軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第235話 山奥の村ハトハラーとお掃除

それから宴は俺たちが戻ったあと、しばらくして終わった。

ロレーヌの幻影魔術と、それを見た村人たちによる俺に対する質問攻めが凄かった。

マルトが人外魔境と認識された気がする。

……今更か。

改めてもう一度見た、ロレーヌ作の俺対タラスクは力作であるのは間違いなかったが、やっぱりここまでじゃないだろ……と言いたくなるような出来だったのは言うまでもない。

リリがあれくらい強くなれるように頑張る、とか言っていたが、あれくらい強くなったらその時点で俺は越えられている。

やめてほしい、と心底思った。

◇◆◇◆◇

「……こっちはあまり人の手が入っていないのだな?」

宴の次の日、ロレーヌが村の西端を俺と一緒に歩きながら、そう言った。

歩いているのは、道と言うか下草の生えまくった、まさに手入れのされていない“元”道である。

森に近く、危険であるため、こちらにある家々はかなり前にうち捨てられてしまったために、こんな状態なのだ。

だから厳密にいうと、村というより村の少し外と言うことになるだろうが、たまに子供が度胸試しに来たりすることもあるので、必ずしもそうとも言えない微妙な位置関係にある。

まぁ、森に近いと言ってもそれなりに開けているので、雑草を処理すれば普通に住めるところなんだけどな。

「この辺りは俺が子供の頃からこんな感じだよ。昔、そこの森から魔物が出てきて村人を何人か襲ったことがあったらしくてな。そのときに廃棄されたって話だ」

俺が生まれるより、だいぶ前の話で、それこそガルブが若いころくらいだと聞いたことがある。

その時代を知っているのは、ガルブを初めとする村の古老たちだけだ。

「少し中心から外れただけで魔物が、か。おっかない土地だな」

「田舎なんてどこもこんなものだ」

ロレーヌの台詞は、魔物なんてほぼ出ない都会の人間のものだ。

ハトハラーは流石に田舎過ぎるにしても、他の土地にある村も、多かれ少なかれ、常に魔物の脅威にさらされている。

大きな外壁が町全体を包み、また門を衛兵や騎士団が守っているような都会とは環境が違うのだ。

それなら街に住めばいいだろう、と言いたくなるが、それは色々な事情があって無理な相談なのだ。

まず、住居を構えなければならないが、そう言った街の住居と言うのは家賃が相当に高い。

したがって、本気で住むことを考えると、そのために十分な収入を得られる仕事が必要だが、村人の教育水準で雇い入れてくれる街の職場なんてあまりないものだ。

村人が街に住もうとしたら、大体そこで詰む。

それでもどうしても、と考えると最終的に冒険者に辿り着いてしまう訳だが、これが最も厳しい選択で、何かしらの戦闘能力がなければすぐに死ぬ。

魔力や気なんて、そうそうみんな持っているというものでもないし、そうなると村人には街に移り住む手段などほとんどなくなるわけだ。

それ以外にも、父祖の土地を離れたくないとか、材料などの関係でそこでしか作れない品を作っているとか、近くにある労働場に通っているからここでないとだめだとか、そういう諸々の理由があって、村人は村に住んでいるわけだ。

こればっかりは、危険でもどうしようもないということだな。

「……確か、この家の裏だ」

俺はそう言って、一軒の廃屋の前で立ち止まる。

ロレーヌはその廃屋を見上げ、

「……何の変哲もない廃屋……のようだな」

そう言った。

俺はそれに、

「そりゃそうだろ。何があると思ってたんだ?」

と尋ねる。

ロレーヌは、

「何かを祀った祠が裏にあるわけだから、そう言った特殊な役割を背負った家なのかもしれない、と思っていた。ま、気のせいだったようだが」

「なるほど、言いたいことはわかるけど……そうだったら流石に俺も気づいてる。おっと、こっちだな……」

以前、俺がしばらくの間通っていたとはいえ、それから何年も経っている。

帰省した時もあまり見に来ることは無かった。

したがって通り道なんてものはなく、下草をかき分けて進む。

そして、

「あったあった。意外と綺麗だな」

俺がそれを発見して言うと、ロレーヌは、

「……これを綺麗と言い切るとは、レント、お前の頭はいったいどうなっているのか……」

と疑わしそうな目で俺を見る。

確かにそう言いたくなる気持ちは分かる。

俺たちの目の前にある祠、それは、形こそ保っているものの、鬱蒼と生い茂る蔦に巻き付かれ、また雨風に浸食されており、さらに鳥などの糞などによって汚れていた。

お世辞にも綺麗とは言えないだろう。

しかしだ。

「……俺が昔、見つけたときよりはずっと綺麗だぞ。形を保っているだけな」

「そんなにひどかったのか?」

「ああ。屋根部分は完全に腐食してたし、本体部分だってこう、支えになるところも腐食して糸一本分くらいの太さで繋がっているような有様だったからな。ちょっと触ってバランスを崩したらそのまま倒壊しかねない状態だった」

「お前はそれを直したわけだ」

よくもまぁ、そんな面倒くさいことをやったものだ、という表情のロレーヌである。

今にして思えば、俺もよくやったものだな、と思う。

「とりあえず、直すにしても原型がわからないとどうしようもないから、丁寧に分解することから始めたよ。で、そこからはダメそうな部分は取り替えて……っても、ほとんどダメだったから新しく建てたに近いけどな。それでも、まだしっかり使える部分もないではなかったし、柱の部分も少しは生き残ってたからな。なんとかって感じだったよ」

「それでも十年手入れをしなければ、こうなるか……。ま、十年放置でこれくらいなら、確かに綺麗な方かもしれないな」

と、最後にはロレーヌも納得する。

「そういうことだ。よし、それじゃあ、ロレーヌ。掃除するぞ」

「……む?」

俺の発言に首を傾げたロレーヌに、魔法の袋に入れておいた掃除用具を取り出して渡す。

「ロレーヌは水を魔術でこんなかに溜めてくれ。俺は蔦を切っておくからさ。夕方までに終わればいいな」

かなり強引だが、ロレーヌも祠の様子をもう一度見て、理解したらしい。

「……まぁ、お前が生き残るのにかなりの貢献をしている力を与えてくれた存在だ。とりあえずは、感謝の気持ちを示すところから、というところか……」

そう言って、ため息を吐きながらもロレーヌは掃除用具を手に取ったのだった。