒険者になってはみても、その危険性については深く考えたことは無かったのだろう。

いや、あまりにも経済的に切羽詰っていて、考える余裕すらなかったのかもしれない。

俺の腕の惨状に、冷や水を浴びせられたような気分になったようだった。

男はそれからしばらく考えて頷き、

「……分かった。それくらいなら、俺にも出来る。しかし、本当にそれだけでいいのか? 言っちゃなんだが、あんまりにも俺に都合が良すぎると思うんだが……」

「それ、は、おまえ、のじじょう、だ……とは、いえ、そう、だな……もう、ひとつ、じょう、けんを、つけ、ようか……」

男の言葉に頷きながら、新たな条件を付けくわえようとした俺に、男はやはりな、という顔をして、少しだけがっかりしたような顔をした。

やっぱりうまい話には裏があるのだ、当たり前だろうな、とでも考えているのだろう。

しかし、俺の言葉は男のそういう期待を裏切るものだった。

「しゃっきん、をかえし、た、あかつきには、おまえ、の、みせ、で、いつ、でも、ただ、でのみくい、でき、るけんり、をつけ、てくれ……それだけ、でいい」

男は、最初、俺が言った台詞を飲み込めないようだったが、徐々に頭に染みわたってきたようで、それからだんだんと苦笑いのような表情になって、

「……あんた、本気かよ……。馬鹿なんじゃ、ねぇのか……」

「なに、がだ?」

「そんな……そんなもんで、金貨十五枚以上になりそうな魔石をくれようとするんじゃねぇってんだよ!」

「だめ、か?」

「だめなわけ、ねぇだろ……いくらでも食ってくれ。俺は……今度こそは、店を潰さねぇように、必死で働くからさ……ありがとうよ……旦那」

そう言った男の顔は笑顔だった。

ただ、その目は赤く、次から次へと涙がこぼれていて、どうやらいいことをしたようだな、と思った俺だった。

◇◆◇◆◇

さて、巨大な魔物に男の借金と、色々と解決したところで、これからどうするかを男と相談した。

と言っても、ほとんどその内容は俺の中で決まっていたが。

つまりは、とりあえず迷宮を出て、街に戻ろう、ということだ。

なぜなら、男はもう、迷宮に潜った目的を達成できるだけの魔石を手に入れたわけであるし、これ以上身を危険に晒して迷宮に潜る必要がない。

俺の方としても、男を連れ歩きながら危険な迷宮をこれ以上歩くのは流石に厳しいと思った。

通常骨人(ノーマルスケルトン) やスライム、ゴブリン程度の魔物しか出てこないのであれば別に問題はないのだが、必ずしもそうではないということが証明されてしまったからだ。

もう一度、 骨巨人(ジャイアントスケルトン) クラスの魔物が出たら、俺の安全はともかく男の命について保障することは出来ない。

だから戻ろう、という話をしたところ、男としても特に反対する理由もないようで、賛成してくれた。

ここで戻る手段についても一応、問題となるが、実はこれについては男が気絶している間に解決していた。

というのも、あの 骨巨人(ジャイアントスケルトン) を倒した直後、ここに転移してきたときにはなかった転移魔法陣が現れたからだ。

どこにつながっているのかは一応、問題だったが、出現した場所が、俺たちが転移してきた地点であることから、おそらくはそこから戻れるだろう、と判断した。

仮にそうでないとしても、他に進める通路などは見えないし、乗るしかないというのが正直なところではあったが、実際に使ってみた結果、問題なく元の場所に戻れたのでそのまま帰ることにしたのだった。

帰路は、来るときよりも大分楽に進んだ。

それは、男の実力というか、度胸というか、腹の据わり方が来る時とは完全に変わっていたからだ。

強力な魔物と戦ったから、というのと、俺がそれなりに最低限の技術を教えたから、というのがあって、魔物と出くわしても冷静でいられるようになり、自分のすべきことを理解できるようになったためだ。

完全に一対一で魔物と戦い、勝利を収める、とまで出来るほどではないが、襲って来た魔物から距離を取りつつ、逃げる機会をうかがう、くらいは出来るようになったのだから十分な進歩だろう。

このまま、それなりに経験を積んでいけば一、二年あれば銅級くらいにはなれそうだが、男にはその必要はないだろう。

ただ、俺の代わりに依頼をとってもらったり、報告してもらうこともあるので、それなりの戦闘力は身に着けておいてもらいたいのも正直なところだ。

それでも、ある程度以上の難易度の依頼についてはロレーヌに報告してもらうつもりでいるから、せいぜい、一人で森や迷宮の浅い層にいけるくらいのそれでいいのだが。

◇◆◇◆◇

「……ふぅ。やっと出れたな。なんだかこの空気、久しぶりな気がするぜ。そんなに経ってないのに懐かしさすら感じる」

男は迷宮の外に出て深呼吸をし、そんなことを言った。

男の気持ちは分かる。

なにせ、あと一歩で死んでいたくらいの濃密な経験をしたのだ。

安全な場所に出て、緊張の糸が切れたのだろう。

一応、迷宮の外とは言え、魔物が全くいないという訳でもなく、その意味では気を抜くべきではないが、今日のところは見逃しておいてもいいだろう。

ただ、軽く釘だけ刺しておくに留める。

「……まち、に、もどる、までが、めい、きゅう、たんさく、だ、ぞ……」

そう言って歩き出すと、男が慌てて、

「あ、待ってくれよ、旦那。分かってるって!」

その声に、なんだか久しぶりに冒険者として活動している気がして微笑みたくなるが、俺の乾いた肌はひきつって、笑うことは出来なかった。

いずれ、人間らしく笑えるようになりたい。

そんなことを思いながら、迷宮近くまで来る辻馬車の停留所まで進んだのだった。